第二曲 告白
その怒声に全員が拍手をやめ、怒声のした方向を見る。・・・果たして、予想通りで喜ぶべきか、はたまたがっかりするべきか、それは今後の展開によって変わるものがあるだろうが・・・十中八九、がっかりするべきだろう。
「・・・ふむ。異議とは何であろう。ガープよ。」
「はい。そこにいる平民の娘が行った教師らしからぬ行為についてです。」
私を指さして睨みつけるガープ、その横で内気な少女を演じながら引っ付くリゼット。そしていつでも出れるように待機しているボセック。横目で国王を見ると、すごく気難しそうな顔をしている。彼らの後方には扉があり、ボセックの父、ヴォルノヴァ・カレリアの姿が入ってきたのを確認していた。・・・すべてが始まる。分かっていたが、心臓の鼓動は落ち着きを失っていた。
「話してみよ。」
「その娘は教師という立場を利用して、傷心状態だったリゼットを脅迫し、金銭を貰っていました。」
「・・・そうなのか?」
「は、はい。・・・落第させられたくなければ金銭を持ってこいって言われて・・・仕方なく従っていました・・・」
小声で声を震わしながらガープの後ろの隠れる。「何言っているんだ」とすごく小さい声で呟いた国王の言葉を、私は聞き逃さなかった。
「・・・それで、それを証明するのは?」
「私が目撃しました!!放課後、校舎裏に呼び出し、金銭の入った封筒を貰って笑っているそいつを。」
すかさず話に入ってきたのは今か今かと待機していたボセックだった。・・・そして特大の墓穴を掘ったがために、ヴェルが思いっきり吹き出しそうになって顔を隠す。それをドットリオが「大丈夫ですか?お姉さん」と寄り添っている。
「なるほど、何をいいたいのかが私は分かった。それで息子よ、お前は何を望むのだ?」
「俺は、そこの罪人を捕らえ、公に罪が公開されることを望みます!!」
そういい切った。国王は「そうか・・・」と呟き、大きくため息を付いた。
「フレデリカよ。反論はあるか?」
私にそう問いかける。視線を動かし、周囲を見る。全員が私のことを見ていた。・・・準備万端。そう思い、私は顔に貼り付けていた笑顔の仮面を外した。
「反論も何も、証拠が少なすぎて何も言えないですね。」
「証拠ならある!!」
「ボセックの証言?悪いけど、この茶番が始まった段階から今か今かとソワソワして話に入ってきた人の証言は、はっきり言って信憑性に欠けるわ。・・・それ以上に、人の証言よりももっと重要なものが出てないでしょう?」
「・・・何だと?」
私が言い返すなんて、そもそも国王が私の反論の時間をとるなんて思っていなかったのか、私の言葉一つ一つに動揺を見せる三人。
「聞けば、あなた達は以前のレーゼンベルトの騒動のときも中心にいたそうじゃない?で、その時のあなた達の陣営にいたのがもうひとり、ドットリオ・ウィズネル。」
「何が言いたい?」
「学んでないのね。あの騒動が有耶無耶になったのは本来出てくるべきだった映像魔法が出てこなかったからでしょう?それで、あなた達にも変に疑いも目が向いた。」
「それが何になる?」
「なんで、今回に至っても物証が一つたりとも出てこないの?流石に映像魔法は無理だとしても、記録魔法は誰だって使えるわけだし、私が受け取ったっていう金銭を回収して証拠にしたりできたでしょう?」
「・・・」
黙り込む3人。他の貴族たちも、薄々気づいていた。だから、今度は疑いの目が彼らに向く。
「出てこないんだ・・・まあ、そうだよね。実際にあった事実ではないんだから。私を嵌めるためにでっち上げただけだもの。」
「・・・なぜそう言えるのですか?」
「ボセックくん、君言ったよね?私が放課後にリゼットさんを呼び出していたと。私は放課後にピアノ以外の楽器演奏のゼミをやってるもの。完全下校時間の8時まで。」
会場がざわつく。「8時まで?」「はい、私も受けたことはありますが毎日8時までずっと楽器を弾きます。校舎裏に生徒を呼び出す時間はないでしょう。」「そうだよな。到底無理な芸当だ。ボセック令息はなにか勘違いをしておられる。」など、ボセックの発言を否定する言葉が次々と発せられる。
「私は9時以降に目撃しました。」
「私は平民としてやってる仕事もある。8時半から12時まで平民街の酒場で演奏してる。以前も演奏仲間と屋外演奏していたわけだし、言いがかりをつけてきた貴方が知らないはず無いのだけど?」
「ッ・・・」
何も言い返せなくなった3人に、「それに」と続けて言葉を溢す。感情なんてこもっていない、空っぽな声で
「私は一人になると衝動的に自殺しようとする。常に誰かが隣にいないといけない人が、わざわざ一人で、人を呼び出すなんてことある?」
会場の空気が固まった。私の言葉に、誰も続けない。その静寂が、この濡れ衣が完全に晴らされたことを立証していた。
「じゃあ、・・・・・・今度はこっちの番だね。」
私の言葉に殆どのものは困惑した。
「まあ、と言っても、告発は私じゃない。私の役目は囮。王子グループの注意を私に向けて、調査の警戒をさせないための・・・ね?」
見事に策が嵌った。そう相手に思わせる。実際そうなのだから。今更、私がなぜ教師をしているのか、あんな堂々と求心力を見せつける行動に出たか、そんな事に気づいたってもう遅い。既に証拠は揃いすぎていた。
ヴェルとドットリオが私の前に出てきて、ガープ達に向かって言葉を発した。
「この場において、カレリア家当主、ヴォルノヴァ・カレリア及びボセック・カレリアが第1王子ガープ・ウィル・フェデラックを利用し国家転覆を図ろうとしていたことを告発します。」
と。その言葉で会場は一瞬の静寂を見せ、またざわつきを見せ始める。何より驚いているのはガープだった。
「・・・証拠はあるのでしょうか?国家転覆罪は即処刑相当の大罪です。証拠もないのに言われたらたまったものではないのですが?」
「証拠はこちらに記録させていただいております。」
そうして、ヴェルは大きめの羊皮紙を一枚取り出し、そこに魔力を流しはじめた。『歴史の解答用紙』という名目で、私がヴェルから貰い、国王に横流ししていたもの。実際はボセック及びカレリア家を中心とした人物の国家転覆を裏付ける音声を録音したものである。
「それでは、流します。」
『ふむ。そのフレデリカという少女、お前はどう思うのだ?』
『正直申し上げると、危険度はかなり高いかと思われます。彼女は国家構成の大半を占める平民すべての心を掴むことが可能です。我々が忌々しきフェデラックから政権をとった後に反乱でも起こされたら、流石に我軍すべてを持ってしても抑え込むことは不可能でしょう。』
『なるほどな。・・・早急に彼女を片付けろ。手荒な真似をせずとも、今はただの平民だ。どうとでもなる。』
『はい、父上』
「と、これ以外にもありますが、私は魔力量が少ないのでこれ以上は身体に毒になりますので以上にさせていただきます。」
全員が沈黙する中で、ヴェルは優雅に羊皮紙をたたみ、国王陛下に手渡した。更に続く沈黙。それを打ち破ったのは会場に大きく照射された映像・・・現在、王国において、法務大臣を務めるフレデリック・ウィズネル、そしてその息子、稀代の天才とまで言われた少年、ドットリオ・ウィズネルのみが扱うことの出来る映像魔法だった。
『正直、ドットリオくんいる?私にはそこまで必要とは思えないな〜』
『そうだな・・・なら、この際事故死に見せかけてさっさと殺しておくほうがいいか。』
『でも、映像魔法は貴重だよね〜。あ、そうだ!国王さんを殺すところまでは利用して、全部罪着せて処刑すればいいんじゃない?』
『おお!流石リゼット。名案だな!』
リゼットと、ボセック。二人のそんな映像が流れる。場に沈黙が流れる中、天才と称された彼はそっと、
「救ってくれた分の恩恵は、まだまだ足りないかもしれないけど」
と、呟くのだった。
――――――――
しばらく音楽要素のない話が続きます。
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