第五曲 フィドルに乗せたプライド
さてさて、連れられてきたのは王都平民街の中心部。中央の大きな広場を抜けて少し裏手側に入ったところ。マインツさんとお母さんがウキウキで開けようとしている洒落た木製の扉には『メーデル』と書かれていた。
「うふふ。何年ぶりかしら♪」
「俺はつい最近来たがな。・・・一つ言っておくが、フレデリカ?鼻つまんでおけよ?」
「え?」
一瞬の困惑、しかしマインツさんが戸を開け放った瞬間、その言葉の意味を瞬時に理解した。
「酒くっさ・・・」
「だろうな。・・・まあ、慣れるよ。・・・・いつかは・・・・多分」
確証が持てないってマジですか!?
勢いよく戸を開け放ったマインツさんに中にいた呑兵衛たちが一気に顔を向ける。一番手前で飲んでいた中年のおじさんが顔を明るくしてこちらに歩み寄ってきた。
「お~!マインツ。今日は来たのか!それに・・・ミーシャル!?おまえ!何年ぶりだ?」
「久しぶり、ヴェーテ。なに、久しぶりに顔を見せに来たのよ。偶々マインツと会ったからね。」
「そうかそうか!・・・っと、後ろのお嬢さん、ここはあんたみてぇなガキが来るところじゃねぇぞ。帰った帰った。」
おっと?門前払い・・・は正直予想圏内でした。アハハ、カナシイモノデスネ。
「はじめまして、ミーシャルお母様の娘、フレデリカです。宜しくどうぞ?」
「・・・・・・・」
「「「「はあ!?」」」」
沈黙の後、店にいたお母さんを知るであろうほぼ全員が私とミーシャルに困惑と驚きの目を向けた。いや、ムリもないけど。
「お前!いつ子供産んだんだ!?」
「11年前、ここに来なくなってすぐだけど?」
「まじかぁ・・・まじかぁ・・・。・・・まあ、とりあえず三人とも入りな。話はそれからだ」
とりあえず店に入ることは出来たのでそこで話すことになった。
店は中世風の酒場。カウンターのところにマスターらしき人が座っていてグラスを拭いている。私達はそのカウンターに座らせられ、そこで話すことになった。
「マインツはいつも通りのやつだよな?ミーシャルは・・・」
「とりあえずワインかしらね。強いのは好きじゃないの。」
「あいよ。フレデリカ嬢は・・・お酒h」
「ブランデー、オン・ザ・ロック。あと嬢呼びはやめてくれると有り難いんだけど。」
「あ、ああ。じゃあフレデ・・・えぇ!?」
「何?耳元で叫ばないでほしい」
「いや、おまえ、今何つった?」
「嬢呼びは嫌だと。」
「いや、その前・・・」
「その前ってブランデーのオン・ザ・ロック・・・あ」
そこでようやく気づいた。そういえば私、未成年どころかまた小学生の年齢でした・・・。この世界は成人16・・・いや、それでも足りてない!
「葡萄系のジュースを割ってもらえたら・・・」
「・・・・・あ、ああ。そういうことだ、マスター」
完全に神崎万葉27歳のノリで注文していた。マスターも苦笑いしながら葡萄ジュースを入れてくれている。・・・正直ありがたいです。
「んで、ここに来たのはお前らが持っているもんで見当はついた。だが、フレデリカの実力だけは分からねえ。」
「・・・じゃあ、私の実力を見たら大人しく認めてくれる?」
「ああ。しかし、・・・・レグルス、来てくれ」
来たのはぱっと見17歳位の青年だった。身長高め、金髪蒼眼のイケメンで
「レグルス・ライザス、今、ここにいる奴らの中で一番上手い奴だ。こいつをお前の実力で黙らしてみろ。そうしたら認めてやる。」
「おじさん、この少女と演奏勝負でもすればいいの?」
「ああ。」
あ、今の21文字でなんで好感が持てないか分かった。いや、普通は基本過ぎて誰も見逃す根底だからなぜかなんてわからないのも無理ないのかもしれない。
「お断りします」
「え」
「どういうこと?フレデリカ。」
「だってその人、私に弾かせる気なんて無いもの。才能ないって決めつけてる。正直、めんどくさいからさっさと帰って貰いたいってのが本音じゃない?」
「・・・・」
「まあ、別にそれだったらこっちも黙らせればいいから良いんだけど・・・」
別に人のことバカにするくらいなら叩き潰せば良い。私がそれ以上に許せないのは。
「何より、プライドも何もない。ただただまわりに上手いとチヤホヤされて弾いてるような二流と演奏なんて私からしたらただの拷問でしか無いもの。死んでも御免だね。」
「なんだと!?」
「年下のガキに二流言われたぐらいで頭にきてんのもどうかと思うけどね。」
「・・・・後悔しながら帰ることになるぞ・・・」
そう吐いてさっき居た自分の持ち場に戻る。譜面台に楽譜を広げ、勝手に演奏を始めた。
・・・正直、初手で溜息を溢さなかった自分自身をすごく褒め称えたかった。
「・・・ふぅ。」
そうため息を溢して、演奏を終えた・・・らしい。私としては<は?>としかならない締まらない終わり方だったが。
「・・・二流だったらいいところか。三流。」
「っ!・・・だったら!」
相当頭に来たのか私を指差して強い口調で怒鳴ってくる。
「お前が一流って奴を見せてみろよ!その持っている楽器でな!」
「・・・はあ」
譜面台の楽譜の前に立ちつつフィドルを用意する。
「なるほどね。そういう楽譜なのね。・・・さすがに三流ではないようだね。この楽譜でわかったよ。」
「・・・」
「でも、やっぱり貴方は一流じゃない。精々の二流止まり・・・。」
フィドルを構え、そして、目の前の譜面台を蹴り飛ばした。
◎☆♤♡◇♧□■
今まで音楽を楽しいと思ったことはなかった。それでも音楽を続けてきたのは自分が上手いと自負し、周りにも上手いと言われていたからだった。だからこの年端も行かない少女に「二流」と言われた時は腹が立った。あまりにも舐めた態度に俺は怒った。それでも、舐めた態度を直そうとはしない。俺が曲を弾き始めても全く変わらないどころか呆れたようにこちらを見てくる。
「でも、やっぱり貴方は一流じゃない。精々の二流止まり・・・。」
またっ!そう思った瞬間、彼女は楽譜の置いてある譜面台を蹴り、持っていた弦楽器を構えた。
「!?!?」
その瞬間だった。彼女から放たれる気配がガラッと変わった。その小さな足でリズムをとり、演奏を始めた。
「・・・・・・勝てない・・・」
直感的にそう思える。第一音のラ♭の時点でそれがしみじみと伝わってくると同時に彼女が言う一流と二流の違いが理解できた。彼女の演奏にあって俺の演奏にないモノ。俺が楽譜どおりに正確無比に弾くのとは違う。彼女はその楽譜に感情という概念や自己といった概念を追加する。音の伸び、強弱・・・楽器が違うとか言う次元の話ではなかった。俺のボンバルドを使わせたとしても、俺がこいつに勝つことは出来ないだろう。持っているプライドが違う。そして何より・・・
・・・こいつは音楽を楽しんでいる・・・
音楽を楽しめなかった俺とは違い、こいつは音楽を楽しんでいた。自分の在るがままを楽しみ、そこから音色を書き出していく。楽譜に書かれている音をひねり出している俺では絶対的に追いつけない。
演奏終わり、自然と彼女に拍手を送っていた。
「分かったよ。俺じゃ絶対勝てねえわ。」
「あ、うん。」
「お前が良ければでいいからさ・・・」
「俺たちと一緒に、演奏していただけませんか?」
なぜかは知らない。これに関しては確証が持てない。でも・・・
こいつとなら、音楽を楽しむことが出来る。そう思えたのだ。
――――――
恋っていうんやで、レグルスくん。
てことで、ちゃんとした詳細出す気がないのでここで紹介するレグルスくんの紹介です。
レグルス・ライザス14歳 男
金髪蒼眼で高身長なので17歳位に見間違えられます。商家の次男坊でちやほや育ちなので少し短気なところがあります。自分が楽しめることにはとことん熱中する性格があります。・・・ライザスくん今後も出てくるのに設定が少ない・・・
ちなみにこの世界の酒場はバーといった雰囲気ではないです。マジモンの酒場でございます。
となこんなで雑談行きましょうか。
まず今回出てきたボンバルド。説明によるとオーボエみたいなものと言うことなのでオーボエ調べてください。私、木管楽器に興味がないのです・・・
勿論、前回名前を上げたアコーディオンも。と言っても今回のはボタン・アコーディオンというやつで、すこし小型なのかな・・・?鍵盤の代わりにボタンがあります。ちなみにこれを使う曲だとフィンランド民謡のサッキヤルヴェンポルカってのが好きです。もしかしたらこの曲作中で使うかも・・・?
てなことで、これからも楽しみにしてくれると嬉しいです。それでは
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