第70話 12日目の出来事

「え…?これはお父様が下さったマジックリングでは無いのですか?」


「いや、生憎私ではないな。でも…そう言えば馬車事故に遭ったお前がこの屋敷に運び込まれたときには…既に指輪をはめていた気がするな…」


父は記憶を呼び起こすかのように眉間に手を当てながら答える。


「そう言えば、私をこの屋敷まで運んでくれた方はどのような方だったのですか?」


「うむ…それがフード付きのマントで全身を覆っていたために、顔まで見ることが出来なかったのだ。しかし、声の感じからすると若い男性だった気がするな」


「フード付きマントに若い男性…」


その言葉に何故か一瞬満月を背に立つ男性のシルエットが脳裏に浮かんだ。しかし、それはほんの一瞬の事ですぐに私の脳内からは消え失せてしまった。


「まぁ、ユリアは今はまだ記憶が戻っていないからしようがないだろうな。それでは明日から学校へ行くというわけだな?あまり無理しないようにな」


「はい、分かりました」


「それじゃ、おやすみ、ユリア」


「はい、おやすみなさい。お父様」


そして父は部屋から出ていき、扉がパタンと閉ざされた。


それにしても…。


「今のお父様の話し方…いずれ記憶が戻るように聞こえたわ…」


私はポツリと呟いた―。




****


 その日の夜―


「アフ…もう寝ましょう…」


深夜0時―


今日のノルマ予定の勉強も終わることが出来たので、部屋の明かりを消すとベッドに潜り込んだ。


「…」


しかし、父との会話が頭から離れず中々眠りに付くことが出来ない。


「フードの男性…何処かで見た気がするのだけど…」


その時、本棚の一部がキラキラ光り輝いていることに気がついた。


「え…?」


ベッドから起き上がり、光る本棚を見つめた。


「何だか…前にも本棚が光っているのを見た気がするわ…」


よし、少し…と言うか、かなり怖いけれどもあの光の正体を確かめてみよう。私は恐る恐る本棚へ向かい、1冊の本が光っていることに気がついた。


「こ、これが光っているのね…?」


震えながら本を手に取ると、中のページが光っていることに気付いた。私はゆっくりと光るページをめくり…。


「え…?」


そのページにはたった1行、こう書かれていた。


『12日目経過』


「な、何これ…?」


何だろう?以前にも似たような事があった気がする。けれど思い出そうとすればするほど記憶が遠のいていく。


「…駄目だわ。何も分からない。とりあえず…寝ましょう」


パタンと本を閉じた途端、光が収まった。


「え…?やだ。何これ…気持ち悪っ!」


すぐに本を元の棚にしまうと急いでベッドの中に駆け込んだ。


「全く…一体何だって言うの…?」


そして私はモヤモヤした気持ちを抱えながら眠りに就いた―。




****


 私は夢を見ていた…。


夢の中の私は小屋の中に入り、扉を締めた。途端に背後から声を掛けられる。


「君がユリア?驚いたな…。本当に1人でここまで来るとは思わなかったよ」


すると夢の中の私は答える。


「ええ、当然よ。だって私の命に関わる事なのだから。でも…これで私の決意が伝わったでしょう?」


そして私は振り返る。


するとそこにはマント姿の良く見知った顔の男性が立っていた。


「いいよ。約束通り…君の力になるよ、ユリア。それならまずは以前話していた通り、記憶の操作から始めるよ…。覚悟はいいかい?」


「…も、勿論よ…」


震えながら返事をする私。


「それじゃ…始めようか?」


そして彼は笑みを浮かべて私を見た―。





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