第6章 心
土曜日の普段の日常とは違い、会社はとても静かだった。わたし以外にも、休日出勤する社員がPCと向かい合い仕事をしていた。数名の社員と挨拶を交わし、わたしは近くのコンビニで買ったコーヒーを片手に、自分のデスクに座った。昨日夜は結局あまり眠ることができなかった。眠い体をもて余しながら、とにかく今はなにも考えずに、仕事を早く終らせようと、わたしはPCの電源を入れたのだった。
夕方には仕事を終え、わたしはいつも行くカフェに向かった。なんとなく、すぐに家には帰りたくなかった。店長と会い、いつものサラダボウルを食べようそう思った。お店のドアを開け中に入ると、わたしの心臓がドクンと脈打った。目の前には翔太がいた。翔太がカウンターに座って、店長と笑いながら話をしていた。そして、ゆっくりと入り口に目を向け、驚いた様子でわたしを見た。その瞬間、わたしは気づいてしまった。あのもやもやした感情を。このうるさくなる心臓を。わたしは翔太に恋をした。ほんとは出会ったあの日からずっと分かっていた。わかっていたけど、わたしはその気持ちに蓋をしてきたのだ。でも、もう蓋をすることはできなかった。わたしは認めてしまった。翔太に恋をしたことを。
店長はいつもと変わらず、「いらっしゃい」と声をかけた。わたしは悟られないように「こんばんは」と返事をした。うまく笑えていただろうか。そんなことを考えていると、翔太が「このお店知ってたの?びっくりした」と笑って声をかけてきた。わたしが「うん」と返事すると、店長がうちのお得意様だよと笑って言った。
わたしと翔太はテーブル席に移り、いろんな話をした。写真の事や好きなもの、好きな食べ物、小さい頃の事や苦手なもの。どうでもいいような事でも、翔太と話していると時間はあっという間に過ぎていった。
「楽しく話してるところごめんね。そろそろお店閉めてもいいかい?」店長が優しく声をかけてきた。わたしと翔太は慌てて「ごめんなさい」と謝り、会計を済ませ、「また来ますね」と店長に声をかけ外にでた。
外にでると、雨が降っていた。わたしも翔太も傘は持ってなかった。「傘ないね」翔太が声をかけてきた。わたしは「そうだね」と返事をした。少しの間沈黙が流れた後、翔太がうち来る?と声をかけてきた。驚いて翔太を見上げると、真剣な顔でわたしを見つめていた。正直迷った。だけど...。「今はいけない、わたし今...」と返事すると、翔太は「うん、知ってる」と寂しそうに言った。そして、翔太がなにか言いかけた時、後ろでカフェのドアが開いた。店長が雨降ってるからと傘を貸してくれたのだ。「2本あるから使って」そう言って、わたしと翔太それぞれに傘を貸してくれた。わたしたちは店長に、お礼の挨拶をした後、お互い言葉を交わすことなく、それぞれの家に帰っていった。
わたしは家についてから、今日あった出来事を思い出していた。あの時翔太はなにを言いかけたんだろう。そのことばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。だめだ、お風呂にはいってもう寝よう、そう思ったとき、LINEの通知音が鳴った。わたしは慌ててLINEを開いた。翔太だった。今日楽しかったこと、たくさん話せてよかったこと、そんなことが書かれていた。あれ?スペース空いてる。そのままスクロールしていくと、一番下に大好きだよ。そう書かれていた。それを見たわたしは、やっぱりだめだ、わたしも翔太が好き。だけど、その前にわたしはやらなきゃいけないことがあった。蓮のこと。蓮と話さなきゃいけない。わたしは翔太にもう少し待っててほしいこと、ちゃんとしてから翔太と向き合いたいことを伝えた。翔太からは、わかったと返信がきた。その後、お互いにおやすみと返信して、わたしはスマホを閉じた。
わたしの心臓の音が静かに鼓動をならしていた。
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