第6話帝国からの文章

血の気が引く、と初めてこの身に感じた。

あの騒動の卒業式からひと月後、帝国より文書が届いたと、青ざめた顔で宰相であるランサーが私を呼びに来た。

ただならぬ気配を察し急いで部屋に行くと、ソファで項垂れる父上と母上がいた。

まるで葬式のように空気が重く、否応でも心臓が嫌な音をたてる。

座りなさいと言われ、座るとランサーがその文書を読み上げた。

帝国からの物資全てが凍結。

モジュール家とクラジャ家の爵位返上と、娘を引き渡す事。

スティングレイとギャラン皇子の婚約の報告。

驚く内容だった。

帝国からの物資の凍結。

それは、硬質の土壌を持つ我が国の破滅を意味していた。作物が育ちにくい我が国にとって、帝国の、特に麦は生死に直結しているのだ。

それを、停められる?

ぞっとした。

「だから言ったではありませんか!スティングレイ様を大事にしなさいと。これは、王子がこちらに相談もなくあのような様な騒ぎを起こした結果です!!」

いつも冷静なランサーが捲し立てた。

「・・・馬鹿な・・・」

声が震え、呼吸が苦しくなる。

確かに、スティングレイがホールを去る時、ギャラン皇子が一緒に去っていた。

たが、あれは醜悪なるあの場所を好まなかったからだと思っていた。

「私は再々御忠告致しましたよね?スティングレイ様の母君は帝国より嫁がれ、遠縁ながらも皇族の血を引くお方。その事もあり歳の近いギャラン皇子とスティングレイ様が仲がよろしいと!あれだけ、御忠告しておりましたのに王も王です!!侯爵様から何かしらの賄賂を貰っておいででしたね!?」

さっと父上が青ざめより下を向いた。

「そ、それは・・・全て帝国より仕入れた特別酒だ。だが・・・もう意味が無いでは無いか・・・」

弱々しく呟く父上に、ああ、と察した。

特別酒という名の、女、だ。

我が国と違い、帝国の女性は淑やかで、褐色肌でとても妖艶さを持ち、この国では好まれている。

夜の仕事を生業にしている帝国の女性を、よく侯爵が酒の席に連れてきていた。

「王妃も伯爵家から何か頂いておりましたね」

母上もより俯いた。

確か伯爵夫人から、珍しく宝石が手に入ったと、幾度も見せに来られた。その度に、なにか貰っていたようだ。

「お気づきになりませんか?」

ランサーが揶揄を込めて、笑いだした。

「帝国からの支援等どうとでもなります。他国に頼み込めば、多少高額になったとしても補えます。そんな事問題ではないんです!問題はスティングレイ様とギャラン皇子の婚約披露が再来月執り行われるのに、招待状がないと言う事です!気性の荒いギャラン皇子の逆鱗に触れたのです!!帝国を敵にしたこの国を誰が助けます!?」

背筋が凍り目眩がしてきた。

「ご存知のように、ブリッシュ伯爵家はあの後直ぐに爵位返上し、荷物を片付けている様子を確認しております。皆さまは国外逃亡だと言っておられましたが、既にギャラン皇子との婚約を進めておられたのですよ!!」

吐き捨てるように言った。

静まり返った部屋の中、母上のすす泣き声だけが響いていた。

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