第八曲 ピアノのある邸宅

フェリカフレデリカ、今度予定空いてるか?」

「その誘い方は貴族にね。平民の私は空いてないことのほうが少ないよ。」

「そうか、今度家でピアノの演奏会があるんだけど来ないか?」


さて、私には2つの選択肢がある。一つは出ないこと。有名商家で行われる演奏会。もちろん来るのは貴族ばかりである。さて、そんな中に平民の私が紛れ込んだらどうなるか。そうだね予想つくね。

そしてもう一つ、演奏会に出ること。正直この世界来てから一切ピアノを弾いていなかったのでとても弾きたいと思っている私がいる。だからこそ葛藤する。


「お前貴族が来るからって思ってないか?お前が俺の演奏講師としてくれば身分隠せるぞ。」

「行きます!!」


即答。光のように早い即答。さすがのれーくんも引いていた。正直出るためのデメリットを全てかき消せるその提案はとても嬉しかった。


「・・・あ、でもピアノ引いてなかったからどうだろ・・・」

「あ、それは・・・」

「演奏会まであと3日だ。それまでこちらに泊めればいいだろう?練習させれるだろう?マスター、ギムレットを一つ頼む」

「父上!?」


まったく気づかなかった。いつの間にかカウンターにエボロスさんが座っていた。あのあとお酒にハマったらしくよく飲みに来ているが基本的にれーくんは居ないことが多かった。


「父上が良いと言うなら・・・でもミーシャルさんは・・・」

「良いだろ、一緒に泊めても。あ、フレデリカ、こちらの家に水道はないからな?覚悟しろよ?」

「うげぇ!!」


実はエボロスさんは一回私の家に泊まりできたことがあった。蛇口をひねればきれいな水が出る上水道を見てかなり感心していた。そして私が顰めっ面をした理由、私が水道のある暮らしに慣れすぎているからだった。


「ま、まあ・・・私の家よりかは断然豪華なのは間違いないですので、3日は水道なしでもがんばりますよ・・・多分」

「頑張れ」


何故かエボロスさんの笑顔がこれまでにないくらい清々しい笑顔だったのは見なかったことにしておこう。


その日から私はお母さんとライザス家に泊まった。行ってすぐにピアノを弾いたが意外に感覚が残っていたらしくスラスラと引くことが出来た。とりあえず私はれーくんにピアノを教えることに、お母さんは偶に演奏に合わせて楽器を弾いたり、エボロスさんと話したり。


「コードになるところは主音を間違えたらいけないよ」

「音を伸ばしすぎると他の音と重なってしまって演奏が崩れる」


最初は簡単な楽譜・・・この世界では結構難しい部類に入るようだが・・・からアレンジの仕方まで教えていく。演奏会までの2日でこの世界の上手いに入る位置までは仕上げれた。


そして演奏会当日。商会で取り扱っている品でドレスアップをした私はエボロスさんとれーくんの部屋へ向かっていた。社交辞令に私が居ては邪魔になるという配慮で後で合流することにしているのだった。



正直、貴族共とあまり関わりたくない。だからあの酒場に入り浸っていた。貴族共の後ろめたい話を聞いて楽しいなんて思わない。フェリカと2人で話している方が楽しい。


「しかし、心配しましてよ?レグルス様。レーナ様との婚約を破棄されてしまうとは思っていませんでしたの。」

「彼女との婚約にお互いの心情を考慮した結果です。十分話し合いましたので、彼女も受け入れてくれました」


本当はフェリカが説き伏せた上に罵倒をしたがそんなの貴族が言う訳がない。言われるような貴族という印象を持たれたくないからだ。だからそれを最大限利用する。


「レグルス様、よければ我が伯爵家の傘下に入りませんこと?」

「申し訳ないですが、私は現会長でもなければ次期会長候補でもありません。お話はお父上にお願いします。」

「そうですわね・・・」


この場には頭お花畑の貴族令嬢か令息しか居ないのか?絶対フェリカのほうが頭いい。正直、俺に縁談が来る貴族令嬢は売れ残りだけだ。ライザス商会のお金で貯蓄を作りたい奴らだけだ。経済学がわからないのか?いや、これは貴族全般に当てはまるか・・・

正直、さっさとこの社交辞令が終わりたいと思っていた。


「失礼します。エボロス様とフレデリカ嬢をお連れしました。」

「通してください。」


これほどまでにいいタイミングなのは聡明2人フェリカと父上の計算だろう。



「一つ聞くが、化粧とかはしたのか?」

「いえ?このドレスだけですよ。いつもと違うのは。いつも通り化粧はしていませんよ。」

「・・・化けるもんだな。お前。ドレスだけでそこまで雰囲気変わるものなのか。・・・と、着いたぞ。中にいるのは頭お花畑の貴族令嬢ばかりだ。気を抜くと粘着されるぞ」

「はいはい。分かっておりますとも。では、お願いしますね。」


「失礼します。エボロス様とフレデリカ嬢をお連れしました。」

「通してください。」


扉越しにれーくんの声が聞こえ、ドアが開かれた。私はエボロスさんの右後ろに立ち、なるべく目立たないように部屋に入った。


「お久しぶりですわ。エボロス様。今日は演奏会に招待して頂きとても嬉しいですわ」

「ああ、ネーデル伯爵令嬢。こちらも招待に応じて頂き誠に感謝する。」


ヤメロ!!私の前で社交辞令をするな!!頭が痛くなる!!なんて言えはしないので大人しく黙っておくことにする。

 いや、黙っておきたかったかな。うん。


「ちなみにそちらのご令嬢は?」

「ああ、レグルスのピアノ講師として呼んでいる。レグルスはピアノが苦手でな。」

「あら?そういうことでしたの。失礼ながら、わたくし、ピアノは趣味として嗜んでおりますの。レグルス様にお教え出来る技量はあると思いますわ」


ピキ。あーはい、そんなガキにピアノなんて出来るはずがない。だったら私が教えたほうが良い。ついでに嫁入りもさせろと・・・


「そろそろ雇い期間も切れるからな。次期講師はこの演奏会で一番演奏が上手いものを次期講師にするとしよう。」


遠回しにお前らにやれるレグルスではないと。


「さて、準備は整いましたし、はじめましょう。最初にされたい方は?」


そうして演奏会は始まった。


なんとなく、れーくんに言われたこの世界の楽譜の難度を体感した。コード一切使わない楽譜ばかりだった。ご令嬢様方は一枚づつ楽譜を取り、弾いてゆく。・・・正直、れーくんの最初のほうが上手い。というか、


「貴族の音楽のレベルって・・・・」

「こんなもんだ。お前が最初に弾いた時に家の者が大混乱になったのは理由がわかっただろう?」


子爵令嬢が優雅そうに初級楽譜を弾いてるのを横目に小声でエボロスさんと会話する。酒場に入り浸るようになり、頻繁に私達の演奏を聞く様になったエボロスさんにとってもこの演奏会はつまらないらしい。そんなわたしたちは気にもとめずご令嬢方はイキりながらピアノを引く。最後の番が来たのは私のことを見下してきたネーデル伯爵令嬢だった。


「わたくし、どんな楽譜でも弾けましてよ?良ければリクエストしてくださいな」

「・・・ネーデル嬢、上級楽譜でも?」

「ええ。」


私が初級と間違えた上級楽譜を譜面に広げ弾いていく。れーくんが顔を背けて顰めたのを私は見逃さなかった。そんなことは誰も気づかず、ネーデル嬢の演奏が進んでゆく。終わったあとのドヤ顔には私もエボロスさんも苦笑いを浮かべるしか無かった。


「あら?フレデリカ様は弾かれないですの?」

「・・・・・?」


いや、私としては弾きたいけど・・・あなた達のメンツをね?そう思っていたら約2名から同じアイコンタクトが来た。


((全力で面子潰してやれ!!構わん、やれ!!))

(あいあいさー)


「では、弾かせていただきましょう。・・・道化師のギャロップでも弾かせていただきますね。」

「聞いたことない曲ですわ。どんな曲でしょう?」


私は返答はせずに微笑んで椅子に座り手を鍵盤に手をかけた。


――――――


このあとの展開が大体よめますね。次回は黙らせられる側の視点から書いていきましょうか。


お読み頂きありがとうございます。良ければレビュー、コメントなどしてくれるとモチベーション向上になります。

さてさて、コードの話でもしようかな。

と言ってもメジャーマイナーオーグメンテッドディミニッシュトの4種に三和音トライアド四和音セブンス五和音テンションの3パターンが有る程度の認識で結構です。ピアノは個人の感性で楽譜を変えることが多い楽器ですから。あとコードを使うのはギターとか?と言ってもギターはほとんど弾いてないのでわからないことが多いですが・・・初心者レベルの筆者です。

筆者はヴァイオリン、ヴィオラ、ピアノはそこそこ、ほかはあんまりってところです。壊滅的に音ゲーがダメなので多分、打楽器パーカッションは絶対できません。

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