第九曲 望んでない結末だったとしても・・・

・・・これは、フレデリカが一旦の帰還を果たす、その同時刻・・・


「・・・さて、みんな集まったわね。」


平民街、センパイがいつも音楽を弾いていた酒場。マスターが我関せずの様子でグラスを拭いている中で、みんなはステージ上に立つミーシャルさんに視線を向けていた。・・・内容は、王国への反乱・・・革命だ。


「みんなも知っている通り、王家やあちら側につく貴族はフレデリカをあんなにしただけでは飽き足らず、武力を持って鎮圧するようになってきたわ。まだこちら側の人達の譲歩で死者は出ていないようだけど、出るのも時間の問題ね。」


とてつもない印象操作であっても私達はそれを良しとする。・・・もう、この場に来てしまった以上、私達はあとに戻れないのだ。


「・・・私はもう、王家との交渉の余地はないと踏んでいるの。だから・・・」


少しの間をおいて、ミーシャルさんは言葉を発する。・・・誰もが待ち望んでいた、狂気じみた言葉を・・・


「・・・相手の武力に、こちらも武力で対抗しようと思うの。」

「「「「「オー!!!!!!!!」」」」」


歓喜の声が上がる。もちろん私も、声を上げた一人であった。


「要するに、革命ね。この国を、私達国民で変えてやろうって、そういうわけになるわね。」

「「「「「オー!!!!!!!!」」」」」


再び上がる歓声。平民、貴族関係なく、彼らの心は打倒王国で一つになる。・・・そして私も、センパイがこんなことを望んでいないと知っていても、同意してしまっている。


「・・・決行は明後日、前に私達が公演を行った広場よ。私達はそこから王城に攻め込む。いいわね?・・・なら、今日は解散にするわ。」


ぞろぞろと全員が帰っていく。残されたのは、ミーシャルさんと私だけだった。すっと、表情を変えたミーシャルさんが私に話しかける。


「・・・あなたも・・・分かっているものね。」

「・・・センパイは・・・こんな事望んでいないと、そういうことですか?」

「ええ・・・。革命になってしまうと血が流れるのは確実よ。私も、あなたも、命を落としてしまうかもしれないわ。」

「・・・それでも、やるしかないんですよ。・・・もはやこの状況、止めることなんかできない。」

「・・・そうね」


少し重たい空気が、部屋の中を満たす。「私はこれで」と、それだけ残して、私は酒場を出た。


 いつもより、侯爵邸までの距離が長く感じた。


「・・・ただいま帰りました。」

「おかえり、ロゼッタ。」

「・・・父上からの出迎えなんて、珍しいですね。」

「ああ、革命前に、君に会いたいと言って来た人がいたんだ。客間に案内しているから、行ってやってくれ。」

「はい。」


私は身を翻し、客間へと歩き始める。


「・・・こうやって会えるのも、あと少しになるな・・・」

「・・・明後日には、どちらかが死にますから。幸いそこを生き延びても、私達のどちらかは確実に死にます。謀反の罪で、私が絞首台に上がるか、反乱分子として、父上が断頭台の露と消えるか。・・・もう、戻れないんですよ。」

「・・・そうだな。・・・ウィズネル公爵家は、中立に行くそうだ。レーゼンベルトは・・・私達と同じになるのだろうな。」

「・・・」


王家派の家族と、反乱軍の私。私の事情を汲んでくれた家族のおかげで、革命の起こる当日までは、この穏やかな空気が続きそうだ。・・・尤も、このまま行けば私と父は殺し合いをすることになる。・・・なんとも皮肉なことだと思いつつ、私は客間へと足を運んだ。


コンコン

「ロゼッタです。只今到着しました。」

『入ってもらって構わないよ』


来ていた人物は分かっていた。なので、わざと礼儀を取り繕うこともしなかった。扉を開けるとソファーに寝っ転がった人物が目に入る。


「ヴァイダー様・・・」

「はあ・・・最近の君の顔色はなくないね。」

「・・・」

「・・・君の気持ちもわからなくはないよ。でも、そんな顔をしてたら、あの娘も悲しむんじゃない?」

「もう、十分悲しませてますよ。」


私の目から涙が落ちる。私の婚約者は少し興味深そうな視線を向けた後、私の言葉を待った。


「私は前世で、彼女の目の前で命を落としました。・・・これは私の方の原因ですが、彼女は自分のせいだと思いこんで、塞ぎ込んでしまったんです。そして今生、持ち直してた彼女の前に私は姿を現し、フラッシュバックさせてしまいました。」

「だからあんなに死にたがってたんだ。」

「・・・はい。・・・そして最後・・・あの夜、私は彼女を十分に守ることができたのに、彼女は刃に貫かれました。・・・ね?十分すぎるほど、彼女を悲しませているでしょう?」

「そうだね~」


陽気な声で、私の言葉を受け流す彼に少しムッとしてしまった。


「・・・でも、彼女は君のことを恨んではないと思うよ。彼女は本当に、人を大事にする人だからね。・・・でも、今回のは流石に許さないんじゃない?」

「・・・そうですね・・・」

「それでも、やるのかい?」

「・・・やるしかないんですよ彼女が見たかった世界を、私は作り上げないといけないから。もう、止めることはできないんです。」


彼が、少し考える姿を見せ、そして、言う。


「・・・それが、彼女の望んでない結末を招くことになってもかい?」


その問いに、私は・・・


「・・・」


何も言うことができなかった。

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