第10章 見知らぬ感情

1週間たつ頃には、凛は分からないことがあれば、翔太に声をかけ、聞いているようだったが、基本は翔太から離れ1人で仕事をこなすようになっていた。凛と初めて会ったあの日のざわつきは、翔太からLINEをしてくれたことで落ち着くことができた。

翔太は凛とは同期で同じ支社で働いていたこと、よく、他数名いる同期と一緒に飲みに行ったり、キャンプなどしたりして遊んでいたと話してくれた。ただ、3年目を過ぎた頃から、それぞれ支社への移動などもあり、会う機会が減ってしまったと教えてくれた。

わたしが、「そっか。さみしいね」とそう答えると翔太は「そうだね。また会いたいなぁ」と答えた。わたしの心の奥にちくっと針が刺した。だけどわたしは、その針に気づかないふりをして「また、会えるといいね」とだけ答えると、翔太は軽く笑ってた。


LINEを終えた後、わたしはそのままベットに体を預けた。当たり前の事だけど、わたしの知らない翔太がいる。なぜかわからないけど、その事に漠然とした不安を抱えながら、わたしは眠れない自分の体をベッドに預けた。


翌日、寝不足の体のまま会社へ出勤すると、杏が「どうしたよ。その顔」と言って駆け寄ってきた。わたしは、ちょっと眠れなくてとだけ答えると、わたしの顔をじーっと見つめた後、「お昼久しぶりに外でランチしない?」と誘ってきた。わたしが軽く頷くと「よし!また後でね!」と言って、自分のデスクに戻って行った。わたしも、自分のデスクに座り、パソコンを立ち上げた。


ランチは職場の近くにある洋食屋さんで食べるとこにした。それぞれ、注文を終えると、早速杏が切り込んできた。わたしは昨日翔太と話した内容について話し始めた。「それで?それだけじゃないでしょ?」話を終えた後、杏はそう尋ねてきた。わたしは、その時に感じた自分の感情について杏に話すと、「あー。嫉妬だね。それ」と言った。わたしが嫉妬?と聞き直すと、杏は「自分の知らない翔太を知ってるということに対しての嫉妬」と言った後、「でも、珍しいねー。結構恋愛に関してはドライだと思ってた」と言った。確かに恋愛で、誰かに嫉妬するなんて考えたこともなかったし、したこともなかった。これが嫉妬なんだ…と答えると、「まぁ、それだけ翔太が好きってことでしょ?」と言うと、出来上がったランチを食べ始めた。そして、「さみしい時はさみしいとちゃんと伝えた方がいいよ。素直が一番」とだけ言って笑った。わたしは、見知らぬ感情を持て余しながらランチを食べ始めた。

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