プロローグ 熱
「うげぇ……マジかよ……」
ベッドに腰をかけた蓮が自分の脇に先程まで挟まっていた体温計の温度を見てそう言った。
とりあえず何か飲むものを冷蔵庫まで取りに行こうとしたが、体が言うことをきいてくれない。
「どうしたものか」
ベッドから降りて、床に横たわるようにして蓮は考えを巡らせていた。
まず何故熱が出たのかについて考え始めた蓮だったが、理由は一つしか思い浮かばなかった。
昨日雪の降る中をそこまで厚着をせずに歩いていたからだ。
「まぁ、いいか」
原因が理解することが出来たところで、もう一度冷蔵庫まで歩き出した。
今度はさっきのように倒れることもなく無事に着くことができたが、冷蔵庫の中身をみて数秒間立ちすくした。
冷蔵庫の中身が、ない……!!
「…………」
いつもなら、何かしらのものが入っているので大丈夫だろうと思っていたのがそもそもの間違いだった。
しかも、この原因も昨日の事と関係があった。
昨日道案内をしたのまでは良かったが、その後買い物をせずにそのまま家まで帰ってしまっていた。
やらかした……そう思う蓮だったが、さすがにこれは状況がまずすぎた。
家には基本的に蓮しかいない上に、父親も今日は夜遅くまで仕事。妹達を呼ぼうにも、かなりの時間がかかる。
さすがにこの状況はまずいと判断した蓮は、急いで外に出られる準備をして、近くのコンビニへ向かおうと玄関のドアを開けた。
「……へ? 」
その瞬間自分でもおかしいくらいに間抜けな声が出た。
そこには、絶対にいるはずのない人物が困ったような表情をして、立っているからだった。
……淡音小雪。キレイな白髪は、太陽に照らされて一層の輝きを見せつけている。
昨日蓮に道案内をされた本人である彼女が今、蓮の家の前にいる。
「あの、えっと……これは……その……」
困ってるいる表情が、蓮が現れたことにより険しくなっている。
「お前……なんで、ここに」
「あ……昨日の、お礼をしに……」
蓮の問いかけにものすごく小さな声で応える。
その小雪の応えに対して、蓮は少しばかり疑問を持った。
だが、そんな疑問もすぐに消え去ることになった。
……彼女の手元だ。
彼女の方をよく見ると、ビニール袋のようなものが手に持たれている。
どうやら、本当にお礼をしにきただけのようだ。
別にそこまでは良かった。
ただ、問題は……
「どうして家の場所まで知ってんだよ……」
呆れたような声で蓮が言った。
重要なことではあるが、蓮にとって今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
「悪い……小雪、肩かしてくれ」
立っていることが限界だったため、倒れ込むように膝を着いた。
「蓮!! 大丈夫ですか!?」
その様子を見て、すぐに小雪は蓮がどういう状態かを理解し自らの肩をかし、支える体勢になった。
そのまま自室のベッドまでこの状態で運ばれた。
「すまん。助かった」
ベッドに連れて行ってもらった蓮は素直にお礼を言った。
「いえ、それよりも」
「ん? なんだ? 」
ベッド付近で腰を下ろしている小雪が蓮の方を見て申し訳なさそうに呟く。
「その熱……たぶん……」
「違う」
小雪にその続きは言わせないように、蓮が途中で言葉を遮った。
自分がやった事を人のせいには絶対にしない。蓮はその意志を込めた眼差しを小雪の方へと向けている。
「でも、やっぱり納得いきませんね」
「おい、今の話でどうしてそうなる」
頭が少し冷えたのか、納得のいかないという小雪に蓮は落ち着いた声色で言う。
「そうですねー。じゃあ今日は、蓮の看病をするとしましょう!!」
「……なんだって? 」
今一瞬、なんて言ったかがわからなかった。
看病がどうたらこうたらと言っていたが、さすがに冗談だろうと言う目で見たが、小雪の目は
「嘘だろ……」
脱力して、誰も聞こえないような声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます