第三曲 瞳の中の宝石
翌日早朝、フレデリカはミーシャルと家の外に動きやすい格好をして出てきていた。
理由はもちろん・・・
「どうする?」
「とりあえず畑まわりを一周から始めて、体力に合わせて伸ばしていく感じでいいんじゃないかしら?」
フレデリカの家は王都城外の農業地帯の端にあり、フレデリカの家も畑を持っている。そしてフレデリカの住んでるこの国は大陸の中で食料倉庫と比喩される穀倉地帯。平民一人あたりの農地面積は数百ヘクタールになるところもある。勿論、フレデリカ・・・正確にはミーシャルの所有する畑の面積も広い。
「一周・・・3キロくらいかな?」
「そうね。十五分目安でゆっくり走りましょう。」
「はーい」
一つ言っておく、フレデリカは深窓の娘である。何なら神崎和葉はほぼニートである。そんな彼女が走ったら・・・
「はあ・・・はあ・・・・待って、キツイ・・・」
当然こうなるのは目に見えていた。一周でフレデリカは脚が動かなくなっていた。ミーシャルに至っても息が上がっている。
「もう・・・ムリ・・・」
そうしてフレデリカは力なく倒れるのだった。
◎☆♤♡◇♧□■
「しっかし、こうも体力無いとはなあ・・・しょうみ想定外すぎる・・・」
完全にヘトヘトになった私はリビングで水道工事の材料費を試算していた。
もうリフォーム業者やれよと思ったそこの君!そのとおりだ!
・・・私は一体誰と話しているのでしょうか?
と、自問自答をしながら黙々と試算を繰り返す。時間も忘れて試算に試算。
「フレデリカ〜?雨降ってきたから照明お願い。私は洗濯物取り込んで来るから。」
「はーい。」
燭台に乗った蝋燭に火を付け、カバーを被せる。壁についている五本と、机の上の一本。それだけで部屋全体がある程度明るくなる。
「・・・突然の雨ね・・・ほんとに何なのよ・・・もう。」
「あ、あはは。とりあえず私は続きするから。」
「・・・本当に音楽家なのか分からなくなるわね」
ワタシモデース。と心中で返答しながら作業を続ける私であった。
「あれ・・・?」
異変に気づいたのは数時間経ってから。黙々と作業していてふと、自分の体に異変を感じた。
(からだが・・・熱い?妙に集中が続くし・・・なんか、気分も・・・)
妙に気分が昂っていた。別に変なものを食べたとか、病気とか、そんなのではないけど・・・
「お母さ〜ん。ちょっと来て〜。」
「な〜に〜?どうしたの〜?」
お母さんを呼び出すと呑気な声で返事があり、顔を見せた。
「妙に気分が昂ってるんだけど、私の体に異常が有るとかない?」
「うーん、瞳が朱くなっているとことか、それくらいじゃない?」
「え?私って青色じゃ・・・」
「暗いところだと朱くなるのはいつもの事よ?夜になったら朱くなる、昨日は昼間から興奮状態だったから分かんなかっただけじゃない?」
「そうだったんだ・・・。ちょっと鏡見てくる。どんな色か気になるし。」
「は~い」
少し早足で洗面所に向かい、証明をつけて鏡を覗き込む。写ったのは普段の私・・・とは少し違い、赤い宝石、強いて言うなら私、フレデリカの誕生石であるガーネットのような色に光り輝く瞳だった。
「・・・綺麗・・・」
思わず言葉を失った。
そういえば、高校時代の吹奏楽部の後輩に宝石に詳しいやつがいた。
「万葉センパイ、誕生日って何時っすか?」
「12月13だが、お前演奏に集中しろよ。」
「ウッス」
その時はあまり気にしていなかったが誕生日当日、演奏会が有ったのだがその終了後にイヤーフックをプレゼントしてきた。
「これは?」
「イヤーフックっていうアクセサリーっす。提げてる宝石はセンパイの誕生石、タンザナイトにしてみました。・・・気に入ってくれましたか?」
「・・・・」
あまりに嬉しすぎて涙が出たんだっけな・・・。しかも後で調べると6カラット近いものでしばらく付けるのをためらっていた。高校卒業してからは好んで付けてた。撮影するときも、他の音楽家と会うときも。多分死ぬ前に一番良くつけていた・・・というより唯一付けたアクセサリーだったと思う。
それで、後輩がソロの演奏コンクールで優勝したとき、祝いとして送ったのが後輩の誕生石、1月のガーネットだった。彼が青色が好きだと言うこともあって調べに調べた結果選んだのが『ベキリーブルーガーネット』。太陽光のもとで青色、白熱光を浴びると赤色に変化する貴重な石でその時持っていた全財産で買える一番いいやつを買い、ブレスレットとして彼に渡した。とても喜んでいた・・・号泣しながら・・・
私の透明感の有る宝石のような瞳、青と赤の変色、そして・・・
「か・・・た・・・い・・?」
人間の瞳とは思えないような硬さを持つ。
その時点で私は自身の目に宝石組まれていると確信した。
「ベキリーブルーガーネット・・・」
私はある程度の納得を持ってリビングの戻った。
「どう?なにかわかったかしら?」
「まあ、ある程度は・・・」
「どんなの?」
「まず、私の目ってフツーのものと違って宝石が組まれてるんだよね。その宝石がベキリーブルーガーネットっていう色が変わる宝石なの。だから瞳の色が変化するんだと思う。」
「ふーん。ちなみに気分が昂ったのは?」
「多分、宝石が魔力の媒介器官になってるからだと思う。魔力の反応で興奮状態になるとか、そんな感じ。」
「へぇ〜」
いや、興味持たないですね。お母様・・・
お母さんの手にはフルートが握られており、私の使うフィドルも横においてある。言いたいことは分かるよ。うん、とても分かる。材料費の試算用に使ってた紙とか全て片付けてあるし、夕食までそれなりに時間が有るからね・・・うん、わかるよ、分かるけどね?
「・・・もうちょっと娘の体に興味持ってよ・・・」
「やだわ。なんで自分で産み落とした子の体に神秘を感じなきゃいけないのよ。それより演奏しましょ。もう日課にするわ。楽しいもの。」
「・・・・はいはい。」
ケースからフィドルを取り出しながらこう思う。
・・・・地獄みたいに転調してやる・・・・
と。いや、ご尤も、娘の体に興味持つ母親なんて一歩間違えたらやばい人一直線だもの。でもね!?せめて宝石くらいには反応欲しかったな!?
「じゃあ・・・3、2,1!」
気を入れ直してフィドルを持つ手に力を入れる。テンポ130でロ長調。8分と32分の連打。その中でリズムと旋律を作っていく。途中でアイコンタクトを送りお母さんにソロを振るとしっかりと対応してきた。昨日の私がソロで弾いた情熱大陸に引っ張られたようでリズムが似通っている。
いや、フルートだよね!?
「ロ長調なのによく合わせられるよね・・・ほんと。」
「そう?まあ、長年のといったところかしらね」
お母さんがフルートから口を離し、それと合わせるようにして私のソロに入る。
さて、こっから異次元のように転調を始める。ニ短調、変イ長調、変ホ短調、イ短調、変ニ長調からの変ハ長調。三音だけで転調したりわざとリズムをズラしたりともうやりたい放題である。いやいや、ほんとにやめてくださいと、懐かしい後輩の声が聞こえたきもするが気のせいだろう。
その後、お母さんのフルートを終始翻弄しながら演奏を終えた。
「転調おかしくないかしら?」
「シラナイデスヨ〜」
「質悪いわね。我が娘ながら・・・」
「褒め言葉として受け取っておくよ。・・・そんなことより、お腹へった。」
「はいはい。じゃあ、ご飯作るから楽器片付けて置いてね」
「はーい」
そんなこんな、この世界に転生して二日目が終わった。
平民がスローライフを満喫する中で、誰にも気づかれずに行動する猫の存在に、私が気づくのはまだ先のことである・・・
――――――
お読み頂き有難うございます。
今回・・・なんというか、めちゃくちゃ音楽要素が少なかったですが気にしないでいただけると助かります・・・
それでは少し雑談を・・・
今回、ベキリーブルーガーネットと言われる少し変わった宝石を出しました。基本的にガーネットは赤色のイメージですが、ベキリーガーネットは環境下によって青、赤の2色に変化するものです。前相場を見たら金銭感覚狂いそうになったのを覚えています・・・
誕生石・・・の話はいいか・・・(⇇おいw)
まあ、なんと言いますか、信頼している人になにか高いものあげたいとかになれば相手の誕生石のアクセサリーとか、良いんじゃないでしょうか?
ちなみに私が好きなのは2月のアメシスト、3月のアクアマリン、12月のタンザナイトです。え?誕生石はですって?10月のオパールでございますがなにか?
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