第十七曲 狂怒
「ずっとそこに居た奴、出てこい!」
私が声を張ると扉の影が動く。私達の前に現れたのは二人の人物。一人は金色の短髪の壮年男性。もうひとりは白い長髪を持つ初老の男性だった。二人共この場に似合わぬ絢爛な服に身を包み、特に初老の方に関してはこの中の誰より煌めいているだろう。ふと、お母さんの顔を見る。一度だけ、想像してしまった恐怖の顔。私が一番見たくなかったお母さんの顔がそこにあった。何もかもを察してしまった。いや、今まで出ていた情報をすべて繋げてしまった。だから・・・
「ごめんねお母さん、先家に帰っておいてもらえる?大丈夫、私の帰る場所は、あの家だけだよ。」
「・・・ごめんなさい。・・・先帰っておくわね。」
お母さんが退室する。アイコンタクトを演奏仲間に送るとマインツさんとれーくんを除いた全員がお母さんに付き添う形で出ていってくれた。
さて、残されたのは私、れーくん、マインツさん、ロゼ、ネーデル嬢、そして男性二人。すでに私はこの二人の正体を知っていた。何故かある私の名字、侯爵家すら動揺させるレイランに、あの時浮かんだ、さっきお母さんが見せた恐怖に染まった顔。そして水車小屋に落ちていたあの鍵。総てこの二人につながるのであろう。
「お初にお目にかかる・・・訳ではないのですよね。お久しぶり、と言っておきましょう。レイラン・フェデラック国王陛下。いえ、お父様が正しいでしょうか?・・・ついでになりますが、ライオット・レーゼンベルト宰相閣下。」
「ふむ。随分と平民としての感覚が付いているようだな。・・・まあ良いか。」
正直、怒りが込み上げていたが別にキレてはいなかった。しかし、何なのかこの癪に障る発言は。
「まずはそうだな。謝罪をしておこう。十年間、本当に苦痛な生活を強いてきたな。本当に済まなかった」
「・・・・・・・は?」
私を知る人物全員が顔を背けた。なぜか?私がキレたのを悟ったからだ。何ならこの場で私がキレたことを察せなかったのは国王ただ一人だろう。
「あの・・・さ」
声が低くなる。少女の声とは思えない声になった時点でやっと私の異変に気づいたらしい。
「謝罪するところ、違えよな?」
「え・・・?」
「あんたが本来謝らんといけんのはどこ?」
「・・・」
「どこ?」
「・・・・」
「何処かって聞いてんだよ答えろや!!」
ああ、ごめんねネーデル嬢。こんな私見たくなかったよね・・・なんて思いつつ。
「・・・すまなかった・・・」
「だからまずは何について謝るか言えや!!あ゛!?」
黙りこくったのは国王だ。・・・理不尽に怒っているのは分かっている。そりゃあ、こんな一国の国王が自分のしでかしたほんの些細な事を覚えてるわけないもの。
「何だ?心当たりもねえか?だったら最初っから謝んなやカス!!」
「・・・あの・・・フレデリカ嬢?それ以上は不敬n」
「あ゛?」
「すいませんなんでも無いです。」
少しの威嚇で黙りこくるのが一国の宰相なのもどうなのか・・・。そこは意地でも取り押さえるなり口調強くするなり腰に下げてある豪華な剣を抜いたりすれば良いものを。
「まずは産んでしまってごめんなさいだろ!?」
「「「「え?」」」」
「あ?ちげえか?違わねえだろ?勝手にお前の判断で産ませておいて子育て放棄して。下ろすなりすれば良かっただろ?」
「フレデリカ嬢、これだけは言わせていただきますが、国王陛下はミーシャルさんのことを思って貴女を産ませたのですよ。貴族に絡まれないように、王家の箔をと。」
「ふーん。で、それでお母さんは喜んだん?どうなん?」
「えっと・・・それは・・・」
「どうなん?」
「・・・」
沈黙。頼む、これ以上私をイライラさせないでくれ。そう思ってもそんなこと脳の腐ったこいつらに察せるはずがない。結果、沈黙は続き私の怒りが最高潮になる。
「どうなんだって聞いてんだよ!!喜んだYesか、喜んでないNoか二択だろ!!さっさと答えろや!!」
「「・・・」」
「・・・代わりに答え言ってやろうか?」
「「・・・」」
「Noだよなぁ?じゃないとあんたらの顔見てあんな恐怖することねえもんなぁ?」
「はい・・・」
「・・・あのさ、まずはそのパッパラパーな常識外れの頭ん中育てたら?腹についとる内臓脂肪育てる前に。」
他の人がみんなあわわしてるが見ないふりを通す。沈黙。聞こえる音は私が足を鳴らす音だけだ。
「あのなあ、相手の望んでない性交で、相手が喜ぶと思ってんの?」
「・・・いいえ。」
「じゃあさ、子供一人を親一人手で育てるのどれだけ大変かわかってる?」
「・・・いいえ・・・」
「だよな?お前らは身分が高いもんな。自ずから体の関係を結ぼうとするやつは多いよな?子供一人の育児も召使いたちがいるもんな?お前ら自分一人だと何も出来ねえもんなぁ。」
「・・・・・・」
「お?どうした?反論一つも出来ねえか?」
出来ないよなあ。その通りなんだから。というか、それ以上に・・・
「あんたもはいか言い返すくらいはしたらどうなん?国王様や」
「・・・何も言い返せない。」
「だったらまずあんたが謝るべきは誰なん?・・・私なんて言おうとするなよ?」
「・・・ミーシャル嬢だ。」
「そうだよな?たった13の娘に無理やり迫った挙げ句謝らないなんて国王失格だもんな。」
なんだかんだ。私は甘い。ツメが甘いかと言えばそうではないが、謝るなら良いかと国王を許してしまうのだ。
「だそうな、お母さん。・・・本当は嫌だけど、一度でいいから出てきてくれる?」
「・・・しょうがないわね。」
「・・・ミーシャル嬢・・・」
部屋に入ってきたのは演奏仲間を引き連れたお母さんだった。国王と対面したお母さんの顔が若干引きつったのはみんな見えたはずだ。すかさずれーくんとマインツさんが国王の後ろに回り込んだのはいざというときに国王を取り押さえるためだ。
「・・・すまなかった。11年前、私はそなたの意思を無視して無理やり行為を迫ってしまった。それは私が国王であろうと許される行為ではないだろう。だから、・・・すまなかった」
「・・・私が貴方を許すことは出来ません。ですが、本当に申し訳ないと思うなら・・・」
「・・・」
「私から、フレデリカを取らないでください。私が貴方に願うのは、それだけです。それだけ守ってくれるなら、貴方を国王として認めます。」
「・・・分かった。約束しよう。」
今までにない安堵感からか、お母さんがその場に力なく崩れた。演奏仲間にアイコンタクトを送る。もう何回もやってきた行為だそこに意思のズレなど無い。お母さんを抱えて部屋をあとにする。残ったのはまたさっきの貴族関係者たちだ。
「・・・お母さんが貴方を許さない理由は、わかるよね?」
「・・・ああ。」
「何度も言うけど、貴方がやってしまったことはことは、一国の指導者として・・・ いや、人として到底許されない行為・・・言ってしまえば罪を犯した。貴方は許されなかった。つまり、その罪を一生背負って生きる義務が生じた。それももちろん分かっていると思う。」
「ああ。重々承知したつもりだ。」
「良かった。その答え以外が帰ってきたらほんとに貴方の生殖器ぶった斬るところだったよ。」
「・・・勘弁してくれ。」
熱しやすく冷めやすい。すでに私の怒りは静まっていた。周りの空気の雰囲気も変わり少し緊張が緩和する。そして、そこで爆弾を投げ入れるのが私だ。
「それで、まだ本題を聞いていなかったね。本題を話そっか。」
「「「「あ・・・・」」」」
――――――
次回、終曲!!
え?もちろん第二楽章入りますよ?
てことで、お読み頂き有難う御座います。
今回は過去、ミーシャルの身に何があったのか、詳細を。
ミ―シャルはフレデリカと同じで11歳で酒場の音楽仲間に加わりました。まだあの頃は全員そこまでスキルが高いわけではありませんからすんなりとミ―シャルもはいりました。しかしそれから貴族たちがミ―シャルに色眼鏡を使うこともしばしば。
全部突っぱねていましたが2年後の13の時、王命で王宮に召し上げられてしまいます。流石に王命なので逆らうことは出来ず、王宮に向かいました。そこで彼女は国王の妾となることを迫られますが死覚悟で否定。その夜に王宮近くの宿屋で国王に夜這いされ、フレデリカを妊娠。下ろすことも出来ずに出産しました。このときに負った傷が原因でミ―シャルは子供を作れない体になってしまいます。国王に「フレデリカを取らないで」といったのはミーシャルにとってフレデリカは唯一の娘だからですね。たとえ望んでなかったにしろ、唯一の娘であることには変わりがないから。そんな心理があるのでしょう。
それでは、今日はこれくらいで。
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