第十一曲 ミイラ姫とカクテルとオムライス

「いらっしゃいませ。おや?フェリカさんお久しぶりです。どうぞ席へ」

「どうも。私はとりあえずインペリアル・フィズで。ヴェルフェゴールには・・・」

「ふふっ。分かっておりますよ。」

「あれ?・・・フェリカに・・・ヴェルフェゴール様!?」


マスターに案内され、席につく。流石はマスターである。ヴェルフェゴールを見ただけで私の言いたいことが分かったようだった。そして驚いたのはその隣、他の客と話しながらカクテルを作っていたフィリアだった。


「ねえフェリカ?・・・流石に人攫いはだめですよ?」

「してないってば!ねえ?」

「はい。・・・半強制的に連れてこられました。身長と体重をフレデリカ先生に言ったんですが、痩せ過ぎと・・・」

「な、なるほど?・・・ヴェルフェゴール様、ちなみに現在の身長体重お聞きしても?」

「フレデリカ先生にも聞かれましたね。163の37,7です。」

「14!?・・・え!?14!?」


驚きのBMIに驚愕したフィリアは一言。


「ヴェルフェゴール様、早急に太りましょう。」


と、状況が状況でなければ首が即飛ぶようなことを言った。当然ヴェルフェゴールは困惑しながら顔を顰めた。


「・・・見ないうちに随分失礼になりましたね。」

「あ、いえ。・・・すいません。でもベルフェゴールが太らないといけないのは事実ですよ。」

「・・・というのは?」

「さっき言いました14という数字です。肥満を表す体格指標で、18.5までが痩せ、そこから25までが標準、それ以上が肥満になります。」

「そして私はその指標で14である・・・と?」

「はい、14はいくらなんでも痩せ過ぎです。太りましょう。貴族は細い女性が好きだとしてもせめて体重をあと10キロは増やしましょう。」

「・・・そうですね・・・」


流石にミイラ姫もまずいと思ったのかフィリアの意見に賛成した。・・・ちなみにフィリアのBMIは18.9。普通体型ではあるが元貴族の例に漏れず細い。


「最近ストレス酷かったみたいだししょうが無いんじゃない?あ、フィリア。マスターが料理の方で手が回らないから私のインペリアル・フィズとヴェルフェゴールにフローズン・マルガリータ・・・を少しお酒低めで。」

「はい。分かりました。」


席を離れてカウンターに立ち、淡々とカクテルを作ってゆく。・・・慣れたものなのだろう。前とは比べ物にならない手際で二種のカクテルを作ってゆく。


「・・・なんだか、貴族界を離れてから明るくなりましたね。フィリア様。」

「元々明るい性格なんだよ。自分をずっと押し殺していたから、物静かだったんだよね。」

「・・・そうなのですね。・・・なんだか憧れます。心に受けた傷を気にせず、前を向いて活き活きとしているフィリア様に。・・・というか、前より美しく見えますね。私から見れば」

「・・・・そうだね。実際あの日からフィリアは変わってる。私からしても、自慢のお姉ちゃんだね。」

「・・・さっきから気になっていたんですが、ロゼッタ様から「先輩」と言われた割には私に年下とか、さっきの「お姉ちゃん」とか・・・フレデリカ先生って何歳なんですか?」

「12。何ならロゼよりも年下だよ。あ、このことはフィリアのことと一緒に内緒でね。この酒場のことも口外しないように。」

「あ、はい。・・・確かに面倒事になりそうですからね・・・」


そう話していると、フィリアがやってきて私達の目の前にカクテルを置いた。


「ありがと。」

「いえいえ。会話は楽しいでしょうか。」

「ふふっ。そうだね・・・」


私がそう返すと、フィリアはニコっと笑ってヴェルフェゴールに耳打ちした。


『カクテルには一つ一つに言葉があるんですよ。フェリカが頼んだインペリアル・フィズには[楽しい会話]。そして、ヴェルフェゴール様に出されたこのカクテル、フローズン・マルガリータには[元気を出して]という意味があるんですよ。』


と。全部聞こえていたがあえて聞いていないふりをした。・・・だって恥ずかしいもの。 


「食前酒としてゆっくりお飲み下さい。もうすぐ料理が到着しますので。」

「は、はい!ありがとうございます・・・」


ニコッと笑顔をみせてフィリアは去っていった。一旦の興味が引いたミイラ姫は、次の物に興味を弾いた。


「・・・変わった音楽ですよね・・・と言うより、マインツ様やレグルス様も見えるのですが・・・」

「そうだね。ピアノに似た楽器を演奏してるのがマインツさん。縦笛を吹いているのがレグルスくんだね。・・・ちなみにあの横笛が私の母上だよ。」

「母上様をいらっしゃったのですね・・・言われてみれば確かに似ておりますね・・・」


この楽団のこと、私のポジションのこと、話を続けていると演奏が終わったれーくんが私のところに来て飛びついてきた。


「フェ〜リカ♪」

「ちょちょっ!いきなり抱きつかないでよ〜」

「いいじゃん別に〜。何なら揉んでやろうか〜?」

「やめてそれは。私の尊厳が失くなる。」

「あの・・・一体お二人はどのようなご関係で?」

「おっと。ヴェルフェゴール様、お初にお目にかかります。フェリカは私の妻でございます。」

「妻!?!?」


ヴェルフェゴールに向かって冷静に恥ずかしいことを説明するれーくんをペシッと叩き、ヴェルフェゴールに説明する。


「私が16になるまでは『婚約』ってことになってるけどね。どっちかが色移りしたときにって。まあ、この調子じゃれーくんが離す時は来ないと思うけどね〜。」

「そうですね・・・。この感じだとレグルス様もお酒で告白されたのでしょうか?」

「いえ、僕は自分から好きと伝えましたね。音で。もちろんフェリカからも音で返事をもらいましたよ。・・・あ、あとは薔薇を貰いましたね。綺麗な四本の赤いバラを」

「ふふーん?フレデリカ先生、随分とレグルス様にご執着なのですね。先生?」

「・・・今日のことは全部秘密に。貴女は私に呼び止められて遅くまで手伝いをしていた。・・・良いね?もし破ったらただじゃ置かないよ?」

「あらあら?何時もの余裕は何処へいらしたのですか?まあまあそんなに焦らずに。」


「・・・・・・お似合いのお二人ですもの。陰ながら応援させていただきますね。」


最後の小声を吐くあたり、私とは別方向で性格が悪い。そう思わずに居られなかった。


「では、僕は次の演奏がありますので失礼します。フェリカ、2曲後に1回入れるか?」

「あ、うん。多分大丈夫だと思うよ。ただ、一曲だけだよ。」

「分かってるって。」


そう言ってれーくんは戻ってゆく、そして入れ代わりで料理が運ばれてきた。今日の献立は・・・オムライスとサイコロステーキのようだ。


「フレデリカ先生、一体これは?」

「オムライスって言ってね。その卵の中にケチャップライスが入ってる至極単純な料理だよ。」

「オムライス・・・・・・美味しい・・・」

「そう言ってくれるなら良かった。」


一口、また一口とスプーンを口に運び、ゆっくり噛み締めて、そして飲み込む。まるで初めて食事を食べる幼子のように。勿論見ず知らずの料理だからと言うこともあるだろう。しかし、それを除いても、彼女の姿はとても儚かった。


「ほんっと・・・君は優しい娘だよ。年下に言われるのも、少し不服かもしれないけど。」


いつの間にか、彼女は涙を溢していた。右手で軽く拭い、そのままそっと頭を撫でた。弟のために、ものが喉を通らないくらい必死で頑張ったのだ。頑張って頑張って頑張って、自分ではなにも出来ないと悟った。それでも誰にも頼ることが出来ず、塞ぎ込み、絶望をひた隠しながら虚勢を張っていたのだ。正直、彼女をこんなにした原因であるドットリオには少しお灸を据えないといけないかなと思ってしまった。


「こんばんわ~。あら?あらあらあら?ウィズネルのご令嬢様が年下のメスガキに慰められておりますわね。なんと滑稽滑稽。・・・ふふっ。なんて冗談ですわ。いつもお疲れ様ですわ。ヴェルフェゴール様。」

「ネーデル様?」

「ええ、貴女の好敵手、ネーデル・フランドンでございますわ」


・・・メスガキ?誰が?・・・私が!?許せん!なんて思いつも、呼ばれたので行かなければ。


「ネーデル、私演奏行ってくるからその間のヴェルフェゴール頼んだよ」

「分かりましたわ~」


そうして私はフィドルを手に取り、壇上に登るのであった。


――――――


かなり投稿空いてしまい申し訳ありません。定期試験からの修学旅行で時間がとれなかったと言い訳を添えておきます。


てことで、お読みいただきありがとうございます。もう1話ほどヴェルフェゴール編を挟み、その後に学園生活編・・・の前にライブ編を挟みます。多分、第二楽章で婚約破棄騒動決着は無理だと思っているので、そのつもりでよろしくお願いします。

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