国語の時間
「おっはーって、
「あ、まぁ」
「映画でも見てたのか?」
「そんなんじゃねぇよ」
「ふーん」
朝から
「おはよ、奏くん」
「え、恵奈さん・・・」
それは今一番会いたくない人物だった。傍に来られるだけで昨日の体操着の残り香がフラッシュバックし、股が熱くなるのを感じる。まともに視線を合わせられず、目が生きのいい魚みたいにすいすい泳いでいるのが自覚できてしまう。情けない。本ッ当に情けない。心なしか彼女の笑みがからかっているように思える。
「昨日はありがとね。体操着は大丈夫? 血って落ちにくいからさ」
「ダイジョブダヨ。ヨビノタイソウギモアルシネ」
「私の血で汚しちゃったからさ、もしよかったら私にクリーニング代を出させてよ」
「イヤ、ホント、ダイジョブ」
「そっか。ねぇ、もしかして体調悪い? 苦虫を嚙み潰したような顔だし、話し方もちょっと変だよ」
「ネブソクカナ」
「ちゃんと寝なきゃだめだよー。奏くんは保険係なんだしさ」
君のせいだなんて言えなかった。不審がられはしたが、恵奈さんは友達のもとに戻っていった。
一限は国語だ。徹夜明けの僕にとって、教科書を読む教師の声は子守歌でしかない。こういう時のおっさんの低い声にはα波が含まれているんじゃないだろうか。
「授業中に寝るんじゃないぞー。まだ朝じゃないか」
たびたびそんなことを言ってくるが、それならお前の音読音声を録音して聴いてみろと言いたくもなる。とはいえ、この教師は眠った生徒がいると授業が終わると同時にその生徒を叱るため、眠るわけにはいかない。何か自分の興味を引くものがないかとペラペラ教科書をめくる。すると、『レ・ミゼラブル』を紹介するコラムが目を引いた。ヒロインの母親が養育費を捻出するために前歯と髪を売ったシーンの紹介を読んでいると、妄想が膨らんでいく。そして、そこに現れるのも、やはり恵奈さんだった。
夢うつつなせいで視界がぼやけて現実と妄想が重なっていく。国語教師が教壇に立ち、
そこで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
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