嗜虐心というもの

 女性が傷ついている姿にときめくようになったのはいつからだろう。僕はそのきっかけをしっかりを覚えている。毎週日曜日の朝に放送されていた女児向けのアニメ。中学生か高校生くらいの少女たちが妖精と出会い、世界を救うために変身して悪と戦う物語。その世界を液晶越しに眺めていると、不思議と心がざわついた。敵が召喚した魔物に吹っ飛ばされ、悲鳴を上げて、それでもなお立ち上がっていく少女の姿は綺麗で、美しくて、最初は彼女たちがそうやって頑張っている姿に心を打たれたのだと思っていた。

 でも、違った。

 幼い僕が自分の本当の気持ちに気が付いたのは、物語の佳境。ラスボスが初めて姿を現した時だった。少女たちはこれまでに培ったありとあらゆる技、力をもってこれに立ち向かったが、傷をつけることすらできず敗北してしまう。その時の、その時の彼女たちの絶望した顔。友情とか、愛情とか、そういったものを力に変えてきた彼女たちが、為す術もなくなぎ倒され、まるで今まで積み上げてきたもの全てを否定されてしまったかのように項垂れた姿が、あの頃の無垢な僕の心に決して癒されることのない傷を付けた。もちろん女児向けのアニメだったので、最後は愛の力が覚醒してラスボスを浄化しハッピーエンドを迎えるが、その時にはもうすでに僕はそのラストに不満を抱き始めていた。

 中学生になってからはそういった小説やら漫画やらを探して回っていった。なんて業の深いことだろう。我らが地球上では少女たちが傷だらけになる姿に一定の需要があるそうだ。とはいえ、自分の性癖が危険なものであることはわかっていた。一生隠し通していくつもりだった。・・・今日の体育の時間までは。

 心の中でひっそり妄想して、それで満足していたんだ。中学生になると精通して妄想も増えた。それでも、抑えてきた。幸い女性が傷ついて血を流す映画やアニメはごまんとある。それで気持ちを紛らわせられていた。今日までは。

 眠れなかった。どうしようもなくムラムラしていた。体操着は洗っていなかった。予備の体操着は買ってあったから、洗う気も無かった。どうしようもない変態だ。どうしようもない、変態なんだ、僕は。布団の中で血を嗅いでいる。発情した犬が雌の尿の匂いを嗅ぐように、まだ微かに残る香りを求めて。頭の中には鼻血を出して俯く恵奈さんの顔ばかりが浮かぶ。情けない情けない情けない。ズルいよ恵奈さん。あんなからかい方、酷いよ。ねぇ、責任取ってよ。っ僕は、抑えていたんだ。誰かを傷つけるわけにはいかないから、妄想で我慢していたのに。それなのに。

 結局、その日はほとんど眠れることなく朝を迎えた。

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