第7章 痛み

週明け会社に行くと、いつものように杏が、おはよと話しかけてきた。今日から翔太とは別々に仕事をするそうだ。翔太というワードがでるたび、わたしの心臓はうるさく鳴っていた。そうなんだとわたしは返して、自分のデスクに座った。すると、そこに翔太がおはよーと声をかけてきた。一瞬さらに鼓動が速くなった心臓をわたしは落ち着かせながら、おはよと返した。翔太は、いつもと変わらない様子で杏と話すと、またランチでねと言ってその場を離れた。あれ?こんなになってるのわたしだけ?とモヤモヤとした感情を抱えていると、マナーモードのスマホが振動した。開くと翔太だった。緊張した笑とたった一言だけ書いてあった。それを見たわたしは思わず笑ってしまった。わたしだけじゃないんだ。そう思うと、自然とわたしの心は暖かくなった。杏はどした?と話しかけてきたが、なんでもないよとだけ返した。変なのーと言って杏は笑い、それぞれ自分の仕事へと戻っていった。


ランチを一緒に食べる予定だったが、それぞれの抱えている仕事の予定が合わず、結局わたしは1人でランチを食べることにした。ランチを食べていると蓮からLINEが届いた。昨日の夜、今日話したい事があるとわたしから伝えてあったのだ。昨日はさすがに、出張から帰ってきたばかりだったからか、返事はこなかった。蓮からはたった一言わかったと書いてあった。だいたい何時くらいになるかをLINEしたわたしは、スマホを閉じた。

翔太と出会ってからのわたしの心は、いろんな感情が糸のように絡まりあっていた。ただ、唯一わかっていることは、絡まりあった糸の先にあるものは翔太がすきだということ。今日ちゃんと話そう。そう心に決め、わたしは残ったランチを食べ、仕事へと戻っていった。


仕事を終えたわたしは、家に帰り伝えてあった時間に蓮に電話をした。

電話を掛けるとすぐに蓮がでた。

「もしもし、どした?」いつもと変わらない優しい声。罪悪感に押し潰されそうになりながら、わたしは、もう一緒には暮らせない、そう伝えた。しばらく無言が続いた後、蓮が「好きな人できた?」そう言ってきた。わたしはしばらく迷った後、うん、ごめんそう伝えた。しばらくして「あーこんなことになるなら、早く一緒に暮らしちゃえばよかった」と言った。わたしはなにも返すことができなかった。ただ一言、ほんとにごめん、それしか言うことができなかった。蓮は、「待ってても無理?」と言ってきた。わたしは繰り返し、ごめんとしか言うことができなかった。蓮は、最後に今までありがとうと言った後、LINEは消さないでおいてほしいとだけ言ってきた。わたしもわかったと伝え、ほんとに、ごめん。今までありがとう、とだけ伝えわたしは電話を切った

きれいな別れ方だった。蓮は最後の最後まで優しかった。そのきれいな別れかたが、蓮の優しさがわたしの心臓を刺した。その痛みを抱えながら、わたしは眠りについた。

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