第十一曲 歌と楽器
「本当、不思議ですよね・・・」
「そう?」
蛇口を捻れば水が出る・・・だけでも凄いのですが、お風呂場の蛇口はひねった方向によって冷水かお湯が出てくる様になっています。不思議と言わず何というのか私にはそれがわかりません。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ。」
「え?一緒に入らないんですか?」
「え!?」
一緒についてくるものだからついてっきり・・・そう少し落ち込んだ顔で言うと少し苦い顔を浮かべた後に了承をくれました。少し下心でニヤニヤしていたことはフレデリカには言わずに墓場に持っていきましょう。
「・・・随分・・・」
「随分?」
「いえ、自身の体の魅力も分からずに無防備だな・・・と」
「ッ!?!?」
私の頬に平手が飛んできた時点でやっと言い過ぎたと理解できる辺り、相当私は酔っていると思いました。酔った自分も悪くないと思ってしまった自分もいるのは私の思考が変わっている証拠なのでしょう。
お風呂から上がった後、私たちは全員でリビングにて話していました。フレデリカのお客人(ミーシャルさんのでもあるようですが)が来るということで寝間着には着替えず、部屋着に着替えた状態です。私は貴族用のドレス一着しか無かったので、ミーシャルさんの服を借りることにしました。フレデリカの服装は・・・この世界の服装ではなさそうですね。
「フレデリカの服は・・・」
「自作だよ。パーカーも短パンもこの世界にはない文化だからね。」
「この世界?」
「「あ」」
ふたりとも完全に焦っています。しかし、2人が焦れば焦るほど、知りたくなってしまうのが私です。この世界とはどういう意味か、フレデリカは一体何者なのか。問い詰めたところでやっと折れて話してくれました。
「・・・私は前世の記憶を持ってるんだよ。で、水道やこの服なんかは私の前世が生きていた世界の技術で元々この世界とは違うんだよね」
「なるほど・・・先祖返りだったんですね。フレデリカ」
「そうだよ。先祖返りは少し違うけどその認識で正しいよ。」
なんというか、年齢の割に大人っぽいところがある辺り、納得させるには十分な理由になります。その前世で何歳生きたのかは知りませんが・・・
「話してくれてありがとうございます。」
「いや、どうせ話すつもりだったから・・・ね。」
「そうね。言わなくてもボロは出てたでしょうし。・・・ところでヘレン、貴女、音楽はどれくらい?」
「え?音楽ですか?」
いきなりのことに少し困惑しましたが聞かれたことには答えておきましょう。
「ピアノを少し・・・くらいです。」
「あー、うん。ネーデル伯爵令嬢とどちらが上手い?」
「あの方は貴族1と呼ばれるお方ですよ?あの方に勝てるピアノ弾きが居られるとは思いませんが」
「・・・ヘレン、本当にごめん。今から来る奴らは私達の演奏仲間なんだけど、彼らに音楽が得意か聞かれても絶対に下手って言って。上手いなんて言ったら大恥かくことになるから。」
「?」
困惑してる所にミーシャルさんが耳打ちしてきました。
「フレデリカはつい数日前にネーデル伯爵令嬢をピアノで黙らしたばかりなのよ。思いっきり下手だと家で言っていたわ」
「・・・フレデリカ、ピアノ弾きだったんですか!?」
「いや、弦楽器奏者。ピアノは私が前世基準だから・・・」
「あ、ああ。・・・分かりました。それはそれは私は下手ですね。」
考えるのはやめましょう。少なくともピアノにおいてフレデリカの右に出る者はいないとだけ記憶しておきましょう。
「一曲やる?」
「お母さん?ヘレンもいるんだよ?」
「あ、良いですよお二人の演奏聞いてみたいです!」
「ええ・・・まあ、分かったよ。」
ミーシャルさんは横笛、フレデリカは4本の糸のついた梨型の楽器です。貴族にとっては楽器はピアノが主流なのでお恥ずかしながらお二人の楽器がなにかわかりませんでした。あとから横笛がウッドフルート、梨型のはヴァイオリンもしくはフィドルと呼ぶと、フレデリカに教えてもらいました。
「どうしよう、即興か、既出曲か。正直、民謡が弾きたくてたまらん。」
「今回民謡を即興で弾いて、後で楽譜にしたら?」
「あ、それもそうだね。じゃあ、そうだなあ・・・ロシア民謡のコロブチカとかかな。とりあえず私がソロで弾くかな。お母さん耳コピして」
「分かったわ」
そうしてフレデリカさんの弾き始めた曲は規律性のある曲だなという第一印象でしたが、1フレーズが終わった辺りでミーシャルさんが焦り始めました。
「・・・どれだけ早くなるの?この曲。」
「結構。最後のほうが歌いにくくなるくらいには早くなるよ。まあ、最初は一定速で慣れたら速くしていく感じでいいんじゃない?」
「そうするわ。楽譜も分かったから次は私が行くわ。」
「おっけー。じゃあ、私は歌謡するかな」
歌謡?とは思いましたが正直今の段階、フレデリカが弾いただけでレベルの高さは分かりました。正直、何も言わないでおく事が吉だと思ったのはお二人にはいけませんよね。
「1,2,123」
♪♫♪♫♫♪
――"Ой, полна, полна коробушка,
Есть и ситцы и парча.
Пожалей, моя зазнобушка,
Молодецкого плеча!
小箱の中には更紗と綿が満杯だ。恋人よ、重くて肩が辛いんだ。
――Выйди, выйди в рожь высокую!
Там до ночки погожу,
А завижу черноокую -
Все товары разложу.
ライ麦畑へ出ておいで真夜中までそこで待っているから黒い瞳のお前が来たらそこで箱の中身を広げよう。
正直歌詞の意味などは一切分かりませんが私は思わず聞き惚れてしまいました。声を裏声から戻してフレデリカは一言
「私って・・・歌上手いんだ」
ミーシャルさんでさえ困惑の表情を浮かべていました。
「・・・ボーカルあるときはヘレンに頼もうかな・・・」
「えっ!?なんでそうなるんですか!?」
「だって、私はフィドルとピアノあるし・・・なんか、周りの人みんな音楽がアタオカレベルで強いのに、ヘレンだけ何もないとなるとハブられた感じして嫌じゃん?」
「っ!」
うう。私の弱いところついてくるの止めてください・・・。そう言葉にできたらいいのですが、フレデリカの性格上言ったら最後な気がするのでやめておくことにしましょう。
「とりあえず今から適当に歌詞編纂するから、お母さんとヘレンで対応お願い。」
「分かりました。」
「はーい。頑張ってねー。」
自分の部屋に入っていくフレデリカを見送り、私達は談笑しながらお客人が来るのを待ちました。・・・私のために動いてくれるフレデリカに嬉しくなってしまったのは表では言えませんよね・・・まったく・・・。
――――――
お読み頂きありがとうございます。
さてさて、今回ちょっと本文を短くさせていただきました。まあ、次の話が演奏仲間とフレデリカなので、この際メンバーと担当楽器だけでも書いとこうかなと。別に今後出てくる人は少ないかもしれませんが第2楽章になると登場機会も多くなりますから。それでは、一人目から。
フレデリカ・レイラン 11歳女 担当フィドル
ミーシャル 23歳女 担当ウッドフルート
マインツ・バイエルン 23歳男 担当ボタンアコーディオン
レグルス・ライザス 14歳男 担当ボンバルド
ここまでが今まで出てきた人たちですね。で、ここからが未登場の人たちです
ヴェーテ 43歳男(最年長) 担当バグパイプ
ネレメス 36歳男 担当バウロンorバグパイプ
レーゼンベルト 32歳男 担当マンドリンorブズーキ
メリッサ 32歳女 担当マンドリンorブズーキ
リサ 27歳女 担当ケルティックハープ
ジョンソン 19歳男 担当打楽器全般
主要メンバーが最年少組なんですよね。ちなみにこの中の酒豪順で行くと
フレデリカ→ネレメス→ミーシャル→ヴェーテ→レーゼンベルト=メリッサ ですね。名前無い組は酒飲まない組です。フレデリカは度数キツイお酒を量飲みます。
Q→身体に影響はないの?
A→脳は記憶が戻った時点でほとんど27歳成人男性と同程度です。身体はフレデリカが北欧系の人と近いといえば強度は分かるでしょうか?※ただし、飲み過ぎは事実です。前世、神崎万葉の身体だと確実に急アルでしょう。
ちなみにマジでどうでもいい余談ですがレーゼンベルトとメリッサは夫婦でヴェーテは既婚、ネレメスは父子家庭です。36歳で16歳の息子がいます。息子は行商人やってるそうです。本編に出てくることはあるかはわかりません。
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