12_お母さんとお食事
「先生、お母さんが食べてくださいって」
「は!?」
いつから日本はそんなに性に寛大になったのか。
百合子さんが娘の紗弓に言伝でそんなセンシティブなお願いをするだろうか!?
当然、俺はバカじゃない。
いつもの紗弓の言葉足らずに違いない。
聞き直して、ちゃんと言えば、ちゃんと俺にも分かることを言うはずだ。
「すまん、紗弓。もう少し分かりやすく言ってくれ」
「お母さんが、私と一緒に食べて行ってって」
いつから日本はそんなに性に寛大になったのか。
聞き直したら、もっとひどい状況だった。
『親子丼』……エロ漫画の中でしかその存在を知らないけれど、その存在は知っている。
想像上のものだと思っていた。
つまりは『ぬえ』とかと同じくらい知っているけれど、見たことはない物だと思っていた。
もう少し分かりやすい例だと、ほっかむりをして、唐草模様の風呂敷を担いで、塀の上を抜き足、差し足で歩く泥棒。
もちろん髭は黒々している。
そんなヤツはこの世に存在しない。
概念としては知っているが、実在はしない。
『親子丼』も現実世界には存在しないと思っていた。
百合子さんは、なにを想って俺に『親子丼』に誘ってきているのか。
いくら40歳前だとしても、見た目はまだ30歳くらい。すごく若く見える。
同級生か、少しお姉さんって感じ。
紗弓という大きな娘がいるとしても、まだまだ十分魅力的な女性だと思う。
それなのに……
そりゃあ、俺は意思の弱い男だから、誘われたら断ることはできないかもしれない。
まして、美少女紗弓と美熟女百合子さんの同時となると……
「紗弓、親子丼はちょっと……」
「親子丼?今夜はクリームシチューですよ?」
その一言で理解した。
多分、そうじゃないかなぁと思っていたんだ。
要するに『夕飯を』紗弓と一緒に食べて行ってという事。
簡単に言えば、夕食のお誘いだった。
なぜだろう。
変な汗が止まらない。
□□□
こうして紗弓の紛らわしい言い回しから食事のおさそい始まった。
俺の部屋(うち)と紗弓の部屋(うち)は、隣同士。
古めのアパートの102号室と101号室。
ちなみに、紗弓の家が101号室で大家さん兼管理人さんの住宅も兼ねている。
百合子さんはアパートのオーナー兼管理人なのだけれど、別に仕事を持っていて、いつも帰りは遅いのだ。
そんなこともあって、紗弓がまだ小さい時は家の近所で一人遊んでいた。
俺はそれに付き合っていた形だ。
「いらっしゃい、先生」
「あ、お邪魔します」
百合子さんとは顔を合わせることはあるけれど、いつもあいさつ程度。
お宅にお邪魔するとなると少し恥ずかしい。
玄関で挨拶をしただけで見とれるほどの美人、それが百合子さん。
(ドスッ)「いたっ!」
後ろから紗弓に背中にパンチを入れられた。
「玄関で止まっていたら、私が入れないです」
なんかすごく不機嫌なのだけれど……
さっきまで普通だったじゃん!
女の子はわからない。
部屋にお邪魔するとき紗弓に小さい声で言われた。
「先生は、お母さんの方が好みですか?」
とても難しい質問だ。
紗弓はかわいい系。
百合子さんは美人系。
ただ、それぞれの顔のパーツはすごく似ていて、俺の好きなタイプの顔なのだ。
気にならない訳がない。
ただ、俺だってエロゲの主人公ではない。
ちゃんと百合子さんのことは『彼女の母親』と認識しているので、邪な気持ちは持っていない。
「百合子さんも紗弓に似てきれいだから目にとまっただけだよ」
「……」
この言い方は正解だったのか!?
むしろ、エロゲの主人公みたいなことを言ってしまったのでは!?
「先生、こっちに座ってください。部屋の温度は大丈夫ですか?あ、座布団もう一枚いりますか?」
紗弓は割とご機嫌だ。
あれで正しい言い方だったらしい。
部屋の中央にあるちゃぶ台に案内された。
百合子さんは既に座っている。
「あらあら、はしゃいじゃってー」
百合子さんに茶化された。
「別に、普通にお客様としての接待です」
ぶっきらぼうに答える紗弓。
「そしたらこれから毎日大変ね」
「毎日?」
「あら?紗弓からお聞きになっていません?」
「あ、はぁ……」
この場合、「はい」と言えば聞いていないことになり紗弓の顔を潰す、「いいえ」といえば聞いたことになっていて、それを忘れたり無視したことになる。
説明はしてもらわないといけないし、紗弓の顔も潰したくない。
とても難しい返事だった。
「最近、紗弓は夕ご飯を食べに帰ってはくるものの、ご飯を食べたらまた先生の部屋に行ってしまうので寂しい思いをしていました」
「……恐縮です」
今日は、なんて答えたら正解なのか分からないことが多い。
「それで、ご飯を一緒に食べるようにしたらどうかとお誘いしたんですよ。そしたら、先生もお裾分けのお惣菜じゃなくて、一緒にごはんも食べられますし!」
確かに、俺は紗弓が持ってきてくれるお裾分けのタッパーの料理をおかずにご飯を食べて生きている。
それが、食卓に並ぶ食事に進化すれば、俺の食生活は格段に良くなる。
その上、毎日百合子さんのような美人と、紗弓のようなかわいい子を見ながらご飯が食べられるのははっきり言って夢のようだ。
ただ、この考えは重要なことを忘れている考えだ。
百合子さんは、完全に俺のことを紗弓の婚約者かなにかだと思っていないか!?
あと、どこかで学校にバレた時点で、きっと怒られる。
すごく怒られる。
大人になって怒られると、異常に凹むから絶対怒られたくない!
「それにしても、先生が紗弓の担任になってくださって、『ちょー』成績が上がったって聞いてます」
嬉しそうにいう百合子さん。
なんか微妙に変な言葉が入っていなかったか!?
「紗弓ったら、『草ザコ』ですから、先生の様に優秀な方に当たって『ちょーラッキー』だったと思います」
『草ザコ』って……
微妙にネットスラングぶち込んできた。
『なあ、あれはなんだ!?』と横にいる紗弓に視線を送ってみたら、『お母さんはとてもかわいい人なので、どこからかチョイチョイ若者言葉を拾ってきて使ってしまうのです』とこっそり教えてくれた。
なんだろう。
中年のお父さんがやると殺意すら浮かぶそれも、百合子さんがやるととてもかわいいことのように感じる。
美人チートだった。
「先日なんて、学年一位だなんて『ヤバく』ないですか?」
『紗弓、あれは日常茶飯事なのか!?』とこっそり聞くと、『はい、チャメシゴトです』と返ってきた。
「もっと行き来しやすいように、そのうち、101号室と102号室の壁に扉を付けましょうかね」
オーナー様はとんでもないことを言い始めたのだった。
そして、俺の意思は別にどうでもいいみたい(涙)。
こうしてちょっと面白い夕食の時間は過ぎた。
百合子さんは、紗弓と一緒にゆっくり食事ができたら満足だったみたいで、食事の後は嬉しそうに後片付けをしていた。
■■■■■
「先生、先生の部屋に行きましょう」
部屋でコーヒーをいただいていると、紗弓が提案してきた。
「ん?どうしたんだ?」
「例のアレをお願いします」
「例のアレ?」
紗弓がどこからか100点の数学の答案用紙を取り出して、俺に見せた。
ちなみに、すごいどや顔だ。
「もしかして、あれはまだ続いているのか!?」
「もちろんです、いったい何のために頑張ったと思っているんですか」
「うぐっ……」
そう言われると弱い。
後になって、あれは初回だけでしたみたいに条件を追加するのは『後だしじゃんけん』。
俺が大人にしてほしくないことランキングでもかなり上位にくる。
それを紗弓に強いることはしたくない。
「……わかった」
紗弓はご機嫌な笑顔だ。
よく実の母親の前でそんな話できるなぁ……
場所は変わって、俺の部屋(うち)。
変わったと言っても、101号室から102号室に移動しただけだ。
近々付けられてしまいかねない壁の扉は、まだ今日のところはないので、普通に玄関から出て玄関に入った。
そう言えばなのだけど、俺の部屋(いえ)に入る時に紗弓が私服なのは珍しい。
なんかちょっと違和感があるな。
フリル付きの白いブラウスに紺のミニスカート。
紗弓は清楚系のコーディネートが似合う。
担当する生徒が私服で俺の部屋(いえ)に……罪悪感すら芽生え始めたわ……
部屋に入ると、紗弓がそのブラウスを脱ぎ始めた。
「こらこら!ブラウスを脱ぐな!ブラウスを!」
「でも、邪魔になるかと思って……」
「お前は一体何をするつもりなんだ!」
紗弓はいつも通り、どこかすこーしだけズレている。
まあ、そこも面白いと言えば面白いのだけど、少し危うさも感じる。
外でも、誰にでもこうじゃないよなぁ。
心配だなぁ。
割とガチで……
「先生、場所ですけど……」
「場所?なんの?」
「もう!キスの場所です!」
「あ、はい……」
そう、テストで100点取ったらキスをするという少女漫画みたいな設定があるのだった。
ただ、前回は『口以外』という設定だったので、お腹やら下腹やら逆に際どいところも指定されて、グズグズになってしまった。
「今回から『口』も項目に入れていいんじゃないでしょうか!?」
「え?なんで?」
「好き合う二人です。口を避ける理由など一切ありません!」
紗弓がその場で立って右手を横に振り上げて力説した。
「ちなみに、拒否した場合は?」
「『舌』とか言います」
「……」
「『乳首』も入れます」
「……」
「もう…口では言うことも憚(はばか)られるところも入れます」
「分かった。口も入れてよし」
『肉を切らせて骨を断つ』という。
もう、紗弓の希望を叶えることで、これ以上過激になることを防ぐことにした。
しかし、このとき俺は、『先に無理難題を言っておいて、後から少し簡単な選択肢を出す交渉術』に既にはまっていることに気づいていなかった。
人間って単純だ。
「ちょっと待ってください」
そう言うと、紗弓は洗面所の方に行った。
ちょっと気になったので、覗いてみると歯を磨いていた。
『あ(察し)』と思うのと同時に、なぜうちに『紗弓の歯磨きセットがある!?』という疑問もわいた。
本当に油断も隙もないヤツなのだ。
……一応、そのあと俺も歯を磨いた。
「ふっふっふっ、先生、キスしてもらいましょうか!」
ちゃぶ台横にちょこんと座って目を瞑り、少し上を向いて言った。
なんか、かわいいからやめて。
約束なので、キスしようと顔を近づけると、気配を察知して、紗弓が俺の頭に手を回してきた。
「この手は…!?」
「手はどうでもいいじゃないですか。そうしたいからそうしているだけです」
なんか両手を首の後ろに回されると、同じキスでもなんか違う感じになってくるんだけど……
嫌でも、雰囲気が出るっていうか……
(ちゅ……)
紗弓が目を瞑ったまま、頬を赤らめている。
恥ずかしいのに堪えているのを見ると、ご褒美とは関係なく俺がキスしたくなってしまうんだけど……
少し意外だけど、紗弓と口と口でキスするのは初めてだ。
紗弓のファーストキスかもしれない。
ここはお互い恥ずかしそうにしたら負けだ。
できるだけ、何でもないようにふるまうしかない。
すると、パチリと目を開けて、紗弓が言った。
「先生、1『100点』でキスは何分ですか?」
「『いちひゃくてん』とは!?」
これまで生きてきた中で聞いたことのない『単位』だった。
バババッと音がしそうな感じで100点の答案を並べる紗弓。
期末は教科が多い。
その全部を100点取るってどんなチートなんだ!?
そもそも『音楽』とか『美術』とか『保健』とか『体育』で100点ってどうやるんだ!?
13教科分の答案と絵(美術分)を目の前に並べた。
美術は確か斎藤先生……人が描いた絵に65点とか82点とか付けるのはどういう神経なんだ!?
しかも、紗弓の場合100点って……
「先生、1『100点』でキスは何分ですか?」
紗弓は、1枚の100点当たりキスは何分なのか、と聞いているようだ。
キスを何分もしていたら、大変なことになってしまう。
普通、キスは『分』ではなく『秒』だろう。
そう言おうと思ったら、先に紗弓が口を開いた。
「先生、私はテストのために何時間勉強したか知っていますか?」
「うっ……」
確かにそうだ。
1時間や2時間勉強してもテストで100点は取れない。
もしそれで何とかなるなら世の中100点で溢れているはず。
これだけ100点をとりまくった紗弓の努力は果てしない。
そのご褒美となれば、それ相応でなければならないだろう。
「……1分でお願いします」
「分かりました」
あと12枚100点の答案があるので、12分間キスをするとか俺の理性は大丈夫なのだろうか。
「次、私が立っていますので、先生は私の肩に手を置いて、キスしてください」
注文が細かい!
色々なシチュエーションがあるらしい。
しょうがないので、紗弓が言う様に紗弓の真ん前に立つ。
目を閉じる紗弓。
俺が、肩に手を載せる。
一瞬ビクッとする紗弓。
それでも目を瞑ってキスを待っている。
なんだか、かわいい感じだ。
紗弓は背が低いので俺が屈むような形で唇を合わせる。
(ちゅっちゅっちゅっ)
いや、1分間のキスとかダメだ。
普通の気持ちではいられない。
あと11分とか絶対無理///
「先生、次は……」
次の更なる要求があった……
「私が横になっているので、上半身を抱き起すようにしてキスをしてください」
「なんだそのシチュエーションは!?」
「白雪姫と王子様のイメージです」
よく分からないけれど、紗弓の希望ならば叶えよう。
(ちゅ)
キスすると、またも頭に手を回してきた。
もはや頭を抱きしめられているような感じ。
唇を何度も重ねて、あごの角度を変えたりして、もはや『軽いキス』と言っていいのか……
キスしている間、紗弓が膝をもじもじしているのがなんともエロくて……
俺もつい、唇を少し開いた。
それに合わせるように紗弓も少しだけ唇を開いたので、俺はつい調子に乗ってしまった。
舌を紗弓の口の中に侵入させていく。
またも、一瞬ビクッとした紗弓だったが、歯も開いて受け入れたので、更に舌を進めた。
歯の裏側を舐めると紗弓が身体を少しくねらせた。
「んっ、ん……」
紗弓の声が少し漏れる。
その反応につい、俺の中の雄(オス)の部分が発動してしまったかもしれない。
歯の付け根の部分に舌を進ませると、紗弓は更にもぞもぞと身体をくねらせた。
膝がモジモジしている。
心なしか腰も動いているような……
今、下着の中を確認したらどんな状態になっているのか……
無意識に俺の右手は紗弓の胸へ……
(ピピピピピ)ここで念のためにセットしていたスマホのタイマーが1分を知らせた。
その音で我に返り、紗弓から口を離した。
危なかった……
取り返しがつかないところまで行ってしまうところだった(?)
「……先生、次はタイマーなしでお願いします」
紗弓が少し不機嫌そうに言った。
「あと……ご褒美は明日と分けてもいいですか?」
あ、何か嫌だったかな?
やっぱり、いきなり舌を…まずかったか。
「その……腰が抜けました」
紗弓が座ったまま立てないらしい。
俺は16歳の少女に何をしているのか……
「続きは明日以降にしよう」
「はい……」
危なかった。
つい、タガ外れるところだった。
「先生、お布団敷きますか?」
「……頼むから敷くな」
既に、ご褒美でもなんでもなくて、単にイチャイチャしているだけになっていた。
ただ、思えばこのイチャイチャのピークはここだったと思う。
まさか翌日、紗弓に人生で最大と言ってもいいピンチが起きるとは俺達二人とも予想すらしていなかったからだ。
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