第十曲 時は来たれり

「っ・・・!!・・・なんで、この私がっ!!」

「そんな事言ってないで、さっさとかかってきたら?私時間がないの。」

「っ・・・調子に・・・乗るなっ!!」


不気味な音。不完全な音。襲いかかってくるその音を、私はいとも容易く打ち消す。私の音と神の音は、不協和音の典型的な例であろう。なら、より響く音が、この場を支配する。


「どうしたの?私に攻撃が通らなくて焦ってない?」

「っ・・・」


的確な私の煽りに、神が動揺を見せた。だが、その理由を教えるほど、私は甘くない。大抵のことを許せる私でも、今回はなしだった。クラを殺し、あまつさえその魂をいいように利用しようとしていた神のことを、私は許せなかった。


〜〜〜〜〜〜〜♪


音の神は、音自体である。自らの音の振動数を共鳴させ、相手を攻撃する音響攻撃が、神の唯一にして最強の攻撃手段である。実態はなく、通常の攻撃は絶対的に通らない。だがそれは最弱の防御にも成り果てる。神は音自身。それはつまり、神も一定の振動を常にしている。自らを振動させることで攻撃や防御・・・そもそもの形を保っている。・・・要するに、相手の振動数を強引に塗り替えてしまえば・・・


〜〜〜〜♪

「ア”ア”ァ”ァ”ァ”!!!!」


こんなふうに大ダメージを与えられる。


「あれあれ~?もう実体保ててないじゃん〜?」

「っ・・・!!」


体の半分以上歪んでいる神を煽る。必死に放つ音の攻撃は、私には届かない。


「ねえ。そろそろ終わりにしよう?私も、あなたにずっと付き合っていられるほど、暇じゃない。」

「っ・・・少し優勢だからって・・・」


憎しみに食われた目。神でもそんな目をするんだと、少し面白くなってしまった。

・・・でも、そんな時間も終わり。私はフィドルの弓を再度握り、音色を奏でる。


〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪


最後の最後、その音の後に・・・


「アアアァァァァ!!!!!!」


断末魔を残し、歪に全身を歪ませながら収縮し、やがて音の神は消え去っていった。



「・・・ふぅ。」


その真っ白な空間・・・私の精神世界に一人残された私は大きくため息を付いた。


「・・・感心しないよ。覗き見なんて。」


そう言って視線を上げる。先にいたのは、どこか見覚えのある顔だった。


「まさか振り払うどころか倒してしまうなんて思いもしませんでしたよ。」

「まあ、今回に関しては奇跡が重なったとしか言いようがないかな。まあ、あの神の詰めが甘かったってのはあるけどね。」


円環の女神。私をこの世界に転生させた本人がそこにいる。


「・・・終わったのですね・・・」


そんなことを呟く女神に私は言葉を続ける。


「取り繕わなくてもいいよ。どうせあの程度で神は死なない。差し詰め、憑依体や分身体といったところってのは分かってる。」

「でも、貴女に取り憑くことはありませんよ。」

「そうだね」


数秒の沈黙が流れた。


「ねえ、お願いがあるんだけど」


私は女神に向き直って口を開く。向き直した女神に私はその願いを言うのだった。


「・・、・・・・」


―――――


センパイが目を覚まさないまま、決行の日になった。広場に集まった群衆の数はおよそ20万。全員が何かしらの『武器』を持ち、その時を待つ。

腰に下げた拳銃にそっと手を当てる。センパイを守るため。そのための武器だったモノは今や人を傷つける兵器となろうとしている。


「みんな集まったわね!」


腰にレイピアを提げたミーシャルさんが、簡易的に設置された壇上に上がる。皆に緊張が走る。ついにその時が来たのだ。


「今日は素敵な日になるでしょう。民衆が、民衆のために、圧政を打ち倒す。そんな日に。」

「「「オォォォォ!!!」」」


その言葉に人々の声が響く。みな、やる気だった。私にはそのやる気が恐ろしくも感じた。・・・でも、止められない。この状況を止めれる者は、もういない。


「・・・センパイ・・・」


小さく呟く。この状況、止められるのは彼女だけだろう。でも、彼女は目を覚まさない。


「さあ!行くわよ!」


壇上を飛び降り、私の隣にミーシャルさんが立った。ミーシャルさんが駆け出すのに合わせて他の人たちも駆け出す。


「貴女には・・・申し訳ないことをしたわね。」

「いえ、私は別に・・・。本当に申し訳ないのは、センパイですから。」

「・・・そうね。」


先頭でそんな話をする。静かな街に人の足音だけが響く。気づけば王城前にまで来ていた。


「・・・」

「・・・」


堀に架かった広い石橋を挟み、銀色の鎧を纏った国軍と対峙する。正面に国王陛下がいるのも確認できた。


「我らに仇なす者たちよ‼投降するのは今の内だ‼」

「投降?無理ね‼」


最後の交渉決裂。心なしか辺りが暗くなったように感じる。


「全員‼突撃‼狙うは王の首よ‼」


ミーシャルさんの言葉に全員が駆け出す。国軍の方もこちらに向かって走り出す。あぁ・・・もう無理だ。


 私はそう思っていた。・・・いや、おそらく、その場に視認していた全員がそう思っていた。



「ぐあっ?!」

「なっ!?」


先頭、最も早く剣を交えようとしていた二人が突如、なにかの力によって弾かれ、後方まで吹き飛ばされた。突然のことに驚き、両軍が距離を取る。いや、私の感覚ではなにかの力に両軍とも押し返されたという方が正しかった。


『鳴らされたGong

今ここで始まる革命の章

受けて立つのは高貴な伝統

それを攻め落とす正義のトール


この世界で聞かないミュージックに、それに乗せるリリック、とても上手いとは言えないライムでもそれをカバーするフロウ。どこからか聞こえてきたその音楽に私は聞き覚えがあった。いや、初めて聞きはするが、とても聞き馴染みを感じたのだ。


『だが一つ

革命は酷いもんだぞYou right?

始まれば最後

辺りご覧よ

血の海肉塊鉄錆の退路

引くに引けねえのは分かってる?

それすら覚悟でそれを始める?

救世主メシアはどこだ?

おやいねえのか?

ならば好都合

私がメシアだ異議は認めない!』


一層強い語気のあと、誰も入れなくなっていた橋の中央に何かが衝突し、砂埃が舞う。数秒後、視界が晴れた先には一人の人物が立っていた。


「・・・セン・・・パイ?」



――――――――――

次回・・・まだ最終回じゃないですすいません。

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