第2話
役場の応接室に通された我ら二人はアイスコーヒーを飲み干しながら、面会相手を待つこととなった。
今回私達が話を伺うのは山本氏の姉の旦那、つまり義兄にあたる方であり、齢90を数えるも心身ともに極めて健康で野良仕事も何のそのという男性である。**氏は以前にこの町の中学校で教鞭をとっていたという方で、郷土史家でもあるということで今回の調査の先鞭としてはうってつけの人物ではあった。
しかし、待てども待てども話を聞くはずの相手が姿を現す様子無く、しびれを切らした先輩が立ち上がって、
「私達は佐々木小次郎か?一体どれほど待てば相手は来るんだ!?」
「別に決闘するわけではないにせよ、いくらなんでもおかしいですよね……」
結局30分ほど待たされて遂にまみえることは叶わず、町役場の職員から電話で確認してもらったところ今日は体調が優れず外に出るのが難しいということで、明日に我々が直接自宅へ赴くこととしたのであった。
「さて、いざ参らん!」
役場のエントランスをシュタッと飛び降りた先輩は軽やかに笑顔を見せる。ポニーテールの軽やかに揺れる様が鋭い夏の西日に照らされ、コンクリート造りのエントランスと妙に合う。
「食堂のおばさんに話、聞きますか?」
「もちろん。約束したわけだし、この町に来て進捗がないというのも気分が良くない」
道を渡り、食堂に再度入る。しかし、来店を歓迎する声はなかった。
肩透かしの気分のまま店内に入ると、西日が机を照らす他には扇風機の周期的なモーター音があるのみで、人の気配を感じない。
「誰も居ないんですかね?もう閉店?」
「そう君は思うのか?営業時間は11時から22時までの休憩無しの店だ。しかも我々がまた今日来ることを分かっているんだぞ」
確かに扉のガラス越しに営業時間は「11~22時」とあるのが見えた。
何度か厨房へ声をかけてみるも返事はなく、麦茶を勝手に飲んで待っていたがここもやはりだめだった。
明日にどちらも持ち越しだな、と呟きながら先輩は席を立つ。
私達はチリンチリンと鳴る扉をくぐり店を後にした。
晩夏にて。 石川暁 @nanzenji
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