第二楽章 音楽教師

第一曲 歯車は動き始める

残雪。日本で言うと3月ぐらいに当たるだろうか?この国は言語体系同様季節も日本に似ている。そう、今は別れの季節であり出会いの季節である。

私はこの日も朝から日課の運動と書類仕事をしていつもどおり日常を過ごしていた。

・・・正直なところ嫌な予感はしていた。


「・・・で、わざわざ会いに来るってことは常時じゃないんですよね。国王陛下?」

「ああ。かなり不味いかもしれない。」


真剣な顔をした国王が護衛も付けずに来たときは衝撃だったと同時に嫌な予感の正体はこれかと認識した。中に入れ、取り敢えずお茶を淹れ、クッキーを出しておいて話を聞くことにした。


「お前の腹違いの兄に当たるガープのことは知っているな?」

「まあ・・・皇太子待ちの第一王子ですからね。・・・まさかとは思いますが」

「・・・そのまさかだ。・・・婚約者との不仲は知っておったが、あやつ、どうやら学院内で男爵令嬢を囲っておるそうなのだ。ウィズネル、カレリアを始めとする婚約者持ち令息らとな。」

「はあ・・・大体要請は分かりました。・・・取り敢えず、そこに土下座しといてください」

「・・・ああ。」


さて、2時間お説教コースだ。

・・・しっかし、最近の王族はどうも為政者としての意識が欠けている。そう感じた私である。


「王妃は?」

「逆にあやつがどんなやつだと私との間のガープがあんなふうになる?」

「まず国王なら嫁選べって話になりそうだね。」

「それを言わないでくれ。正直最近嫁に取るんじゃなかったと後悔しているのだ」

「見かけに騙されたのね」

「・・・最初からあちらは私の体目当てだったのだよ。乗せられた私が馬鹿だった。」


正直、別に王妃のことなんてどうでもいいが、王妃が原因で国王が変な考えにとらわれてしまったのなら、私とて被害者。見過ごすわけには行かない。そして国王の話し方からして十中八九、黒色だろう。はあ、涙が出てくるよ。


「まあ、話を聞く限り、そっちらになんとか出来るところはとうに越してるし、私が出ないといけないのは確定だろうけど・・・」

「すまない。私の力不足だ。」

「ホントだよ。息子二人だっけ?3人じゃないだけまだ時間を割きやすいんだから、もっと教育を考えないといけなかったね」

「ああ。本当にそうだ。・・・すまぬ」


私の二人の異母兄弟。皇太子待ち継承権第一位のガープと皇太子決定後に伯爵位叙爵予定の第三位・・・表向き第二位のスクルド。正直国王がどんな教育をしているか知らないが、ガープに国王の素質がないことは確定だろう。正直スクルドも怪しくなっている。


「公爵家の方は?」

「難しいだろう。今の世の中ではな・・・」

「・・・実の娘でしょうに」


確かに、この現状で宰相家が傷物令嬢を匿うことは難しいだろう。一度貴族人生が崩された令嬢が再び社交の場に戻るのは難しい。家に籠もる、それだけでも大きな風評被害が飛んでくるだろう。だとしても、だ。私だったら世間体より子供を優先したいと思ってしまう。これはもう価値観の違いだと受け入れるしか無いだろう。


「はあ・・・面倒くさ・・・ここって乙女ゲームの世界じゃないよな。本当」


私はゆっくりと溜息を付いた。二週間後、それが始まりの点だろう。そう、王立貴族アカデミーの修了パーティーの日だ。


「あ、そう言えば。」

「どうした。」

「頼まれていた仕事用の洋服。仕立てておきましたよ。」

「おお!見せてくれないか?」

「ええ。」


私が依頼されていたのは仕事時の制服。あの館でネーデルに着せていたパーカーやデニムパンツを見て、変わった服装をご所望になったそうな。依頼されていたのは正装に出来る仕事用の服。だったらこれしか無いだろう。


「なるほど、燕尾服に似ているが・・・」

「『スーツ』といいます。と言ってもスーツには広域的な意味があるのでこれは紳士服だったり言われます。燕尾服との大きな違いはやっぱりバックの長さじゃないでしょうか?」

「立ち座りは楽そうだな。着てみてもいいか?」

「もちろん。貴方用に作ったんですから」


なんだかんだ今の国王陛下を信頼している節がある。ウキウキしながら服をとり、空き部屋に移動する国王に対する印象はかなり変わった。あれから国王は平民の暮らしの環境を改善する政策を打ち出した。元より仕事の才能は誰もが認める腕だ。僅か半年で王都の貧民街の面積は半分以下まで縮小した。


「どうだ?」

「似合ってますよ。・・・国王陛下意外に細いんですね。」

「おいこら。不敬だぞ?」

「はいはい、ごめんごめん」


とは言いつつもこの場の空気は和んでいた。嵐の前の静けさだろうか?いや、もしかしたら私たちが立ち向かうものは所謂『天災』なのかもしれない。



「この場を持って宣言する!!俺はフィリア=フィル・レーゼンベルトとの婚約を破棄する!!」


一瞬で会場の空気が凍りました。周囲の視線が集まるのは、会場に敷かれた赤い絨毯の上に立つ二人、すごい剣幕で婚約破棄を告げる第一王子、ガープ・ウィル・フェデラック様と、婚約破棄を告げられ、状況が飲み込めない私、フィリア=フィル・レーゼンベルトでした。


「何故・・・理由をお伺いしても・・・」

「恍けるな!!お前のやってきた悪行を、この俺が知っていないはずないだろう!!」

「え?」


私は理解できませんでした。だって私は国母を目指したものです。常に規律的な立ち振舞をし、皆の標となるような行動を・・・悪行なんて、一つもやっておりませんから。


「お前がリズにやってきたことは調べがついている。悪質ないじめ、過度な恐喝、他の令嬢を使ってまでそのような行為をしていたのにそれでも悪事を否定するか!!」

「いえ・・・ですから私は」

「こちらには証人だっているのだ!!」


彼がそう言うと彼の周りに人が集まってくる。ボセック・カレリア様、ドットリオ・ウィズネル様、他にも所謂重役貴族のご子息様方が集まっています。全員が囲うようにして守っている少女がリズ・・・リゼット・ノーツ男爵令嬢だと一瞬でわかりました。


「私達が証言します。彼女は放課後にリズを呼び出して暴行を行っており、他にもリズの人格を否定するような発言を多々行っている場面を目撃しました!!」

「え・・・?」


そんな事していない。言い出せる状況ではありませんでした。いえ、言った所でこの場に私の味方なんて居ません。彼女がではなくだとどれだけ良かったか。そう思うのはもう終わってからのことです。私に降りかかる軽蔑、侮蔑、敵意。まるでゴミを見るかのようなその視線に私は耐えることが出来ませんでした。


「リゼにやってきたことを反省し、この場で謝罪せよ!!」


その言葉に私は・・・


「・・・申し訳・・・ありませんでした・・・」


深々と、頭を下げてしまいました。もう貴族では居られない。そう分かっていたとしても早くこの重圧から逃げたかったのです。


「ふん、もうお前に要はない。さっさとここから出ていけ。」


頷いて出ていくしかありませんでした。正直何もかも絶望していました。帰って、お父様になんて言われるかはちゃんと予想がついていました。今まで、お父様やお母様から期待されたことなど一つだけ。ただ、王妃になること。それを達成することのできなかった私に用は有りません。さっさと処分するか、始末するか。その2択でしょう。


「がはっ!!」


絶望から、完全に回りが見えていませんでした。突如後頭部に衝撃が走り、私の意識は真っ黒に堕ちて行くのでした。


――――――

☆圧☆倒☆的☆王☆道☆展☆開☆

お読みいただきありがとうございます。二章初めなので乞食させてください。

良ければ☆、レビュー、いいね、コメント下さい!筆者夏休みも相まって更新頻度が爆上がりします。

 てことで、第二楽章入りましたね!そして、一話目にも関わらず音楽要素皆無でしたね!

 さあ、雑談です。フィリア、ガープのキャラ詳細は次話で話すので今回はフレデリカの生活能力についてです。

案の定、高いです。今回出てきたクッキーや、スーツはフレデリカの自作でございます。ちなみにいつもフレデリカは単色白のワンピースに革ベルトを意味もなく巻いてます。えっちベルトってやつです。もちろんワンピースもベルトも自作です、音楽強くて、頭もそこそこ回り、身体能力もまあそれなりに強し。生活力も高くて仕事もできる。

Q.あれ?異世界じゃなくてもチートじゃね?

A.ええ。友人やロゼこと倉宮光輝、女性マネージャーさんからは「ダメ嫁製造機」なんて言われてました。しかし実際は自分一人だとなにもやる気が起きないクズ男でございます。他の人がいてようやくチートが発動します。ただし発動したら最後、一人暮らしに戻るまで無双します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る