第四曲 温度差

「とりあえず、今日呼んだ内容を話そうか。」


談笑を一旦中断して、真面目な空気に入る。さっきの和やかな雰囲気が一瞬にして消えるのはそのうちフィリアも慣れるだろう。


「・・・まあ、ある程度話は分かるっす。学院内でも噂は聞いてましたからね〜。」

「なら話は早いかな。・・・一つ質問。正直、フィリアを狙う人は出てくると思うんだけど、どう思う?」

「そうですわね・・・私がそのリゼと言われる人物の立場なら、傷物になったとは言えフィリアさんの存在は厄介になります。フェリカさんやロゼに敵わないとしてもフィリアさんの才能は群を抜くもの。平民になったとしても再び返り咲くことだって出来るでしょうから、確実に仕留めに来ることも考慮するでしょう。」

「同意見だ。第一王子からしても・・・を付け加えておく。・・・浮かない顔してるが、どうしたのか?フェリカ。」

「・・・ノーツ男爵家って、どこの傘下?」

「カレリア公爵家」


すっと顔が青くなった。今の話でフィリアが狙われるのは確実になっただろう。何故って?


「・・・黒幕は・・・おそらく、現カレリア公爵家当主、軍務大臣、ヴォルノヴァ・カレリアだよ。」

「「「「!?」」」」

「私ね、一応この国の歴史書読んでるんだけど、その中にある記述があるの。」


過去に一度、このフェデラック史の安定した王権の中で内戦があった。現在は揉み消されているため王宮に貯蔵されている歴史書一冊しか記されてはいない。ではなぜ?私がその歴史書の内容を知っているのか。それはスーツのお代として提示したものだったからだ。


「300年前、カレリア家は王権転覆を謀って反乱を起こし、当時王家だったレーゼンベルト家、側近だったフェデラック公爵家の連合軍と衝突したとね。当時のカレリア当主は処刑され、現在の辺境へと移され、損害が大きかったレーゼンベルト家は公爵家へ降格、大きな戦功をあげたフェデラック家が代わりに王家となった。」

「・・・つまり、過去の野望を取り戻したヴォルノヴァが、息子を使ってフィリアさんを嵌めたってことっすか?」

「多分そう。ボセックをガープに近づけさせ、ガープに気の有ったリゼットをガープの庇護下に持っていき、リゼットのことを好いていたドットリオを陣営に引き入れて、フィリアを孤立させて嵌めた。こんなところだと思う。・・・正直、ガープとドットリオは何も知らなさそうだけど、加担してる時点で国王は容赦しないだろうね。・・・そんで、おそらく刺客を手配するのはボセックだろうね。」

「・・・刺客は来ると思って良いですね。」

「そうだね。何なら、この場にいる私達だって幇助者として狙われる可能性だってあるよ。」


場の空気はさっきとは違いすぎるくらいに凍っていた。逆に凍りつかな方がおかしいとも取れるが。


「・・・センパイ。この家全体を私の使役人形マリオネットで警備することも出来るっすけど。」

「・・・自分の身はどうするの?」

「人形一体だけで守れるっす。なんせ私、これが有るので。」

「・・・あ~。」


スカートの中に隠された素足。そこに巻き付いているレッグベルトには私達から見たら最初期の物に当たるピストルが下げてあった。確かにこれが有ると対処もできるだろうが


「慣れたもんっすよ。人形が時間稼ぎしてくれるんで。」

「そうだね・・・うん。・・・ロゼ、流石にもう一丁なんて作らないでよ?壊れるよ世界。」

「そうっすね。・・・程々にしておきます。」

「・・・一体何のお話しをされているのですか?」

「あ、ごめん。ロゼの自衛手段の話だから、気にしないで」

「は、はあ。・・・私は社交界で嵌められる方が確率高いのでそちらを警戒しますわ。」


まあ・・・あのデカいくせに要塞みたいな防衛の屋敷に忍び込もうとは思わないよね。みんなも「分かった」とか「了解」とか・・・やっぱあの家はトップクラスなのね・・・


「とりあえず話は終わりだけど・・・」

「わたくし、やっぱり今日は泊まりますわ。お父様にはフェリカさんの家に行くと言ってあるので心配はかけないと思いますので。ロゼはどうするのですか?」

「私も泊まるっすね〜。どうせ学院の寮よりこっちん方が過ごしやすいっすし、最近ずっと野宿だったんで。」

「野宿って・・・ロゼさん?貴女貴族令嬢の自覚ある?」

「無いっすよ〜。レグルスさんもさっきからセンパイの体弄ってるっすけど人前って自覚あるっすか〜?」

「無いな!」

「「HAHAHAHAHAHA」」


おいこらって怒りたいが場の空気がだんだん暖かくなってきているため怒り難い。でも正直私のポーカーフェイスも限界なのでれーくんにはやめて欲しいのだが・・・


「あの、レグルスさん?そろそろ止めてあげてはどうですか?そろそろフェリカさんも限界のようですし・・・」

「とのことだが、どうだ?止めて欲しいか?」

「・・・また夜に・・・」

「分かった」


スッとれーくんの手が私の体から離れた。ナイスだフィリア。おかげでみんなの前で最悪の事態は避けれた。・・・と、思ったのだが・・・


「ひゃあっ!?」


れーくんの膝に座ったままだったのが間違いだった。がっちりと腰を締められ、首に吸い付かれる。驚いて変な声と共に体が跳ねた。やめて!そんな今日1のほっこり笑顔でこっちを見ないで!恥ずかしいから!


「・・・フィリアさん?次からは止めないようにしましょうか。」

「はい。その方が良いかもですね。ふふっ」

「やっ・・・やめっ・・・!そっちも・・・見てないで助けて・・・!」

「「嫌です」」

「なんでっ!?」

「だってフェリカさん?あなたの筋力だったら簡単に振りほどいて逃げれるでしょう?しかも本能的に。逃げてないってことは、別に嫌な訳じゃない。なんなら別に私達の前だけならこんなことされても別に良いかと考えているでしょう?」


そこではっとした。確かに私には嫌だと思ったら本能的に振り払う癖があるし、毎日鍛えている筋力でれーくんに負けるはずがない。なのになぜ、振り払うことをせずにか細い声で回りに助けを求めるのか?別に体を弄られても首を舐められても嫌と思っていないのだ。そしてこの状況を少しばかり楽しんでいる。いや!だとしてもっ!


「・・・もう・・・これ以上は・・・限界だから・・・」

「あらあら?あのフレデリカさんがここまで快楽に溺れるなんて。ふふっ」

「・・・・・・」


止めてくれそうにないなら、脅すまで。私は一旦強引にれーくんの顔を遠ざけた。


「・・・じゃあ・・・今焼いている・・・クッキーは・・・あげなくて・・・良いよね?」

「「すいませんでした」」

「よろしい。」

「えっ?・・・え?」


即座に私から手を離し、謝る二人。フィリアがその速度についていけないのは知っていたことなのでスルーしよう。


「フェリカさんの作るお菓子は一級品ですの。それが食べれなくなるくらいなら私は喜んで頭を下げますわ。」

「は、はあ・・・」


おい!貴族のプライドは何処行った!といっても返ってくるのは「へし折ったのは何処の誰でしてよ!?」としか帰ってこないからもう諦めても良いだろう。


「・・・はあ。もう焼けるから。少し待ってて。今回は庭に植えてた苺を入れてみたから、モニターしてくれると嬉しいな。」

「「「はーい」」」


さっきの凍りついた空気ではなく、暖かい春のような温度感。この温度差はやはり私達特有のものだろう。


 ちなみに、苺クッキーはかなり好評だった。生地にあらかじめ作っておいた苺ソースを練り込んだため、風味や生焼けが心配だったが杞憂だった見たいで安心した私がいる。


――――――

次回から音楽要素入ってくると思います。


お読みいただきありがとうございます!まさかの第二楽章はいって一度も音楽要素を入れてないのには作者自身びっくりしております。さて、雑談。次回次々回くらいで学院が出てくると思うのでその話を。

学院は13歳から16歳までの四年間で初等、中等、高等、最高等学年に分けられます。フェリカのメンバーではロゼが14歳でありながら年齢詐称して16歳、最高等学年におります。フィリアは中等学年中退扱い、レグルス(本来はフィリアと同い年)は家庭内の教育の賜物のお陰で通っていませんし、ネーデル(フィリアと以下略)に至っては受験で落ちて入れていません。だからこそネーデルはピアノで貴族界を渡らなければならなくなったのですが。ちなみにヘレンは親から学院の受験を拒否されてます。フレデリカ?現在12歳ですよ?一年足りてないです。

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