3話 効かない嘘
「おはよ、菜乃花」
教室に入ってきた菜乃花の挨拶に返事をしたのは、暁斗だった。
依然、蓮は机に突っ伏したままである。
ちらりと腕の隙間から見える目からは、早く行ってくれという意思が見ただけでも読みとれる。
「あれー?どったの。」
挨拶を返されなかった事に対しては、特に思うようなこともなく、蓮の様子に菜乃花は疑問を抱いていた。
朝からここまで目に見える疲れを初めて見たため、眠そうな表情の中に、驚きが観られる。
「いや、なんでも……」
さすがに態度に出過ぎていた事を自覚した蓮は、顔を上げ、菜乃花の方を向いて答えた。
朝の出来事を話すと確実に面倒なことになるので、蓮は黙っていることにしようとして、誤魔化した。
「さすがに無理があるだろ」
そんな中、 安直すぎる誤魔化し方に思わずツッコミを入れたのは、暁斗の方だった。
てっきり自分の味方をしてくれると思っていた蓮は、暁斗の方を見て睨んでいる。
蓮の誤魔化し方がもっと上手ければ別だったかもしれないが、どっちにしろ意味の無いことだという意思を暁斗は目線に込めた。
「それに、菜乃花に対して嘘なんて意味ないしな」
「うっ」
「まぁ話すしかないわな」
痛いところをつかれたのか、蓮は完全に誤魔化すことをあきらめた。
無理だと判断せざるを得なかったのだろう。
暁斗の言うように、菜乃花は非常に人をよく見ており、わずかな動きでも言っていることが嘘かどうかを見破ることができるため、最初から嘘をついていることを菜乃花は理解していた。
そのため、蓮の残っている選択肢は、おとなしく吐く事しか残っていなかった。
菜乃花に話し終わった後、菜乃花はやっぱりといった目で蓮の方を見た。
少し目が覚めたのか、さっきよりもぱちっとした目をしている。
「そんな事だろうと思ったよ」
「そんな事って……お前な」
「なんとなくもうわかってたしね」
察しがよすぎる菜乃花に対して、蓮は思わずため息をこぼしそうになる。
そもそもなんとなくわかっているなら詮索なんてしないで欲しかった。
口には出さなかったものの、その分また疲れた様子を二人に見せた。
「あはは、ごめんね。蓮」
菜乃花は申し訳なさそうに蓮に謝った。
それを聞いて満足したのか、菜乃花は自分の席に着くと、蓮のように机に突っ伏して眠った。
それについては、思わず蓮は目、覚めてなかったのかよ……と呆れながら呟いた。
「おい、お前の彼女どうにかしろよ。聞くだけ聞いて戻ってったぞ」
「えへへ。可愛いだろ」
「話聞けよまじで」
話を聞くだけ聞いてそのまま戻って行った友人の彼女に対して文句を言った蓮であったが、暁斗は話を全く聞かずにニヤニヤとしている。
二人とも仲のいい友人であるがこればかりは、さすがにどうにかならないものかと蓮は頭を悩ませた。
ただ、ここまで心を許せる友人はあまりいないため、しょうがないといった目で暁斗を見る。
「もういい、俺は寝る。」
「はいはい」
蓮が拗ねた口調で言うと、暁斗は困ったような顔で苦笑している。
「そういう所は前から変わんないよなぁお前」
「うっせ」
何か面倒ごとがあるとすぐに態度に出てしまう蓮の性格は前から変わっておらず、どこか嬉しそうな口調で暁斗が呟く。
その一方、暁斗と真逆で本気で拗ねてしまった蓮は短く答えた。
「じゃあ明日感想を楽しみにしてるぜ」
「……なんのだよ」
「さぁ……なんだろうな」
それだけ言うと、暁斗は席に戻って行った。
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