第8話2つの提案
それから2週間後帝国より文書が届いた。10日後こちらに出向き、これからの事について話し合う、という内容だった。
その時に、引き渡す2人、プラドとルミナスを用意させろ、と書いてあった。
用意。
既に2人が人として見られていない事を突きつけられ、本当に怒りを買ったのだ、と痛感された。
当日は、
王、王妃、そして王位継承を持つ男は全て集める事、引き渡す2人の用意、
との内容だった為、王位継承を持つ私を含め5人が集められた。
私以外の王位継承を持つ者達は、物資を止める帝国の手紙を見せるや否や殴ってきた。
何度も何度も。
だが、そんなもので償えるなら、と愚かな考えが脳裏を掠める己が、本当に愚かな生き物だ、と笑いが出た。
すまない、
意味の無いそんな言葉を言うのはやめよう、と1度も口に出さなかった。
それがまた皆の怒りを買い殴ってきたが、小さな私のプライドだったのかもしれない。
当日、プラドとルミナスは私を罵し、喚きながらやってきた。
異様な静寂の中でのその声は、地底に引き摺られた怨みの篭った悲鳴のようだった。
2人とも頬が腫れ上がり父親から殴られたのだろう事が否応でもわかり、私の心も体もより重たくした。
いつ来るから分からない帝国の使者を部屋で待つ時間は苦痛だった。
朝早くから待ち、やってきたのは夕方だった。
息が止まった。
「・・・ギャラン・・・皇子・・・」
凛々しく、全てを凍てつく瞳と表情のギャラン皇子は、優雅に椅子に座った。
まさか、当の本人が来ると思っていなかった。
一気に重圧が部屋に漂い、何度も唾を飲み込んだ。
「着替えさせろ」
ギャラン皇子の、冷たい言葉が、奥に立つ2人に投げかけられた。
「な、何故でしょうか?」
父上の言葉に、ギャラン皇子は足を組み目を細めた。
「聞こえなかったか?それよりも理由が分からないとは滑稽だな。そこの2人は平民となったはずが、何故貴族の服を着ている。それは、この国が我が帝国よりも裕福と言うのを示しているのか?それならばそれでいい。俺はその方が、スティングレイに言い訳が出来る。帝国を必要としない、裕福な国だ、とな」
楽しそうに笑うギャラン皇子に、体の震えが止まらなかった。
「滅相もありません!着替えさせろろ!!」
「まて、どこに連れて行く。俺はこの場にその2人を用意させろと言ったんだ」
「しかし・・・着替えは・・・」
口ごもる父上に、苛立つようにギャラン様は足で机を蹴った。
「聞こえなかったか?」
「申し訳ありません!!早く着替えさせろ!!」
父上の慌てた声に急いで服が準備され、2人は小さい悲鳴をあげなら、裸にされ着替えさせられた。
その様子をギャラン様はつまらなさそう見ながら手を挙げると、すかさず控えていた者が封筒を二通机に出した。
「ここに、俺とスティングレイの婚約披露の招待状と、物資凍結の解除の書状がある。こちらの条件はたった2つだ。その条件を飲めばその2つの封筒をくれてやる。どうする?」
「勿論条件を飲ませて頂きます!!」
父上の即答は仕方のない事だが、冷ややかな態度と、無表情の顔に、そんな甘い条件ではあるまい、と固く握る拳がより固くなった。
「いい心がけだ。では、1つ目は国王と王妃は平民となれ」
「・・・なん・・・と・・・?」
信じられないと声を震わせ、目を見張る父上と母上に、目を背けた。
「服を準備してやれ。早くしろ。俺は早く帰りたいのだ。お前らの顔など本来なら見たくもなかったが、スティングレイが国民は助けて欲しいと懇願してきたから渋々やってきたのだ。今回の件については俺に全て一任されている」
興味が無い。
恐ろしいくらいに感情がなく、ぞんざいだった。
スティングレイの為と言うのが真なら、ギャラン様は本当にスティングレイを愛している。
それならどれほど我々を憎み、許し難い存在だろうか。
ガタガタと隣に座る第2王子、ヤリスが震えだした。
「早くしろ」
鋭い言葉に急いで平民の服が用意され、父上と母上に渡された。
「・・・お願いでございます。他はなんでもしますので、このような・・・事はお許し・・・下さい・・・」
父上は土下座し、泣き出した。
母上は呆然と立ちすくんでいた。
「いちいち俺に説明をさせるのか!?先程お前が条件を飲むと言っただろう!決別ということか。帰るぞ」
「はい」
「お待ち下さい!!・・・分かりました・・・我々が平民になれば・・・国を助けてくれるのですね・・・」
立ち上がったギャラン様に父上が懇願するように言った。
「勘違いするな。お前らが平民になろうと何になろうと関係ない。スティングレイが国民を助けて欲しい、と言ったからだ。平民になるのは、俺の婚約者に非道の対応した、お前らの責務だ。これは、自業自得。 恨むなら自分を、そこの愚かな息子を恨むんだな。早く着替えろ」
苛立つ声がより高圧的になり、呼吸さえも押し付けられるような気分になった。
「・・・お前が・・・お前が悪いんだ!!セルボ、お前のせいだ!!」
ふらりと立ち上がった父上が狂ったような声を出し、兵から何かを奪い、私に襲いかかってきた。
何が起きているのか、ゆっくりと流れるように見えるのに、何も出来なかった。
腹の少し上に短剣が刺さった。
ビリビリと痛みと、部屋中に響くいくつものの悲鳴と慌ただしく人が動く中、微動だにしないギャラン様の凍てつく眼差しが刺された痛みよりも、痛かった。
「早く止血を!!」
「医師を呼べ!!」
「隣の部屋に運ぶんだ!!」
「まて、誰が部屋を出ていいと言った」
阿鼻叫喚の最中、ギャラン様の一言で、一気に静寂になった。
「し、しかし・・・このままでは・・・」
召使いの1人が刺された場所を布を当てながら、おどおどと言ってくれた。
「それはお前ら家族の勝手な争いだ。俺には関係ない。さて、2つ目といこう。お互い早く終わった方かいいだろう。セルボ王子の右腕切り落とせ」
「・・・!!」
誰が息を飲んだのかもう分からなかった
「邪魔な腕があるから、馬鹿げた女に捕まるのだ。早くしろ」
何処までも冷静で、何処までも冷たい言葉と態度のギャラン様が私を睨みつけてきた。
私の記憶はそこで終わった。
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