第五曲 フィドル弾きへの依頼
失念していたことがあった。それは私がいくら平民と名乗っても系列は王家に連ねるものであり、ガープが失脚した場合の次期女王であるということだった。
だからこうなる。いや分かっていたが・・・いや分かっていたのか?いや分かってなかっただろう。
「お願いします協力してください・・・」
「・・・まあ、うん。・・・少し考えさせてね・・・国王」
昨夜、疲れていたのにも関わらず、最近放置していたせいでれーくんに抱き潰され、そして朝、ロゼやネーデル、ヘレンにフィリア、更にはお母さんにまでそのことをいじられ、私はどっと疲れていた。そして今、私は国王から土下座を食らっている。
「私との接触を勘付かれずに学院内を調査できるのはお前だけなんだ!!だから頼む!!」
「は、はあ・・・」
国王陛下、この場には貴族もいるんです。そう安々と頭を下げないでください。
「一昨日の夜、学院内の修了式、パーティーで第一王子が婚約破棄。昨日第一王子からフィリアが一方的に悪いからと言う理由で婚約破棄をしたと言われた。何か裏がありそうだから、私に調査のために学院に行ってほしい。この解釈でおーけー?」
「ああ。すまない。学院側には『確保が追いついていない高等学年以上の音楽教師を手配した』と言うつもりなのだが」
「ちょっと待て?」
今、何と言った?音楽教師?
「まさかとは思いますが、私を音楽の教師として潜入させるつもりじゃないよね?」
「・・・That's right☆」
パシン!!
国王の頭に平手が飛んだ。いやいや、私がよく言ってたとはいえ、誰が真似ろと言った?最近の国王陛下は自身の性格を見失うこと多くないですか?
「・・・あの、私、一応まだ12なんですよ?生徒よりも年下の年齢で教師をやれと?そうおっしゃいますか?」
「そこに年齢詐称して2年早く入学した挙げ句優等生兼問題児をやり仰せているやつがおってだな?」
「ローゼー?」
「え?これが飛び火してくるんっすか?」
変なところに飛ぶ火もあるが、それはすぐに消え去るものだ。今回だってほら、国王陛下が話を戻す。
「まあ、学院の方には圧力をかけて黙らしておく。一応、音楽の腕はあの夜に分かっていたこともある上にそれを教える才能はネーデル嬢からのお墨付きもある。全て終わった後の報酬も言いなりで持とう。だから頼む!!」
「・・・はあ、この状況を感化できないのは私も同じだからね。いいよ、協力しようか。」
「ありがとう。感謝する。」
あまり話を長引かせたくない私達二人だ。頼み事の話なんかはすぐに終わる。そして話はすぐに違う方向へ。
「そう言えばフレデリカ、ロゼッタ。フィドル?と、ピアノ以外に弾ける楽器はあるのか?」
「何故いきなりそれを?・・・まあ、弦楽器系はほぼ全部、ピアノ、オルガン、鉄琴木琴系の楽器は大丈夫かな。ロゼはピアノと金管全般だね。」
「ハープ忘れてるっすよ。センパイ。」
「あ、そうだった。」
いくつか聞き慣れない楽器の名前も出てきたらしく何人かの頭にはてなマークが浮かぶ。音楽の発展していないこの世界で使われる楽器はかなり少ない。うちの演奏仲間は例外として多いが・・・
「・・・最近、何やらマリンバと言われる楽器が異国から送られてきたのだが、如何せん、わからぬ。もしよければと思ったのだが・・・」
「ほしい!!」
「・・・・う、うむ。分かった。また次の機会に持ってこよう。」
マリンバという言葉に噛み付いた。それもみんなが引くぐらいに。でも欲しかったのだからしょうが無いだろう。ここで逃したら一生触れないかもしれないんだよ!?
「・・・センパイってほんと、新しい楽器見ると幼くなるっすよね。」
「え?私心も体も幼いよ?」
「国王に怒鳴りつけるやつがか?」
「屈強な男殴り飛ばした人がですか?」
「幼い人はいきなり毒杯を仰ぐなんて言い出しませんわ。」
「一国の宰相に拳は肝据わりすぎですよ。」
「筋の通り方がご老人。」
「幼女したいなら言葉遣い直さないとっすね!」
「実は最近エボロスさんから送られたナイトドレス愛用してるの知ってるのよ?何時から色女になったのかしら?」
「・・・・」
あのですね、私だって音楽以外のプライドだって持ってるんです。ちゃんと山になっているんですよ?全方位からエクスプロージョン打ってくるのやめてくれませんか?燃えるどころか消し飛ぶんですよ。いや国王からフィリアまでの言い分は分かるよ?れーくんに至っては悪口だし、ロゼに関してはお前もじゃねえかってなるし、お母さん?なんでそのこと知ってんの?え?私ナイトドレスれーくん以外に見せたこと無いんだけど?
「あら?フレデリカ?一つ忘れてないかしら?貴方の部屋と私の部屋の防音処理、終わってないのよ?」
「「あっ・・・」」
「最近私寝れないのよねぇ。隣がうるさいのかしら?」
「ミーシャルさん?もうやめてあげてください?センパイのライフはもうゼロっすよ。」
いやいや。ロゼ様、あなたの言葉がトドメなんですよ・・・
「・・・・・・あーもうやめやめ!!れーくん!やるよ!」
「・・・はいはい。」
机の上においてあるフィドルを手に取りれーくんに呼びかける。れーくんが壁に立てかけていたケースからボンバルドを取り出してきた。さっさと事を忘れたかった私は何ら合図なし、ノールックで初音を弾いた。弾いた曲はれーくんとも弾いたことがある曲であり、私がよくアドリブで振る曲なのでれーくんがわからないはずがない。3音目で確実に合わせてきた。
「へぇ〜。16小節でループで・・・4分の4でイ長調、テンポは116くらいっと。乱入良いっすか?」
「・・・」
いや、何で乱入するんだよ楽器ねえだろ。そう思いながらも頷いて許可を出す。するとロゼはソファーから立ち、魔法陣を展開した。するとどうしたことだろう、そこにドラムが現れたではありませんか!
「ちょっちょっちょちょちょ!ドラムなら言ってよ曲変えるから!」
慌てた私は曲の途中でやめてしまった。れーくんが困惑したような表情を見せたがしょうが無いことだろう。しょうが無い。今弾いていた曲はあまりドラムには向かない曲だったから。
「・・・ごめんねれーくん。」
「いいよ。ただし、一曲だけな。」
「ありがと。・・・てことでロゼ、合わせて。」
「ういっす」
さっきのヤケ演奏のときと違い雰囲気がガラッと変わった。私は大きく息を吸い込み、ヴァイオリンの弓を弾いた。
「Blessings for your birthday」
「Blessings for your everyday」
「「最後の一秒まで前を向け」
前世で何度、この曲でセッションをしたかわからなかった。何なら私達の出会いの曲でもあった。その曲名は神からの贈り物や恩恵、幸せなもの。『Blessing』、もちろんロゼと何回も合わせている曲だからって言うこともあるが、それ以上に、この曲を贈りたい人物が私にはいた。
「・・・たとえ明日世界が滅んでも・・・」
「・・・最後の一秒まで前を向け!」
私にはどんな暗い道を歩いているのか想像がつかない。だとしても、私は信じている。
「・・・たとえ綺麗事だって構わない・・・」
「・・・この世に生まれてくれてありがとう・・・」
「・・・・・・泣けなくても、笑えなくても、歌えなくても、何もなくても、愛せなくても、愛されなくても」
「「それでも生きてほしい」
そのおぞましいほど暗い闇の先に、きっと幸せがあると。私は信じている。いや、この場にいるみんなもそう思っているだろう。だから
「「Blessings for your birthday Blessings for your everyday」」
「たとえ綺麗事だって構わない」
「「Blessings for your birthday Blessings for your everyday」」
「ここに集えた奇跡にありがとう」
Hip hip HOORAY これから先も
Hip hip HOORAY 君に幸あれ
「・・・どんなに今を悩み、挫けそうになったとしても、前を向いて歩こう。いつか、光が見えるはずだから。・・・きみにこの曲を送るよ、フィリアお姉ちゃん。きみの人生が明るく照らされることを願って。」
――――――
ちなみにロゼは自領にいる職人たちに自身の記憶で作れる楽器を作らせており、自身の収納魔法に収めています。
お読みいただきありがとうございます!第五曲になってやっと音楽要素がでてきましたね。さて、雑談の時間がないです。Blessingに尺を使いましたから。後悔はしていません!とてもいい曲だから!
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