第71話 戻りつつある記憶
チュンチュン…
鳥のさえずりで私は目が覚めた。
「…」
ベッドに寝そべったまま黄金色に輝く天井を見つめている。
「…やっぱり嫌だわ。この部屋…」
ポツリと言う。そして昨夜見た夢を思い出していた。今迄の私は夢を見ていた自覚はあるものの、いつも目が覚めると内容をきれいさっぱり忘れていた。しかし、今日の私はいつもとは違う。何故なら夢の内容が頭にばっちり残っているからだ。
ムクリと起き上がり、ベッドから下りるとすぐに私は着替えを始めた―。
****
朝7時―
カチャカチャカチャカチャ…
兄2人と父、そして私を交えての4人での朝食の席。
「「…」」
2人の兄は相変わらず警戒心むき出しで私を見ている。
「リディア。制服を着ているところを見ると…やはり今日から登校するのだな」
父がベーコンを切り分けながら尋ねてきた。
「はい、もう何処も具合が悪いところはありませんので登校します」
私はニッコリ笑みを浮かべて父を見る。すると2人の兄は互いに目配せしあうと、不意にシリウス兄様が私に声を掛けてきた。
「ユリア、もうすぐお前の誕生日だろう?プレゼントは何が欲しい?」
「おいっ?一体何を…」
父が驚いた様子でシリウス兄様に声を掛ける前に私は返事をした。
「いやですね〜…何をおっしゃっているのですか?私の誕生日は8月にきたばかりじゃないですか?お忘れですか?」
「な、何?!」
「記憶が戻ったのかっ?!」
アレス兄様とお父様が交互に言う。
「はい、お陰様で…少しは記憶が戻って参りました。そういえば8月の誕生日の時は何もプレゼントの話すらされませんでしたけど…ひょっとすると今から頂けるのでしょうか?お兄様方?」
私は2人の兄を交互に見た。
「あ、ああ!そ、そうだな。先月は忙しくて里帰り出来なかったからユリアの誕生日を祝ってやれなかったからな?う、ゲッホ!ゴホッゴホッ!」
紅茶を飲んでいたアレス兄様は余程焦っていたのか激しくむせた。
「な、何が欲しいんだっけ?以前は何が欲しいと言ったか覚えているか?」
シリウス兄様はまたしても人を試すような事を言う。
「ええ。前回は確か私の髪色、ストロベリーブロンドに似あうピンクダイヤモンドのネックレスが欲しいと言いましたが…欲しいものが変わりました。書きやすい万年筆が欲しいです。今使っている万年筆はなかなか文字を書くにくいので…」
特に欲しいものが無かったので、無難なところで万年筆をお願いした。
「な、何?万年筆でいいのかっ?それにしても前回リクエストしていた誕生日プレゼントの内容を覚えていたとは…やはり本物のユリアなのだな?」
シリウス兄様が私をじっと見つめる。
「ええ、そうですね。でもまだまだ思い出せていない部分はありますが…私は本物のユリアですから」
そして私はニッコリ笑った―。
8時―
学校に行く為に数名の使用人達に見送られ、馬車に乗り込もうとした時…。
「待ちなさいっ、ユリアッ!」
父がやって来た。
「お父様?どうされたのですか?」
「いや、本当に学校に行くのかと思ってね…」
今まで一度も見送りに来たことの無かった父が私に言う。
「ええ、勿論行きます。お父様には高い授業料を支払って頂いているのですから、私も勉強を頑張ろうと思ったんです」
「そ、そうか…?だが心を入れ替えてくれたようで何よりだ」
父は照れくさそうに笑った。
「しかし、具合が悪ければ早退して来るのだよ?」
「はい、分りました」
そして私は父と数名の使用人達に見送られ、馬車に乗り込んだ。
「…」
ガラガラと走り続ける馬車の中で私は窓の外をじっと見つめていた。
今日の私は今までのユリアとは違うのだ。今も完全に過去の記憶を取り戻したわけではないが、自分の今置かれている状況が…何故このような事になったのかが理解できるようになってきた。
「後は…学校で確かめないと…」
呟きながらスカートをギュッと握りしめた―。
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