09_連絡がつかない幼馴染
■葛西ユージ視点
あんなことがあった翌日、ウルハは学校を休んだ。
中学校からの連続皆勤記録が止まった。
なにかケンカかなにかだろうけど、ただ事ではなかった。
何も聞けず、何もできなかった。
聞きたいことはたくさんあったけれど、結局僕は何もでなかった。
電話にも出ないし、メッセージも既読がつかない。
寝込んでいるのかもしれない。
昼休み、事情を聞こうと思い、光山先輩を訪ねた。
「あん?誰だお前!?」
「ウルハ・・・中野さんが休んでいるので、何か知らないかと思って・・・」
「知らねぇよ!あんな女!お前生徒会か!?」
「あ、いや、僕は・・・」
光山先輩が僕の肩を掴み、顔を近づけてきて、僕にだけ聞こえるくらいの声で言った。
「俺、昨日あいつとヤったぜ。処女だったよ」
パッと顔を離して歪んだ顔で続けた。
「羨ましいか!?お前たちのアイドルだもんなぁ。でも、俺がいただいたぜ!分かったら帰れ!」
気付いたら僕は光山先輩に殴り掛かっていた。
止めることなんて出来なかった。
普段、ケンカなんてしない僕は逆にボコボコだった。
光山先輩は、周囲の誰も止められない勢いがあり、運よく通りかかった先生に止められるまで僕は殴られ続けた。
保健室で治療を受けていると、担任の霧島先生がやってきた。
「相手はお前が、突然一方的に殴り掛かってきたから、殴り返したと言ってるんだ。本当か?」
僕は、保健室の丸椅子に座ったまま担任の霧島先生に事情聴取されていた。
「本当です」
そう答えた。
事実だから、そうとしか答えられない。
霧島先生は『何でお前が・・・』と最初は信じられない様子だったが、僕の証言を聞いて、引き下がった。
5時間目になる前に、担任からその後の授業は受けずに帰宅するように言われた。
放課後にウルハをお見舞いに行ったが、おかあさん伝手で『会いたくない』と伝えられた。
「ねえ、ユージくん、その顔どうしたの?」
治療してもらったが、頬に痣が出来ていた。
顔も腫れている。
身体は痛いけれど、心にはその痛みは届かなかった。
「ちょっと、ケンカして・・・」
「そう・・・」
そう言って、おばさんは、それ以上聞かないでくれた。
帰宅後もウルハは、電話にも出ないし、メッセージも既読がつかない。
僕の部屋から超しにウルハの部屋を覗いてみたが、カーテンは閉められたままで、電気も点いていない。
昨日のアレが関係しているのだろうと思っていたけれど、これ以上僕にできることはなかった。
夜、家に学校から電話があり、僕の1週間の停学が決まった。
翌日もウルハは電話にも出ないし、メッセージも既読がつかない。
すごく心配で、すごく不安になった。
クラスメイトからメッセージが届いた。
『大丈夫か』とか『信じてる』とかメッセージをもらったけれど、僕が光山先輩に殴り掛かったのは事実だ。
しかも、逆にボコボコで、かっこ悪いことこの上ない。
もしかしたら、ウルハに迷惑をかけてしまったかもしれない。
夕方、霧島先生が訪問してくれた。
ちゃんと家にいるか確認しに来たのだろうか。
母親が1日家にいたことを伝えてくれた。
「なあ、葛西、2人だけで話が出来ないか」
霧島先生は真剣に言ってくれた。
母親もそれならばと、先生にコーヒーを出した後、買い物に行ってくれた。
僕はリビングで霧島先生と話すことになった。
自分の家に担任がいることも変な感じだったが、2人きりで話すというのも変な感じだった。
「俺は、お前が理由もなく暴力事件を起こすなんて信じられない。何か事情があるんじゃないか?ぜひ聞かせてくれ」
生徒の言うことを聞いてくれるいい先生だと思った。
そして、目が真剣だったこともあって、僕は事情を話した。
ただ、僕が知っているのはそう多くなかった。
カラオケ店の前で2人を見かけたこと。
嫉妬から2人の後をつけたこと。
自分がストーカー行為をしたこと。
マンションの下まで行ったけど、それ以上何もできなくて絶望していたけど、10分もせずにウルハの悲鳴が聞こえたから助けに行ったこと。
その後は、ウルハをおぶって家まで連れ帰ったこと告げた。
そして・・・最後まで言うか、言わないか迷ったが、自分の弱い部分を隠してもどうしようもないと思い、光山先輩に言われたことも告げ、嫉妬に逆上して殴りかかったことを隠さずに伝えた。
霧島先生は僕の話を黙って聞いた後、しばらく考えこんでいたが、その後に僕に話してくれた。
「暴力は教師として肯定はできない」
「・・・」
やはり・・・と僕は自然と下を向いていた。
「でも、男としては、俺はお前を尊敬する」
「え?」
聞き間違いかと思って顔を上げた。
「光山はお前より身長も高いし、体格もいい。好きになった女が辱められて、そこで黙ってるやつとは俺は仲良くできない」
「・・・」
「光山と中野の間に何があったかは、俺ら男では聞きにくい。ちょっと一旦学校に帰ってカウンセラーの先生を呼んでくる。女性同士で話を聞いてもらいたいと思う」
たしかに、僕が連絡しても電話もメッセージも見てくれていない。
ウルハがどんな状態なのかは分からないのだ。
「お前は、中野と幼馴染だったな。俺らだけではダメな時もある。その時は中野の力になってやってくれ」
「もちろんです」
「俺は、このまま一回学校に戻る。色々準備があるからお前は明日から学校に来い!」
「え、でも、僕、1週間停学じゃ・・・」
「うーん、学校から連絡が来るまでにはもうちょっと時間がかかるかもしれん。でも、少なくとも俺はお前の味方だ」
霧島先生は、まっすぐ僕の方を見て続けた。
「正式には停学解除してもらうけど、お前は何も悪くない。むしろ誇れ。そんなやつが停学喰らってるのは、俺は嫌だ」
「先生・・・」
ヤバい、泣きそうだ。
普段から悪い先生とは思っていなかったけど、こんなに親身になってくれるとは思ってなかった。
帰りがけ、玄関で先生が僕の肩を叩いた。
「そんな顔すんな!少しは大人も信じてみろ」
全てが解決するとは思っていないが、この先生は信じてみようと思ったのだった。
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