第十三曲 音色紡いで・・・

始業式から1週間ほど経ち、ある程度授業が進み始めた。高等学年の音楽科授業も始まったが、ガープを始めとする婚約破棄騒動の原因たちは体調不良を理由に欠席し、未だに会えていないのが現状であった。


「・・・そう言えば、私の成績の付け方教えてなかったね。」

「先生、他の先生方とは違うのですか?」

「そうだね。基本的に私は単位制。日々の出席や提出物、実技テストの得点をもとに単位を付け、それを成績としてつけているよ。それで、しっかりと単位が取れていたら無事に進級できる様になるよ。まあ、進級できないことなんて殆ど無いけどね。」

「・・・先生、単位が取れない場合は・・・」

「もう一回同じ学年をやってね。ってことだね。と言っても、しっかりと授業聞いていて、ちゃんと授業にも出てて、指定した課題をちゃんと出して、テストで30点以上を取っておけば、引っかかることはないよ。・・・減点行為は、累計一学期分の授業欠席、授業中の睡眠、未提出課題があまりにも多すぎる、テストの点数が30点未満。・・・減点するだけで即落第は無いから安心していいよ。」

「えっと・・・話が見えてこないのですが・・・」

「要するに卒業したければ余計なことせず真面目にしとけってことだね。あ、知ってると思うけど、悪い金持ってきたやつは一発で即落第だからね。」


さらっと成績付けの話をして、その日の授業を終わらせた。


「あ、明後日の休日は私いないから、そこんところよろしく。」


そう言い残して。


 そして、2日後。なんとか休みを取り付けた私は、平民街の中央広場に設置された仮設のステージの上に、フィドルを持って立っていた。壇上にいるのは演奏仲間たちと、ヘレンがいた。


「はーい!!皆さんこんにちわー!多分ここに居る皆は私のことを知ってる人のほうが多いんじゃないかな?フレデリカでーす!」


いつもは商業品が売られる市が行われる広大な広場を、埋め尽くす様に人が入っている。こうなるようになったのは始業式が始まる前、今から2週間前まで遡ることになる。


「発表?」

「はい!ライザス商会が資金提供をしまして、中央広場で皆さんの演奏を王都の皆様に聞いていただけたらと。」

「屋外ライブか〜。でも、本当に人集まるの?」

「規模としては王都の平民、貧民総合人口の4割、1万2千人ほどの観客が来ると予想できます。フェリカさんたちの演奏は評判になっていますからね。今じゃ王都以外のフェデラック国内でも平民の中で噂になっておりますよ。」

「ほへ〜。・・・じゃあ、4日前から準備を始める方向で、検討しておいてくださいな。」

「はい!明日には告知を出させていただきます!」


そうしてこの屋外ライブが決まった。告知が王都平民街に即座に張り出され、そしてその後の市で告知の内容が広まりを見せたおかげで今日の観客数は予想を遥かに上回る2万人超が来ていた。中には仕事を休んで来ている人もいるそうだ。・・・日本武道館よりも多いって・・・マ?なんて思いつも、私はこんなにも集まってくれたことを内心嬉しく思っていた。


「それでは!最初か手拍子ありでいきますよ!手を大きく上げて!タン!タン!タンタンタン!そのリズムでお願いしまーす!」


音響魔法で私の声が響く。1人、また1人と手をたたき始め、やがてそれは大きなリズムとなる。私はフィドルを構え、他の皆も各々楽器を構える。手拍子のタイミングにあうように一曲目の初音を鳴らす。一切のタイムラグをなしに全員の初音が合った。1小節を引き終わると観客席の方から歓声が上がる。そして私達の喜びもそれに合わせて上がってゆく。フィドルの動きが段々と滑らかになり、音色がきれいになってゆくのを自分でも感じていた。

 一曲目が終わり、私達は一旦楽器を下げる。音響魔法、拡声魔法の付与されたいわばマイクのような道具を使って私は喋った。


「さて、一曲目が終わったところで我らメンバー紹介と参りましょう!まずはこのメンバーのリーダーから!・・・頼む!お客様の門前払いだけはやめてくれ!イーリアンバグパイプ、ヴェーテ!」


♫♪♪♫ 私の声の後にヴェーテ以外がしゃがみ、ヴェーテが持っているバグパイプを吹き鳴らす。引き終わった後にヴェーテが一礼し、また全員が立ち上がる。


「さてお次は・・・でっかい方のバグパイプ!酒飲んでから寝るな!グレートハイランドバグパイプ、ネレメス!」

「今日は交互に楽器を変えます!円満夫婦の絆を見せて!マンドリン、ブズーキ!レーゼンベルト、メリッサ!」

「酒場に浸ってるから彼氏できないんだよ!弾いてる楽器は花形なのになあ!ケルティックハープ、リサ!」

「唯一の貴族です!今日は見栄張ってるだけでいつもは仕事着の木工屋!アコーディオン、マインツ!」

「えー、母です。はい。説明薄いですが私からはそれだけでいいのです!ウッドフルート、ミーシャル!」

「お世話になってる人も多いのでは?お坊ちゃん!こんなところで楽器弾いてて良いのかい?!ボンバルド、レグルス!」

「お前らもう付き合っちまえよ。他のメンバー全員がそう思っております!打楽器担当、ヘレン、ジョンソン!」

「はい!そして私、フィドルを弾いております!最年少、一番の酒豪、そして一番偉そうなメスガキ!フレデリカです!」


全員の紹介、ソロの演奏、終わった後に来る歓声と拍手。私の喜びと楽しさは上限値だっただろう。こんなはしゃぎまわることもそうないと思いつつ、早く次の曲に生きたい欲望を制御できずにいた。


「さ~て!準備は終わったか〜?!次の曲、行ってみよ〜!」


そうして、完全にテンションの上がりきった私は大きく拳を上げ、観客を扇動し、フィドルを構えるのであった。



 フレデリカたちの演奏ライブには平民や貧民だけでなく、貴族たちも来ていた。目的は色々ある。大抵のものは気になっただったり、一度酒場に行ったものだったり、偶々通りかかってフレデリカの姿を見て立ち止まった者が多かった。・・・しかし、彼ら彼女らだけは、違う理由で立ち止まっていた。


「・・・なによ。・・・なんで本当の姫様でなくてあんな下民があんな扱いなのよ・・・。」

「ああ、次期国王より人気を集めるとは、腹が立つ・・・」


ガープとリゼット。二人は忍んで平民街まで出てきていた。婚約破棄騒動後、一時は支持を得られたものの、様々な原因が重なり、現在は事実がどうか疑われ、虫の居所が悪かったのだ。隙きを突いて抜け出してきてみれば自分たちには一切目もくれない平民たちが少女一人に夢中になっている光景に出くわした。二人にはこの少女が嫉妬の対象として、怒りの対象として見えたことだろう。


「・・・平民風情が・・・」


彼はそう言い残し、場を後にした。・・・もっとも、彼らは自分たちが相手からも見えていて、なおかつ自分たちに鷹の目がいたことを察知できなかったが・・・



「へぇ〜。彼女がね〜。・・・たしかに君の言う通り、彼女の才能は素晴らしいもののようだ」

「そう言ってもらえて何よりです。」


 ロゼッタ・リリシアは自身の婚約者、ヴァイダー・ド・ラ・シャンパーニュと共にこの公演に来ていた。正直、唯一自身が尊敬する人の公演なので、一人でこっそりと来たかったのだが、寮を出る途中でヴァイダーに見つかってしまい、仕方なく彼と来たのだ。


「しかし・・・第一王女となると・・・」

「なっ!?」


ロゼッタは狼狽した。フレデリカのことを「尊敬する人」としか言っていなかったがために、ヴァイダーから出た「第一王女」という言葉に驚いたのだ。


「彼女は平民と国王陛下の婚外子だな?彼女の魔力質が陛下のものなんだ。彼女の魔力は膨大だから、感じ取れるかわからないぐらい少量でも少しづつ魔力が出ているんだ。俺はそこから理解したよ。彼女が、


純正なる賢王の後継者フェデラック・クイーン


だとね。そうだろう?ロゼッタ。」

「ハハハ。・・・その推察力だけは感服いたします。ただし、一つ間違いがございますよ。」

「・・・彼女自身が、王になる気が無い。・・・そういうことかな。いや、だとすれば、無理やり難癖をつけてでも行けるだろう。・・・ということは彼女が王になった時、何かが起こると?」

「・・・その推察力を、今回の騒動のときに役立たせてほしかったですね。・・・正解はどちらもです。彼女は王になる気がない。それは彼女が自身が王になった時に国がどうなるのか分かっているからです。」

「・・・なるほど・・・して、どうなるんだい?」

「彼女は知っています。王権政治の危険さを。即位したら、間違いなく民主的な政治体制に切り替えるでしょう。」

「動乱の鍵になると・・・」

「はい。」


ロゼッタ・リリシアは知っていた。フレデリカ・レイラン・フェデラックの才能を、技量を、努力量を。・・・故に、彼女は恐れ、畏れた。彼女を。

ヴァイダー・ド・ラ・シャンパーニュは微笑んだ。自身の婚約者の畏れる人物、フレデリカの有用性を。しかし、彼は彼女を手に入れようと思わなかった。・・・彼女に手を出した時、自身の身の破滅を意味していると、フィドルを握った悪魔に暗示された気がしたからだ。


――――――

お読み頂き有難うございます。こちら酒坏タル、次回未定の予定ですオーバー。

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