番外特別編 幽霊と瓜火のSerenade

このエピソードは番外編です。音楽要素皆無、過剰なイチャイチャ、第三章終了後の世界観の要素が含まれます。それでも良いという方は引き続きお読み下さい。


「れーくん、準備できた。」

「ああ・・・・前が見づらい。」

「それはジャックオーランタン引いた自分を恨んでね。」

「・・・はぁ〜。しょうがないか。フェリカのいい姿も見れたし、それで我慢するよ。」


日が落ち始める頃、私とれーくんは私の自宅の庭にいた。パンプキンマスクを被り、執事服を着たれーくんと白いローブで身を包み、認識阻害魔法で足を透かしている私。王都の方には私達と同じ様に仮想した子どもたちが無邪気に走り回っている。今日は日本、太陽暦で言うと10月31日に当たる。ハロウィーンの日だった。事の発端は婚約破棄騒動の終結後すぐ、ロゼが祭りをやりたいと言ったことだった。私がイベントを計画しライザス商会に通す。イベントはその年から大盛況だった。3年目になるこの年から正式に「仮装甘祭」と名前も変わり、規模が大きくなった。


「あまりそんな事言わないでよ。たしかに私達はもう夫婦になったわけだけど・・・それでもであることには変わらないからね。」

「はいはい。普通のコドモはそんな大人しくないけどね。」

「それはそうだからそこ突くのやめて。・・・さて、行こうか。」


私はお菓子を入れる用の小さなパンプキンバケツと、お菓子を入れた大きな白い袋を持って、れーくんの手を引いた。日が沈み始める王都。寒さを忘れた子どもたちが駆け回る街に、私達は融けてゆくのであった。



「あ、フェリカお姉ちゃん!トリック オア トリート!お菓子頂戴!」

「ふふっ。はいこれ。仮装甘祭、楽しんでね。」

「はーい。」


私が持ってきた大量のお菓子、それは他の子供達に配るため。大量にパンプキンクッキーを焼いていたのを持ってきていた。


「フェリカ、余りそうか?」

「そうだね。かなり焼いてきてたから。多分近くにロゼたちも居るから持ってってもらっても良い?」

「分かった。」

「レグルスお兄ちゃん!とりっくおあとりーとっ!」

「あ・・・すまない。俺じゃなくてフェr」

「じゃあイタズラ受けてね!」

「えっ?あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


子どもたちにツボを押されて悶えるれーくんを見ながら私はお菓子配りを続ける。・・・ただし、注意力は欠けると、私は知らなかったが。


「お姉ちゃん、それ、砕けてるよ?」

「えっ!?あっ」

「お姉ちゃんもイタズラだね!」

「ちょっ!ツボだけはっ!!・・・ふぇ?」

「えへへ〜お姉ちゃん、ちっちゃいお母さんみたい」


子どもたちが次々に抱きついてくる。・・・ツボ押しの想定は杞憂だった。が、その代わりれーくんからの殺気は半端じゃなかった。


「ふふっ。じゃあ、そろそろいいかしら?私の旦那さんが嫉妬しちゃってるからね。」

「「「はーい」」」

「ちょっ!はぁ!?」


困惑するれーくん、小悪魔じみた笑いをこぼす私、数時間後にこの関係が反転するなんて私は思っていなかった。何も知らない私は、普通にお菓子を配り終え、満月の輝く夜の街へと繰り出していくのだった。



「ふぃー。やーっとおわった~」

「おつかれフェリカ。」

「うん。れーくんもお疲れ様。主催側じゃないのに突き合わせてしまってごめんね?」

「いや、大丈夫。」


すでに夜も更け、満月は青白く光を発する。段々と人通りも少なくなってゆき、家々から溢れる明かりも少なくなってゆく。既にランタンの灯火は消えており、子供たちの姿は私達を除いて見えなかった。そう、こうしている間にもみるみる人通りは少なくなってゆく。片付けの終わる頃には人の気配は私達を除いてなくなっていた。


「そういえば・・・さ」

「ん?なぁに?」

「俺って、主催側じゃないんだよな。」


少し、イタズラなトーンにれーくんの声が変わった。それに私は少し身構える。ただなんとなく、私は嫌な予感がしていた。


「なら、trick or treatって、大丈夫だよな?」

「あっ・・・」


完全に失念していた。そう、この祭りは確かにライザス商会の主催であるものの、れーくんはボランティアであり、私は今日、彼のことをと言った。つまり、必然的にれーくんはお菓子を貰う権利があるのだ。


「お菓子がないなら・・・分かってるよな?」

「・・・うん。」


なんとなく、れーくんが所望しているものが分かったのは、私に前世の記憶があり、そして前世の私が男性であったからだろう。静かに認識阻害魔法を解除する。月明かりに照らされ、薄いローブを透過して私の体がはっきりと写った。元々衣装の関係でローブ以外纏っていなかったため、ローブを透過して見えるのは、これから何をするのか想像を掻き立て、湧き上がってくる劣情を抑えられなくなった私の体だけであった。


「・・・」

「・・・」


平民街の中央広場、半年前に建てられたとある王女の銅像の前にある、小さなベンチ、そこに腰を掛けたれーくんは無言で私に手を広げる。そして、私も無言で彼の胸に顔を埋める。背中に回る大きな手。そっと抱きしめて、私に温もりと安心感を与えてくれる。

・・・最近、よく思うのだ。れーくんが私の夫で本当に良かったと。私は本当に幸せ者なんだと・・・


「・・・フェリカは怖くないのか?」


さみしげに、心配気に聞いてくるれーくんの言葉。目的語が発されていないのにも関わらず、私はその言葉を完璧に翻訳し、そして言葉を返す。


「・・・怖いよ。いつも呑気な顔しているけど、本当は誰よりも怖がってる。・・・いや、本能的に怖がっていないといけないって、そう思っているのかもね。」


急に灯火が消えてしまう。月光だけで照らされる私は、本当にれーくんに映っているのか?私の目にれーくんは映るのか?それが分からなくて、私は本当に怖くなる。乱反射を拒み、ハイライトをなくした右目。それが左目までそうなってしまったら?私はれーくんを見られなくなってしまい、恐怖するだろう。・・・そして恐怖した私の取る行動は―――だろうと、簡単に予想がついた。


「ねえ、れーくん?こんな事言うなんて私らしくないかもしれないけど、いい?」

「・・・ああ。いいよ。」

「・・・そう・・・だね・・・。まず、君に贈る私からのお菓子は、独占欲に縛り付けられ、黒い甘さのある私の心と、恐怖と、危機感と、貴方に劣情を抱いたこの体だよ。・・・そして・・・


私のこと、どうしたって良いから・・・私のこと、捨てないで下さい。貴方のために、私、がんばr」

「フェリカッ!!!!」


一切目を見ていなかったが、抱きしめる力が強くなり、手が小刻みに震え、胸に顔を埋めた私の頭に水滴が落ちてきて、そして苦しく叫ぶように私の名前を呼んだところで、私はれーくんがどんな表情をしているのか理解した。


「話さしてくれないじゃん・・・嘘つき」

「・・・そんなことは・・・どうだって良い。フェリカ、俺は心からお前のことが好きだ。・・・正直なところ、お前の俺と出会うまでの11年間がどうだったとか、お前の前世がどうだったかなんて、死ぬほどどうでもいい。でも・・・そんな過去に引っ張られて、俺から見放されるなんて思わないでくれ・・・頼むから・・・さ・・・。俺からしたらお前は俺の唯一無二で、この世界で最も大切な人なんだ。だから・・・


そんな悲しいこと、言わないでくれ・・・」

「っ・・・」


涙がこぼれ落ちる。隠そうとも思わなかったし、れーくんの服が汚れるなんてことも考えてなかった。


「そうだね・・・ごめん、杞憂だったみたい。」

「俺も杞憂に出来るように頑張るから・・・もうこの悲しさは忘れよう。」

「うん。」


顔を上げ、体勢を直す。れーくんの首の周りで手を回し、顔同士を近づけてゆく。やがて唇同士がそっと触れ合った。


「んっ・・・」


口に中にれーくんの舌が入ってくる。少し粘性のある液体を纏った舌同士が絡まり合い、少し淫靡な水音が立つ。お互いの口を行ったり来たり、興奮で唾液が粘性を強くするなんてことあるのだろうか?・・・まあ、少なくとも私達の唾液の粘性はどんどん強くなっているわけだが・・・

数秒、いや数分。ようやく唇同士が離れた。糸を引いたところに青白い月光が降り注ぐ。糸を優しく拭き取り、見つめ合う。


「今夜はハロウィンだ。夜の祭典の日に寝るなんてもったいないだろう?安心しろ、朝まで寝かしてやるつもりはないさ。」

「ふふっ・・・お手柔らかにね?じゃないと、永遠の眠りに・・・なーんてね。」


私達の夜は更けてゆく。恋心を植え、愛情を育て、そして二人の関係を紡いでゆく。ヒトが変わらずやってきたサイクルの中に、私はれーくんと迷い込んだ。ただし、私にはそれが幸福で、そして満足だった。このまま二人で・・・ずっと・・・







「・・・今年入って10件目ですね。ええ。お盛んなのは良いんですよ?でもね、深夜に公共の広場でやった挙げ句そのまま朝までぶっ倒れるなんて・・・せめて誰にも気づかれないうちに帰ってください。・・・帰ったとしても、私達がまず疑いをかけるのはあなた達なのでどっちみちここにいたでしょうが・・・。まあ、とにかく、やるのは家でやってくださいな。王国一の甘々ご夫婦さん?」

「「ごめんなさい」」


翌日、私達は王宮・・・の地下にある独房にて、警備組織長官のヴェルフェゴール・ウィズネルより説教を受けていた。


――――――

正直、このお話はBAN覚悟です。削除したらすいません。もっと健全なイチャイチャ出します。

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