第十四曲 最高速で消失する
「君、少し良いかな?」
「・・・何でしょうか?」
結果から言うと、ライブは大成功だった。多くの人に来てもらえて、大きな歓声が上がり、私達まで幸せな気分になれた。問題児たちの姿は見えたが、特に気にしていなかった。しかし、この成功をよく思わない人達もいる。例えば、求心力を奪われたと認識する貴族連中、もしくはその子供。・・・そう、今目の前に立っている人物、ボセック・カレリアや、ドットリオ・ウィズネルとか・・・
「君たち、一体誰の許可を得てこんな大規模な催し物をしているんだい?まさかとは思うが、独断でやったとか・・・」
「何を仰っているのかわかりませんが、紹介でも話した通り、この楽団にはライザス商会の令息とバイエルン子爵家の者がございます。」
「平民商会と子爵家の独断で執り行ったのかい?」
「いえ?王都管轄のレーゼンベルト家より直接許可はいただきました。・・・そもそも、お二人のお家は王都管轄ではないですよね?道理が通っていないこと、分かっておりますか?」
「・・・なぜ私達の家名を知っている?」
「有名ですよ。濡れ衣で周囲多数に迷惑をかけている2大公爵家ですからね。」
「ッ!!もう良い。帰るぞ。」
都合が悪くなったら帰るのか。虫の居所が悪かったらその場から逃げ出すほか連中様たちと一緒で・・・
本当に責任を取りたくないんだな。
いやはや、今の貴族は腐ったものだな。そんなことを思っても仕方がない。なので私は・・・
「何も考えずに暗殺者を雇う人たちですものね。ああ、これは秘密事項ですかすいません。人に怯える前にリスクヘッジをしないといけませんね。」
聞こえるぐらいの声量でそう呟いた。顔が赤い。まさかとは思うが、平民がドストレートに言わないなんて思っていたのだろうか。勘違いも甚だしいところだ。・・・今まで立つだけで人が道を開けるような世界に生きてきたのだろう。・・・残念だが、王都の平民街にそれは通用しない。諦めてくれ。私達の道は私達にあるのだから。
「フェリカ〜、こっちの片付け手伝って頂戴。」
「は~い」
お母さんに呼ばれ、そっちに向かう頃には彼らの姿は見えなくなっていた。
「クソっ!!平民のくせに!」
「・・・お前たちもあのガキになにかやられたのか?」
・・・警戒はしておこう。いくら鷹の目がいるからといって刺客でも雇われたらたまったもんじゃない。まず第一に何をそんな平民に突っかかってくるんですかね?あれですか?新政権で反乱でも起こすと思われてるんですか?だったら反乱が起きないような政治すれば良いじゃない。
「さーて、みんな〜!祝杯上げに行くよ!!」
「「「「おー!!」」」」
意外に早く嵌めようとしてくるのは、このときの私には予想外だった。さすがにもっと正式的に貶めてくると思っていたのだから。
翌日、いつものように出勤したところで私は変わった風景を目にすることになる。
「・・・あんなに休んでたのに案外すんなり来るんですね。」
そう、長期的に休んでいたリゼットとガープが学院に来ていたのだ。正直理由なんて簡単に想像できたが、まあ、子供の八つ当たりだわざわざ他の教員との話で出す必要はないので話には出さないでおこう。
「では、私は授業あるのでこれで。」
「はい、行ってらっしゃい。」
話していた先生と別れ、私は音楽室に向かう。私が向かう頃にはもうみんな着席していた。
「は~い。授業始めるよ〜。えーと、今日は?」
「せ、先生!!」
「ん?どうした〜?」
「こ、これ・・・」
授業を始めようとして、そこで彼らが行動がした。私のもとに駆け寄ってくるリゼット・ノーツ。震える手で私に封筒を手渡す。中には・・・なるほど、チャリーンと・・・
「こ、これで私、落第は防げますよね。・・・言うとおりにしました・・・」
「うん?ごめんけど、誰かと間違えてない?それとも話を聞き間違えた?」
「え?」
「何を言っている!お前がリゼットを脅して金銭を持ってこさせたんだろう!?がめつい平民め!!」
「いやあんたが前までやってた行為でしょ?」
「・・・なんだとっ!!」
・・・常習犯が見つかった。この王子、素質ねえなって思っていたがやっぱりお金渡してたのか。で、こいつもそうだろうから上手いこと貶めれると考えたのだろう。
「・・・ガープ様、発言をよろしいでしょうか。」
「なんだ、このガキは既に何かやらかしていたのか!言ってみろ!」
「フレデリカ様は私達の授業の場、及び全校朝礼にて堂々と金持ってきた人は落第にすると申しておりました。」
「ははっやっぱ・・・え?」
「ですから、リゼット様は勝手に墓穴をほっただけかと・・・」
「ッ!・・・・・もう良い!帰るぞ」
「いや帰るんかい!!せめて授業ぐらい受けろよ。」
条件反射とは怖いものだ。気付けばそう言葉が漏れていた。しかし言ってしまったものはしょうがないので冷静に落ち着いて対処する。
「はあ・・・今回の件は不問にするから、さっさとしまいなさい。それで席について・・・」
「チッ!!」
「・・・はい・・・」
そうして席に座らせ、授業を進めてゆくのであった。そして終始不機嫌なガープと顔真っ赤なリゼットはこの授業が終わった後に早退したらしかった。・・・マジで私を嵌めるためだけに学校に来たのか・・・そう思った私はそっと、成績表に赤い数字を書き込んだ。・・・正直、私が不機嫌だったことは認めざる得ないだろう。
「先生、この後時間ありますか?」
「どうしたの?ヴェル。」
「歴史の解答用紙を提出したいので。」
「お、りょーかい。」
放課の終了になるホームルーム。号令をかけて、ホームルームを終えた直後にヴェルフェゴールにそう言われ、呼び出された。音楽準備室に彼女を呼び出し、彼女の持ってきていた厚い羊皮紙を受け取った。
「たしかに受け取ったよ。・・・というか、昨日の今日で公爵様のサインが入ってるなんてすごくない?」
「父上は現在、ひっそりと王都別邸にいるんですよ。ドットリオが王都本邸にいるのでそちらには行けれませんが」
「なるほどね・・・よし、一応聞かせてもらったから、これを・・・」
羊皮紙を再びヴェルフェゴールに渡す。これからあの紙は夜にも王宮に送られることだろう。
「さーて、ねえヴェル?」
「はい、何でしょう?」
「私今日嵌められそうになった影響で機嫌が悪くてね。」
「あー、機嫌直すために手伝えってことですね。」
「そうだね」
ピアノを開き、ヴェルフェゴールを座らす。譜面台に楽譜を置き、準備は完了。演奏を始める彼女に指摘をしつつ自分も補助をする。・・・正直、この瞬間がこの学院内で一番楽しい。ここ最近で彼女のピアノスキルは大幅に上がった。「フレデリカ先生のおかげです!」って笑顔で言ってくれるのはもちろん嬉しいが、最初は鋼鉄のように固く無表情か、悲しい顔しか見せなかった彼女が頻繁に笑顔を見せるようになったことも私にとっては最高に幸福を感じていた。他のクラスメイトからも「担任がフレデリカ先生になってからヴェルフェゴール様が笑うようになった」と聞くようになり、少し誇らしく感じる。
「おっと、そこは中指だね。次の音が薬指だから、中指で押すとスムーズだよ。」
「あ、ほんとだ・・・」
私達のピアノは続いてゆく。気付けば下校時間を過ぎ、真っ暗になるのもいつものこと。
「・・・そう言えば、私、フレデリカ先生のピアノって聞いたことありませんね。以前の弦楽器から上手いのは分かっていますが・・・少し聞いてみたいです。」
「「「私達も!!」」」
「え、えぇ・・・」
すっかり仲良くなった音楽教師陣もいつの間にか音楽室に来ていた。困惑しながらも席に座り、鍵盤に手をおいていた。
「しょうがないですね。では、一曲だけ・・・」
私は前奏を始める。ゆっくりとした曲調、高音。正直この中の誰も、この曲がいきなり変わり果てるとは思っていなかっただろう。
私の選んだ曲は・・・『初音ミクの消失』。数々の歌い手、楽器奏者を苦しめてきたボーカロイド曲だ。
いきなりの鍵盤連打。左手のアレンジ伴奏が目立たなくなるほどにしかも、ただ連打しているだけではなく、たまに上下に音が変わる。ベルフェゴールやほか教師たちも一切聞いたことのない曲調、それはそれは驚いていた。連打が終わった後も流すように超速で弾いてゆく。いきなり曲風が変わった上に大音量で響くのだ。何事かと駆けつけてきた先生方もいた。
「ちぇー。少し規定よりも遅かったかな・・・まあ、次のフレーズ少し早くしますか・・・」
「「「「え?」」」」
本来なら歌が入ってくるフレーズでテンポを少し上げた。常に動き続ける両手。正直な所、ほとんど音感と鍵盤の位置、そして長年の勘を頼りに曲を弾くため、自分自身が手の動きを追えていなかった。サビもそのままテンポを落とさずに、最高速で駆け抜ける。そしてまた連打。と言っても今度は左手の伴奏を強調するように手を動かし、左手のアレンジで乗り切ってゆく。歌の間奏になる所、AメロBメロ、サビと順調にクリアし、最後の連打ゾーン今までのどれよりも早く、正確に弾き・・・そして腕を壊した。最後の和音を引き終わって手を離した途端、
「だぁぁぁ!!!!!!右手いっだぁ!!」
そう叫んだ。
――――――
お読み頂き有難うございます。文字数オーバーしていますが少し雑談を入れさせて下さい。
さてさて、今回お話するのは6大公家、フェデラック家、レーゼンベルト家、シャンパーニュ家、カレリア家、ウィズネル家、ヴィッカース家についてです。
この6大公家はフレデリカの住まう「王国」の始祖に当たります。始まりは古く600年前、現在は大陸の最東端まで縮小したとある帝国からの独立により誕生しました。最初に発足したのはレーゼンベルト、ヴィッカースでそこで独立してからレーゼンベルトが分裂してフェデラックが生まれ、帝国に滅ぼされた王国からの編入でシャンパーニュが発足、帝国から独立したカレリアが財政難を理由に編入、最後に帝国と5大公家との戦争で武勲を上げたリューベック・ウィズネルが叙爵し、6大公家となりました。実質的な発足順はヴィッカース⇒シャンパーニュ⇒レーゼンベルト⇒フェデラック⇒カレリア⇒ウィズネルとなります。ちなみにウィズネルは他国家からの編入地域が多いため、「王国」と多少異なる読みがあります。例えばベルフェゴール。公爵領では「ベルフェゴール」と呼ばれますが王都では「ヴェルフェゴール」と言われます。他領地でも同じようなものがあるのでもしかしたら伏線に盛り込んでいるかもしれません。
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