17_止まらないやつら

「改めまして、十連地紗弓じゅうれんじさゆみと申します。よろしくお願いします」



人数分のコーヒーをお盆に乗せて、ちゃぶ台まで持ってきた紗弓。

一人一人コーヒーを出しながら自己紹介していた。



「ひゃー、かわいいなぁ」



坂本が、感心していた。



「かわいいだって。なんか、テレちゃうね」



紗弓が俺の横に座って、俺の袖を掴みながら言った。

なぜ今日に限ってタメ語!?



「うわ!うわ!うわっ!なんかエロい!」



桐川さんも変なことを言いだした。



「晃大さんとは、結婚の約束をしていまして……」



そんなことを言いながら、紗弓が左手のピンキーリングをヒラヒラを見せていた。



「マジかよ!?富成、いつの間に婚約を!?結婚いつ!?」


「そっかぁ、私との約束もならず、かぁ」


「待て待て待て!」



とりあえず、全員変な方向に話が進んでいるから、まずは、紗弓にチョップをして話をやめさせる。



(ドスッ)「先生、痛いです!」



頭を押さえながら半泣きの紗弓。



「調子に乗りすぎだ。このままだと、大学の時の同期にデマ話が拡散されてしまう」


「あ、俺、もう2人にはLINEでメッセしたけど……」


「削除しろ!相手が見る前に削除してくれ!」



はー、全くもう……

大学の時につるんでいたメンバーはざっくり10人くらいはいる。

そいつら全員に紗弓のことを知られたら…考えただけでも恐ろしい。

目の前のこいつらは……正しく紗弓のことを話しても大丈夫だろう。





***

「へー、じゃあ、紗弓ちゃんってこのアパートの大家さんの娘さんなんだ」


「はい、そうです」


「富成くんの勤める高校の生徒さんで、富成くんは担任」


「はい」


「それで、富成くんとは、もう8年来のお付き合い、と……」


「はい」


「つまり……婚約中!」


「だな」



坂本と桐川さんが変な結論を導き出した。



「ちょっと待て。俺の話ちゃんと聞いて……「そうなりますね。親公認で、婚約指輪も頂いた関係ですので」



紗弓が被せてきた。

いや、それは……あながち間違いでもないような、気がしないことも無いような気がする的な……


俺ってもしかして、婚約中なのか!?



「紗弓ちゃん、歳いくつ?」


「16歳です」


「「じゅっ、じゅうろくーうぅ!?」」



坂本と桐川さんが指を折りながら計算している。



「「犯罪者!」」



坂本と桐川さんが俺を指さした。

奇跡的にそろったリアクション!?



「富成くん、自首して!私、いつまでも待ってるから!」



桐川さんがくねくねしながら変なテンションで追加攻撃してくる。



「俺と紗弓はそんなんじゃないから」


「『紗弓』とか呼んでんの!?うっわ!えっろ!」


「別にエロくはないだろう!」


「よーし!コンビニで色々買ってきたからゆっくり話を聞きながら飲むか!」



坂本がコンビニのガサガサ袋を取り出して、飲みの体勢になった。

確かに、二人は色々買ってきてくれたみたいだ。

もう俺、ずっといじられキャラ決定の予感。



「あ、私なにかおつまみ作りますね」


「わ!そんなことできるの!?紗弓ちゃん優秀!」


「私、紗弓ちゃん欲しい!富成くん、ちょうだい!」


「すいません、私はもう先生のものなので……」


「うわ!えっろ!」



……もういい。どうでもいい。

俺は美味しくない酒を飲むことになりそうだ……

早く帰りたい。

ここ俺の部屋(いえ)だけど……





***

紗弓が作ってくれたおつまみは、『からあげ』と『ちくわのベーコン巻』と『枝豆』、『きゅうりの浅漬け』だった。


さささっと作ってくれた。

メニューのチョイスといい、早さといい、本当にこいつ未成年なのか!?



「私はお酒が飲めないので、ご飯に合うものを作ってみました」


「ちょっと、本格的にすごいな。おいしそう。本格的に紗弓ちゃんを嫁に欲しいんだけど……」


『いい事を思いついた。そうだわ。そうしましょう』くらいの勢いで桐川さんが、提案した。


「ちょっと、最近のJKってこんな感じなの!?俺にも一人紹介してほしいんだけど!」


「こんなヤツがゴロゴロいたら俺の身がもたん!」


(コンコン)「お!誰かきたみたいだぞ、成富」



騒がしくしたから、隣の百合子さんから注意されるのかも。

第一、紗弓も大人の中で一人いると居心地が悪いだろう。

連れて帰ってもらおうかな。



「はーい(ガチャ)すいません。騒がしくしてしまって……」


「先生、こんにちは!」



そこにいたのは、箱崎唯だった……

最悪のタイミングだ。



「今日は来てくれてありがとう。じゃあな……」(グググッ)


「あれ?お客様ですか!?」



ドアを閉めようとしたところ、隙間から中を覗き込んでいた。



「あれ?女の人?先生、浮気ですか!?」


「違うわ!」



どいつもこいつも、俺を何だと思っているんだ。



「あ!新しいJKが登場した!ささ!あがってあがって!」



勝手に坂本が部屋にあげようとする。

もう、無茶するなよ……



「あ、男性もいらっしゃるんですね!」


「あがって!あがって!」



桐川さんも坂本に乗っかった!

玄関先でぴょこぴょこと仲を覗く箱崎。

紗弓と目が合ったみたいで、紗弓が座ったまま軽く会釈した。



「あ、紗弓ちゃんもいるんですね!お邪魔します♪」



紗弓が見えたからか、箱崎まで家にあがってきた。

もう、悪い未来しか想像できないんだけど……



「わわ!美少女が増えた!」


「美少女だなんて…恐縮です」


「わわ、上品な感じ。私、こっちを嫁にもらってもいい!?」



もう、桐川さんも酔ってきてるな……



「私は、私立桜坂学園高等部1年の箱崎唯はこざきゆいと申します。よろしくお願いします」



箱崎が行儀よくお辞儀をした。



「わーパチパチパチー!」


「かわいいー!」



ダメだ。

ダメな大人が二人いるだけだ。

こいつら結局何しに来たんだよ!?

いたずらに俺のライフが減り続けてるだけなんだが!



「はーい!唯ちゃんに質問でーす!」


「はい!そちらのお兄さん!」


「はーい!俺、坂本って言います!」


「はい!坂本さん!」


「唯ちゃんは、なぜここに来たんですかー?」


「はい!良いご質問だと思います!」


「うわ!褒められた!桐川さん、俺生きててよかった!」


「きもっ!」



桐川さん、えらいこと言ってやるな。

バッサリ一刀両断かよ。



「ご質問の答えですが、富成先生が紗弓ちゃんと夏休みにどちらかに行かれるのではないかと思って、こっそり情報取りに参りました」


今までの動きの中にどこか『こっそり』してた部分があっただろうか。


「うわ!富成くん、『富成先生』とか言われちゃってんの!?」


「あのなぁ、俺、高校の教師だからな!せ・ん・せ・い!」


「ちなみに、唯ちゃんとの関係は?」


「担任とせい……「わたくしは、紗弓ちゃんの親友にして、富成先生の愛人です!」



箱崎まで被せてきた。

デジャビュだよ!

本日二度目のデジャビュ体験だよ!



「愛人までいた!」


何かを確かめようと思ったのか、坂本が箱崎に近づく。


「こらこら、踊り子さんに手を出すな」


桐川さんが止めた。

止めたのはいいけれど、誰が踊り子だ。

うちの大事な生徒だ。

俺が守らなくては!



「嘘だから!箱崎も!こいつらが信じるだろ!」


「本気ですのにぃ……」



日々、箱崎は訳が分からなくなっていっている気がする。

少なくとも、この部屋には俺の味方はいない……


どうしてこうなった!?



「紗弓ちゃん、何を飲んでるんですか?」


「オレンジジュースですけど」


「私もオレンジジュースをいただきます!」



紗弓と箱崎唯のこのやり取りを見ていた坂本が桐川さんに話し始めた。



「桐川さん、何を飲んでいるんですか?」


「ウォッカですけど」


「俺もウォッカをいただきます!」



うちの生徒たちの真似をするな!

そして、やたらアルコール度数高いのを飲むな!

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