07-1_ピンキーリング_その1
「なろう」の方で1話が長いと不評だったので、今回前半、後半で分けてみました。
よかったら感想もお願いします♪
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「先生、ピンキーリングが欲しいです!」
「なにそれ?お菓子?」
「まあ、お菓子みたいなものです。これくらいしかありません」
紗弓が俺の部屋で何かをねだってくる。
彼女曰く、『ピンキーリング』とやらは、かなり小さいもので、彼女の指で作られた『C』の形の親指と人差し指の隙間程度しかないとのこと。
要するに、2~3センチくらいのもの?
「じゃあ、今度スーパー行った時にどれか教えてくれ」
「スーパーじゃ、ピンキーリングは買えませんーーー!」
沙織が俺の部屋でジタバタ暴れている。
これじゃ、単なる駄々っ子だ。
学校では、クールビューティーで通っているらしいから、とてもクラスのやつらには見せられない……
そして、それは俺の担当するクラスでもある。
俺と紗弓は元々付き合っている(?)のだが、俺の勤めている高校に、紗弓が入学してきたらか話は複雑だ。
しかも、あろうことか、俺の担当するクラスに入って来やがった。
■成績発表―――――
テストが終わって数日後、成績表は、1年の学校の廊下にでかでかと貼り出されていた。
1位 十連地紗弓 800点
2位 箱崎唯 782点
3位 本田久也 723点
…
…
…
800点満点のテストで全部満点とかチート過ぎるだろ。
しかも1位と2位がダントツで3位以下との差がすごい。
貼り出された成績表の周りにはたくさんの生徒がいて、紗弓もクラスメイトに囲まれている。
「すごい!十連地さん!塾に行ってるの!?」
「いや……あの……」
「家庭教師でしょ!?かっこいい大学生とかの!」
「いえ…家庭教師は……」
「2位の箱崎さんとも仲が良いのよね!?一緒に勉強してるの!?私も仲間に入れて!」
「いえ、あの……」
「秘訣を教えて!」
「ウマニンジンです……」
「ニンジン!?ニンジン食べたら頭よくなるの!?試してみる!」
「あ、いえ……」
遠くで見てると、俺んちで駄々をこねている紗弓と同一人物とは思えない程控えめだ。
横で箱崎唯がニマニマしてみているのも面白い。
まあ、全教科100点とか超人的な偉業を成し遂げたのだ。
ここはちやほやされて、いい気分になって、次回以降も頑張ってくれればいいと俺は思う。
「せんせ、なに見てるんですか?」
箱崎唯だ。
集団から少し離れてみている俺のところまで、わざわざやってきて話しかけてきた。
「お前たちの偉業を褒めたたえるために来たんだよ」
「そんなこと言ってー、ニヤニヤして気持ち悪いですよ~」
口が悪い!
いや、本当に俺はニヤニヤして気持ち悪いのか!?
そう言えば、さっきからほっぺに皮が突っ張ってる!
もしかして、俺は!
NI・YA・KE・TE・I・RUのか~~~~~!?
……少し落ち込みました。
「なに、落ち込んでるんですか。しょぼんとした顔が可愛いですよ?」
落ち込んだ俺の袖を掴む箱崎。
すると、遠くで見ていた生徒たちが急にひそひそし始めた。
『ほら、ホームルーム中に公開告白したっていう……』
『えー!?先生と生徒で!?』
『学校的に大丈夫なの!?』
ヤバい……ひそひそされてる。
なんかちょっと泣きそう。
「せーんせ♪私達話題になってますね!ここら辺で抱き合っておきますか!」
「お前絶対俺のこと揶揄ってるだろ!」
「そんな訳ないじゃないですか。私はホームルームで先生に公開告白した頭のおかしな女ですよ?」
「自分で頭がおかしいとか言うなよ」
「だからこそ、成績はトップを取りたかったんですが、紗弓ちゃんに負けてしまいました」
「俺も驚いた」
「先生も知らないことがあるんですね♪」
「そりゃあ、そうだろう」
ふと気づくと少し離れたところで紗弓が面白くない顔をしてこっちを見ていた。
普段、学校では視線を合わせたりもしない紗弓だが、俺と箱崎が話しているのを見てやきもちを焼いているらしい。
あの顔は『夕ご飯持って行ってあげません』の顔だな。
もはや俺の食生活は紗弓『様』を外してはどうしようもないほどに崩壊している。
俺の弱い部分を確実に攻めてくる。
俺は静かに目を閉じ、手を合わせて「すいません。紗弓様、御不快な思いをさせてすいません」と念のようななにかを送った。
『プイ』と顔を背けて自分の教室の方に行ってしまった。
あいつの場合、あれでも『許してあげます』の仕草なんだよなぁ。
今日は帰りに、なんか美味しいスイーツでも買って帰ってやるか……
「先生、私の紗弓ちゃんと随分通じ合っているようですね!」
俺は目をそらして首の辺りを触って、箱崎の視線を遮る。
「……」
「今度は、朝のホームルームの前に黒板に『先生愛しています』と書いておきましょうか……」
「お前、やはり、俺を社会的に抹殺するつもりだな!?」
「大好きな先生にそんなことする訳ないじゃないですか」
箱崎は、不敵に笑みを浮かべて教室の方に行ってしまった。
俺がクビになる日は、そう遠くなさそうだ……
■部屋(いえ)――――――
コンビニスイーツを買って帰って、紗弓のご機嫌を取ろうと思ったら、驚きのことが起きていた。
帰ったら、紗弓が部屋(いえ)の中にいた。
まあ、それは毎日のことなので、全然驚かないが、テーブルの上に料理が並べてあったのだ。
「紗弓…お前、これ……」
「先生、お腹空いたでしょう?料理を作っておきました。さ、手を洗ってきてください」
ここでエンジェル・スマイル。
ヤバい。
近くにいるから慣れた気になっていたが、紗弓はとても可愛いんだった。
ぐうっ!
心臓が締め付けられるようにときめいた!
控えめに言っても美少女。
普通に言っても天使。
大げさに言ったら……もう思いつかない。
どういう事だろう。
いつもは『お裾分け』なので、料理は家でやって、タッパーに入れて持ってきてくれる程度なのに。
今日は、皿に盛ってある上に、炊き立てのご飯までよそってある。
しかも、どういう訳か、俺の帰る時間に合わせて食べごろの温度になるように準備してある。
「紗弓さん?どういうこと?これ。俺なんか気に障ることした?」
こういう時は、すぐに降参するのが大負けしない秘訣だ。
ここまでお怒りなのはかつて例がない。
「実はー、欲しいものがー、あるんですー」
この間言っていた、何とかいうお菓子のことか。
「これじゃだめ?」
さっき買ってきたコンビニ・スイーツを手渡した。
コンビニのがさがさ袋を覗き込んで言った。
「これはこれでいただきますけど」
いただくんだ。
でも、違うんだ。
「わかった、わかった。週末にちょっと離れたところに買いに連れて行ってやるから」
「ダメなんです!学校の近くのお店じゃないとピンキーリングは買えません!」
こんなにわざとらしく気を引く紗弓は珍しい。
よほど欲しいものがあるのだろう。
ただ、学校の近くでないと買えないものは非常にまずい。
普通に考えて、学校の近くで、男性教師と女生徒がニコニコしながら買い物していたら、絶対噂になる。
紗弓の手を引き、軽く抱きしめて聞いた。
「どうしたんだよ。お前らしくないじゃないか。何があったんだよ」
「……先生は法律改正を知っていますか?」
またえらく斜め上な単語が出て来たな。
『法律改正』……
「すまん、話が全く見えない……」
紗弓は抱きしめられたまま話を続けた。
「女の子は16歳になったら結婚できるんです」
「あ……」
「今日、公民の授業がありました」
「ああ……」
「2022年4月で法律が変わってました……女の子も18歳からしか結婚できません……」
知ってしまったか。
俺も法律に詳しいわけじゃないけど、4月にはちょっとテレビで話題になっていたから、何となく見てた。
紗弓がばっと離れ、真剣な顔で言った。
「私は16歳になったら、先生と結婚しようと思っていました」
俺の意思は!?
「でも……法律の壁が私たちを阻んでいます」
なんか、ちょっとかっこいい『法律の壁』。
「いっそのこと、法律を変えようか……」
ついこの間、変わったばかりなのに!?
「だから、結婚の代わりにピンキーリングを買ってください」
なんか話の間がスポーンと抜けているようで、いまいちわからないが、俺でももう、『ピンキーリング』がお菓子ではないことくらい分かる。
なんかそういうあれだ。
でも、学校の近くの店っていうのがなぁ……
「とりあえず、週末まで待ってくれ」
その間に対策を考えようと、紗弓の頭をなでながら考えていた。
ご飯はいつも通り美味しかった。
■追加打撃――――――
朝のホームルームのために教室に来た。
なんかいつも以上にざわざわしてる。
『先生、大好きです』
黒板にでかでかと書かれてあった。
少し眩暈がした。
「こ、これは……?」
「はい!私が書きました!」
俺がみんなに質問すると、箱崎が座ったままあの正しい姿勢で手を挙げた。
「はい、じゃあ箱崎さん、昼休みに職員室へ」
「はい」
いい返事だった。
無駄にいい返事だった。
ただ、周囲がわざわざし始めた。
『逢引きじゃね!?』
『二人きりになるための合図的な!?』
『露骨!』
『なんかエロくね!?』
『昼休み職員室覗きに行く!?』
悪い評判まっしぐらだな……
「先生!学級委員の十連地さんにに同行してもらっていいですか?」
「そうだな、よしOKだ。十連地頼めるか?」
「はい……」
『立ち合い者』がいれば変なことはしないだろうという考えか!?
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