プロローグ 出会い・2
蓮と白髪の少女が歩き出して数分、今までの沈黙を貫くようにその場で立ち止まり、少女が口を開いた。
蓮も彼女に合わせてその場で立ち止まる。
「そういえば……名前、まだ聞いてませんでしたね」
「名前……? 聞く必要があるのかそれ」
「それはもちろんありますよ。会話の時『君』とか『あなた』だと、なんかよそよそしいじゃないですな」
───知らんがな。
初めてあった人間に対して名前を聞いてくる少女に蓮はやや怪訝そうな顔をして答える。
少女の方は、そんな納得のいかない蓮におかまいなしといった様子だ。
強引すぎる少女に蓮はなすすべがない状態に陥る。
「……葉月蓮。それが名前だ好きに呼んでくれ」
打つ手なし。といった感じの諦めた様子で蓮は自分の名前を口にした。
「葉月……蓮……じゃあ蓮。ですね」
「おい、いきなり呼び捨てかよ」
好きに呼べとは言ったものの、まさか最初から呼び捨てにされるとは思ってもいなかったので、驚いた表情を少女に見せる。
「そっちは」
はぁ、と呆れるようなため息を発した後、次は蓮が少女の名前を聞いた。
「ふふ、私の名前は、淡音小雪と言います。小雪……そう呼んでもらっても構いませんよ? 」
名前を名乗って、こちらを見てくる少女──淡音小雪がなぜか上から目線で言ってくるのに対して、蓮
は完全にツッコむ気力を失っていた。
お互いの名前を知った後、止まっていた時間が動き出すように二人はまた歩き始めた。
歩いている中での会話の中には先程までにはなかった名前が含まれている。
なぜだろうか。人に見られている気がする。そんな蓮の疑問は的中していた。
歩きながらではあるものの、おそらく小雪に向けられる視線が多くなっている気がしていたが、辺りを見回すとこちらを見ている人が明らかに多かった。
──白髪だからか?
小雪の容姿のことが、頭をよぎる。
蓮は別に気にしてはいなかったが、もしかしたら小雪の方は……
現に小雪は、不安そうな表情をしているがそれを必死に隠しながら蓮との会話を続けている。
「あーその、小雪、お前は気にしないのか? 」
会話の内容をぶった切って、蓮の服の裾を掴みながら歩いている小雪に問いかける。
「……何のことを言ってるのです? 蓮」
一瞬の間を空けて、何事もなかったかのように小雪は答える。
しかし、その表情はどこまでも冷たく、凍りついていた。
「いや、なんでもない。もうすぐ着くぞ」
そう言うと、また小雪が蓮に話しかける。
今思えば、それは他者からの視線を誤魔化すための動作だったのかもしれない。
数分後、目的地の『白雪』に着くと、小雪は表情を緩ませて蓮の方を向きやった。
「ここが、白雪……」
「じゃ、俺はこれで失礼するよ」
感銘の声を上げる小雪とは逆に、冷たい声を蓮はあげて、淡白に言い切ると小雪はさっきまでの表情を崩して不服そうな顔をした。
「むぅ……どうして帰ろうとするんです!!」
「言っただろ、案内するだけだって」
「でも、普通はお茶するところじゃないですか!!」
帰ろうとする蓮のうでを引っ張りながら驚きの声を小雪が上げる。
「悪いな……今、そんな気分じゃないんだ」
「え……」
どこか暗い表情をする蓮に、何も言えずに小雪はその場で立ちすくむ。
無理に引き止める様子もなくなったことを確認すると、蓮はそのまま家に帰って行こうとした。
「また、会えますか? 」
蓮にギリギリ聞こえるくらいの小さな声で小雪が呟く。
「……機会があったらな」
少しの間を空けて答えると、雪の降る中蓮は一人で歩き出した。
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