終曲 願うもの

「ヘレン、ごめんけど楽器の準備できる?」

「あ、はい!こちらはこちらでやっておくのでさっさと書類の精査して下さいよ。」

「はーい」


あれから半年が過ぎた。私達の暮らしはそこまで変わっていない。あの日、あの夜、話し合いは日が昇るまで続いた。彼の本題は私に王族として復帰して欲しいという事だった。もちろん私は拒否。国王もすんなりと認めてくれた。私達が揉めたのはその後の対応についてだった。私は、今後もゆっくりと農家として暮らしたい。そのために貴族のバックはいらない。という主張に対して、国王は、私になにかあった時用に王家が直接支援をしたい。と。さんざん揉めに揉め、結果的に妥協案をネーデルとロゼと宰相で出してゆくことに。

1,フレデリカ・レイランは王家の存亡に関わるときのみ王家一族に帰属する。なお帰属時には王位継承順位第2位を有する。

2,常時、フレデリカ及びミ―シャルに対し王家の接近を固く禁ずる。

3,常時、フレデリカが王家所属の宣言することを固く禁ずる。

4,フレデリカは王宮政務の一部を受け持つ。代わりとして王宮はフレデリカに報酬を支払う。

5,以上事項はレイラン・フェデラック、ライオット・レーゼンベルト、ロゼッタ・リリシア、ネーデル・フランドン、マインツ・バイエルン、レグルス・ライザス、及びフレデリカ・レイラン、ミーシャルの匿秘事項であり口外はいかなる理由を持ってしても許されない。なお、1の条項時のみ、フレデリカ及び王家の連立名で口外できる。

結果、以上5項で話し合いは終わった。私も国王もこれならと納得したのでしばらくはゆっくりと過ごせるだろう。


「しっかしあの宰相ここぞとばかりに仕事押し付けてくるんだよね・・・」

「しょうがないですよ。この時期は全貴族の決算報告が上がってきますから。数字に強いフェリカに全部回しているのでしょう。あと、単純に貴方の仕事ぶりが評価されてるのでしょうね。」

「27歳ニート音楽家だった私がね〜。・・・ちなみに勉強だったらロゼのほうが強かったよ」

「・・・あの方がですか?」

「そうだね~。国公立受けずに私立ばっか受けてたけど。早慶上理、GMARCH、関関同立・・・全てからA〜B判定もらっておきながら全て蹴ってエリザベト来た人だからね〜。根っからの音楽家であることには間違いないけど・・・あいつはそれ以上にたくさんの努力をしてきた天才であり秀才だよ。少なくともこの世界では、本来の実力の25%使ってるか使ってないかだね。」

「貴方の昔の世界の単語を並べられてもわかりませんよフェリカ。・・・でも、彼女が凄いというのはわかりました」


ちなみにあれ以降ロゼとは会っていない。すっかり仲良くなったネーデルとよく出掛けているとネーデルの屋敷の人たちからは聞く。


「じゃあ、こっちも終わったことだし、行こうか。」

「はーい」


フィドルの入ったケースを背負い、お母さんとヘレンと共に家を出る。白い雪が積もった道に向かう足跡は、今日も酒場へと続いていた。


 酒場。あの頃と変わらない雰囲気ではあるが変わったところが何箇所かある。


「お邪魔しま〜す。」

「あら〜?やっと来たのね、フェリカちゃん〜?」

「れーくんは渡しませんよ?」

「そんなことで来てないわよ〜。Fooooo〜独身最高〜!」

「・・・私が言うのもなんですが、飲みすぎですって・・・」


1週間に1度、れーくんの元婚約者であるレーナさんが来るようになったことがそのうちの一つだ。あのあと、財政難で倒産しかけたリーゼン男爵家だったが、もとより頭の回る方だったレーナさんが投資術を編み出し、たった数月で男爵家の資産を倍以上に増やしたらしい。結果的にレーナさんは執務室に磔状態にされていてバッリバリのキャリアウーマンをやっていると。


「ちょっと?」

「あら~?今日は乗り悪いのね〜。いつもは触っても揉んでも何も言わないくせに〜?」

「まだお酒入ってないですから・・・」


レーナさんはあれから独身を謳歌している。この前だったら考えられない「仕事が恋人!」なんて言っていた。疲れたら酒場に来て私の駄肉を揉みしだく。ほんとに貴族かと疑うような生活をしている彼女がそこに居た。


「では、演奏いくので」

「あら〜?いってらっしゃい。マスター!フィズ頂戴!」


レーナさんと別れて私は演奏仲間の元へ向かう。


「相変わらず災難だな。あいつ、来たときからフェリカちゃんの駄肉は〜って言ってたぞ。」

「・・・聞きたくなかったな。というか、あんたの歩いている大胸筋で癒やしたれよ、ヴェーテ」

「無理だな。・・・あいつ男に一つも興味示さねぇし。」

「なんで・・・」

「諦めろ。ネーデルだっけか?あいつがこっちに来るようになってからアイツ身代わりにしてくれ。」

「無理。だって大きすぎるとあいつ揉まないから。」


ヴェーテと少しだけ汚い話をすることが増えたのは悪い方向の変化だろうか?正直貴族でない私にはそんなことよくわからない。


「それで、ヘレンは?」

「ジョンソンとあっちにいるよ。・・・全く、他みんな分かってるのに当人たちだけ気づいてないんだよね。」


めでたい変化は演奏仲間の中で3番目に若いジョンソンとヘレンが段々と良い感じになってきている事だろう。お互い自分の気持ちも相手の気持も気づけていないことが玉に瑕かも知れないが。


「さーて!それでは一曲目!いってみよー!」

「「「「おー!!」」」」


そうして私達の夜は更けていく。音楽と、酒と、最高の仲間。こんな代わり映えのしない日常が、最高に幸せで、ずっと続いてほしいと願う。だって・・・今、こうやって音楽を紡いでいるその時が、何よりも・・・何よりも楽しいから・・・

 一つ、重要な変化を忘れていた。そう、それは・・・


「ありがとうございましたっ!!」


私が今まで以上に音楽を楽しむようになったことだろう。



俺達にとって国王とは国の象徴であり、国を支える一本柱だ。その姿は逞しく、まるで国民の規範となるような。そんな幻想を俺の脳から消し去ったのは、俺の婚約者であり初恋の人、俺が唯一恋い焦がれる蒼白の少女、フレデリカ・レイランだった。レイランの名を聞いた時点で彼女が王宮関係者、下手すれば隠れ王女などではないかと思っていたがその勘は当たっていた。彼女は国王と当時13歳だった母、ミーシャルの間に生まれた隠れ王女だった。国王をすごい剣幕で怒鳴りつける彼女の姿は誰よりも逞しく、美しく思えた。こんな人が婚約者であることを誇りに思った一方彼女の婚約者が俺なんかでいいのかという焦燥感に駆られた。・・・実際は杞憂だったわけだが。

 それに気付かされたのは2週間後、俺の誕生日のことだった。


「レグルス様、フレデリカ様が庭でお待ちです。」

「分かった。すぐに向かう。」


急いで庭に向かう。彼女は俺に背を向けるようにしてガゼポに立っていた。


「フェリカ!!」


そう叫んだ俺に彼女が反応することはなかった。少し寂しく、不安になった俺は彼女との距離を詰める。いよいよ真後ろとなった時だった。


「ッ〜!?」


彼女が振り返って勢いよく飛び、唇を重ね合わせてきた。思わず彼女を抱いてしまったが、彼女は嫌がることもせず、ただキスを続けてきた。唇同士、やがて彼女の舌が入ってきた感触を捉え、今度は舌同士を絡め合う。2分ほど経ちやっと離れた。


「ふふっ。お誕生日おめでとう、れーくん。」

「・・・ありがとう、フェリカ。」


彼女は4本の赤いバラを持っていた。確か、花言葉は・・・



死ぬまで貴方を愛し続けます。



――――――

あるゑ?恋愛要素増えてね?


お読み頂き有難う御座います。てことで


第1楽章、完結!!


いやあーやっと終わりましたよ。てことで今日はバイなら。また第2楽章でお会いしましょう!!

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