第六曲 煽り魔・フレデリカ
「面白いこと聞くんだね。レグルス。私はなんのためにここに来たか覚えてる?だったら答えは決まってるよ。」
演奏が二流だから?だからなんだ。少なくともここに楽器を持っている全員、音楽を楽しみたいと思ってここに居る。その面を見ればここに居る誰だって一流だと思う。だから私はここを選んだ。楽しめる仲間たちとここに居たいとそう思った。
「さてっと、じゃあ景気付けに即興行きまーす!お母さん合わせて!あ、乱入ありですっ!」
「はいはい。」
(伴奏が足りねぇなあ?マインツさんよぉ?)
(俺に入れってか!?)
少し煽り気味に視線を飛ばすと若干困惑しながらマインツさんがアコーディオンに手を掛けた。主旋律をお母さんに譲り、副旋律で音を伸ばしてゆく。そこにマインツさんの伴奏が入り・・・さて、いきなり入ってきた奴にドヤられるのは嫌だよね?
「レ、レグルス!?」
私の旋律を奪い取るように隣のボンバルドが乱入してくる。自分の弱点に気づいて、そのまま諦めるような奴じゃない。
(君のそういうところ好きだよ。)
(俺のプライド返せっ!さあ、お前はどう出る?)
(うーんそうだなあ。)
悪戯を閃いた小悪魔のような顔をすると微かに彼の表情が変わった。それをあえて無視するように♯♭ばかりの3連符を組み立てる。黒鍵だけを使いつつお母さんの主旋律に合わせる。
(おい!それは無しだろっ!)
(知らないですねぇ~)
目では困惑を見せながら、しっかりと演奏にはついてきている。そこはやっぱりプライドがあるのだろうと思う。私はフィドルに、お母さんはフルートに、マインツさんはアコーディオンに、レグルスはボンバルドに。楽器は違えど、それぞれの思いやプライドがこれでもかと込められる。だからこそ演奏は弾く人も、聴く人も楽しめる。演奏終わりには拍手が生まれる。
演奏とは一種の方程式である。演奏スキル、聴く者の心、奏者の心。どれか一つでも欠けるとそれは演奏とは呼べなくなる。
「ふう。・・・ありがとうございましたっ!」
深く礼する。送られてきた歓声と拍手は私の気分の昂りを歓喜に変える。本当にここへ来て良かった。そう思うのだった。
あれから数日経ち、水道工事も終わった頃からちょくちょく顔を覗かせては演奏していた。また今日も、私は酒場に向かう。
「ういーす。マスター、オレンジソーダ一つ。」
「お、フレデリカ来たな。あとはレグルスだけなんだが・・・先演奏しとくか?」
「お、じゃあ、普通に一曲いきまーす!」
声高々に宣言し、予め調弦しておいたフィドルを取り出してジャズっぽい曲調のアレンジをする。いつも通りアコーディオンのマインツさんが入ってきてくれる。
「・・・れーくん(レグルス)いないだけでちょっと演奏物足りなくなるね。」
「そうだな。というか、れーくん呼びってまじかよ・・・」
演奏中にも関わらず私達は普通に喋る。管楽器系が居ないときはアイコンタクトはあまり使わない。あとこの演奏は前座であって本曲ではないから別に集中力を働かせないでも良いのだ。
「・・・」
いつもと雰囲気の違うれーくんが入ってきたのは私がラスサビを弾き終わる直前だった。本人の表情は勿論、何人かの大人とれーくんより少し年上くらいの少女が居た。れーくん含めてかなり服装が華美なあたりおそらく貴族か商家あたりのあんなこんなだろう。推測しながら横目でちらりと見ているといつの間にか曲が終わっていた。
「あなたがフレデリカさん?」
「・・・そうですが?一体リーゼン男爵の者が私に何用で?」
「あら?」
演奏終わり、警戒心丸出しの私にその少女が来た。私用で外に出ていたお母さんが手話で(コノヒトタチ、リーゼンダンシャクケ)とサインを送ってきた。多分、何用でと聞く私の目つきはかなり鋭くなっている。
「ごきげんよう、
「・・・あーなるほど、最近婚約者であるレグルスくんを誑かしている奴がいる。もう直結婚になるのだからそいつに文句つけて関わらないようにしてやろうと・・・そういうことだね。うん。・・・ばっかみたい!」
「はぁ!?」
「おい!ただの平民の分際でs」
「その発言はなんだ!?って?はぁ〜これだから脳の溶けた貴族は嫌なんですよ。そんなんだから商家に娘を嫁がせないといけないような金銭難になるんですヨ〜!!」
「貴様っ!!」
国内五大商家の一つ、ライザス商会に娘、しかも年上のを嫁がせる。・・・つまりそうゆうことだよね?うん。そうゆうことみたいですね。お顔真っ赤ですよ。男爵家の連中サマ。
「
「私は共に演奏しただけで誑かしてはいませんよ・・・レグルスくんが私のことが好きって言うならそれはあなたとレグルスくんの問題でしょう?私を巻き揉まないでいただきたい。・・・レグルスくんが私のことが好きだっていうなら私もレグルスくんの事を全力で好きになりますが。まだそこまでではないでしょう?だったら貴女の早とちり、私に責任を擦り付けないで頂きたい。」
「このっ!・・・平民の分際でっ!!」
うん、私の位置からはレグルスくんとおそらくレグ父と思われる人が少し涼しい顔をしているのが見えた。まあ、おそらくそういう事ですよね?
「・・・・なさい」
「?・・・なんて?」
「跪きなさいよ!平民が!」
大きく振り上がる拳。今なら受け流すことも反撃することも出来るが・・・
「あえて食らってあげますよ。・・・まあ、私にその拳が届けば、という条件付きですが・・・」
確か、この酒場と自分の工房だけは名乗れるんでしたよね?私が黙らした子爵三男サマ?働いてくださいね?
「な、なんですのあなた!?この私を男爵令嬢と知っての行動ですの!?」
「悪いな、それは俺に効かないんだ。まあ、真っ昼間から平民街の酒場なんていたら普通はいけると思うよな。」
「な、どういう」
「どうも、こんな格好で悪いね。バイエルン子爵家、マインツ・バイエルンだ。跪けよ、男爵風情が。」
そこまで言わなくて良いんですよ?ええ。まあ、貴族同士の話し合いには顔を出さないでおいてあげますよ。私は平民ですからね。まあ、こっちは・・・
「いつもレグルスが世話になっているな。私はエボロス・ライザス。ライザス商会の会長をやっている」
「いつもお世話になっております。エボロスさん。フレデリカです。」
「まあ、なんだ。率直にふたりきりで話したいことがあると言えばついてくるか?」
「ええ。だって私のほうが強いですから。拳的に」
「じゃあ、少し皆には席を外してもらうとしよう。」
エボロスさん、指示一つで私以外の関係者全員が外に出された。いや、すごいっすね。私には到底出来ない芸当ですよ本当。
「・・・さてっと、お酒は何が好きですか?」
「・・・ジンか、リキュールか、出先だったらラム酒とかか。飲むのは。」
「なるほどね。マスター、『ギムレット』をエボロスさんに、私は『モヒート』でいいや。」
「・・・その年で酒を嗜むのか。しかし聞いたことない名前だが・・・」
「私がマスターに教えたものですからね。」
この世界にカクテルという文化はなくただ水で割るだけが多い。何ならオン・ザ・ロックも最初通じなかった。ソーダで割ったり他のお酒や果汁を入れたりなどは無かった。・・・私がカクテルをマスターに教えたのは私がただ単に飲みたかったジン・トニックが以外にも好評だったからだったり・・・
お酒について語っている間にカクテルが私達のもとに行き渡り、本題に入り始めた。
――――――
良いですか皆さん。これはあくまで異世界ですよ!
【お酒は二十歳になってから!!未成年飲酒は犯罪です!!】
【】内の言葉を10回叫んでからこの話を閉じましょう。
お読みいただきありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました。
と言っても、この話は次の話のためのってところですが・・・
今回は酒場がメインということでカクテルが出てきましたね。何だこいつ、お酒のこと詳しく知らねえななんて思いませんでした?高校二年生がお酒知ってたらヤバいでしょう?
私はまあ、ジン系のカクテルやワイン系のカクテルを作って家族に出しています。自分?飲みませんよ、未成年なんですから。
と、まあこれくらいにしておきましょう。次話もお楽しみに!
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