第二曲 音と魔力の狂想曲
自分の周りに浮いている音符。2分、4分、8分、16分、連符まで、多種多様な音符が合計100個ほど。
「ちなみに前世の記憶で行けば?」
「間違いなくスキルに当てはまるね。どんな効果はまだわからないけど・・・。というか、これで万能スキルとかだったら嫌なんだけど・・・」
「いいんじゃない?万能スキルで。楽じゃない?」
「たしかに楽ではあるんだけどさ、なんていうか、物語がないじゃん?」
いや、それを自分から言うか普通・・・。お母さんも困惑してるし・・・
「まあ、何にせよ、もう少し曲を試しながら弾かないとスキルの効果もわかんないし、『音』も一定時間経ったら消えるみたいだし・・・」
そこで私は疑問が浮かんだ。
一つはなぜ私がこの世界の一部貴族だけにあるスキルが有るのか。そしてもう一つは私はなぜスキル持ちでありながら魔法が使えないのかという点だ。前者は大方予想がつく。お母さんに私を産ませたのが貴族の者だったということ。しかし後者の方は・・・
「貴族でない私もフレデリカも別に魔法使わないからスキルがあろうとなかろうと関係ないけどね〜」
「あ、そうじゃん!」
そうである。私は平民であり、魔法を使う必要がない。つまり私はスキルがどんなものであれ、意識的に使う必要がない。
「な〜んだ。別に悩む必要なかったな・・・」
そうして私は考えるのをやめた。
それからしばらく・・・大体4時間ほど母と二人で即興演奏をしていたのだが・・・
「・・・つ、疲れた・・・」
「私も。昔はもっと吹けたんだけどねえ・・・」
二人共ヘトヘトである。実際4時間ぶっ通しで演奏すれば疲れるのは当たり前である。・・・・のはずだが私達二人はというと・・・
「運動が必要ね!」
「賛成!」
更に体力をつけるという話になった・・・いや、おかしいだろ!?
ちなみに休み無しの演奏なので『音』も量がすごいこと・・・いや、何ならあたり一面が『音』である。
「どうするのよこれ・・・」
「あと、三分ぐらいしたら全部消えると思う・・・」
正直、邪魔である。。この点に関してはなんとかするべきだと思う。けど、スキルの内容がわからんからどうしようもない。
とりあえず演奏会はお開きにして昼食を食べることになった。
この世界は音楽というものは庶民の遊びであり、貴族が嗜むことはほぼない。そのため楽団などは存在せず、基本的に演奏も3〜4人程度である。
「外見てみなさいよ」
「うへぇ・・・人だかりがすごいや・・・」
朝の8時半から昼間で延々と演奏がされているという奇妙な現象に気を止めた人が家の周りに集まり、人集りができている。近所の平民を始め、偶々通りがかった商家、下級だが貴族までもが人集りの中に紛れている。
「めんどくさい・・・お母さん、放おっておいて演奏の続きでもしよ」
「いいわよ。じゃあ次はあなたがソロで数曲弾いてみなさい?」
「はーい・・・えっと、どんなのがいい?」
「あなたの生きていた世界はどんな音楽があったのかしら?」
「じゃあ・・・そうだね、私が生きた時代よりも古い『クラッシック』系統で行こうかな・・・」
楽器を構え、私が弾き始めたのはヴァッへルヴェルのカノン・・・を地獄譜面に前世の神崎万葉がアレンジしたヤバいやつ。もはや原曲どこ言ったレベルの曲である。
(あれ?後半戦は笛の音が聞こえねえぞ!)
(笛の人!さっきみたいに弾いてくれー!)
窓の外からガヤが聞こえる。うるさいと思うがそこまで気にならないのはなんでだろう?
「ふい、一曲目終了っと。次は逆に現代曲でもいこうかな・・・」
「現代曲?」
「あー、私が生きた当時の曲ってこと。とりあえず王道の情熱大陸でも弾こうかな・・・」
王道が情熱大陸なのかは知らないが・・・、高校時代に弾けってねちっこく言われたのは情熱大陸だしいいよね!
ソロアレンジをはさみながら曲を弾いていく。順調に進んでいき、ラスト4小節、次は何にしようかを考え始めた頃に事件は起きた。
「たのもー!」
そう言って入ってきたのはいかにもあ金持ちです風のお坊ちゃんだった。いきなりの不法侵入である。私もお母さんも顔に困惑と恐怖が浮かび上がり私は弓を浮かしてギュインとノイズを弾いて固まってしまった・・・
「ほほう?この家に住んでるのはお嬢さん方二人かい?今日ずっとこの家から流れてくる演奏も二人でかい?」
「あ、あの・・・どんな御用で・・・?」
困惑した震えた声でお母さんが問いかける。お坊ちゃまは私達を舐め回すように観察して・・・
「なに、演奏がうまいのでな。私の商会で演奏してする気はないかと。何なら婚約者を探してもやっていいぞ」
「・・・・」
その言葉にゾッとする。最悪、話だけでも聞こうかなと思った私が馬鹿だっと思うくらい気持ちの悪い視線が私とお母さんを襲う。
「・・・・て」
「ん?」
「帰って!」
どれだけ殺気を向けたか分からないが怒っていたのは事実。私が叫ぶと同時に空気が揺れた気がした。商家のお坊ちゃまが吹き飛びドアの外に放り出された。
「・・・・二度とくるな!」
叫び、軽蔑の視線を向けたあと、勢いよくドアを閉じた。
「ありがとう。ああいうのはきっぱり断らないと後でめんどくさいから・・・助かったわ。」
「ええ。あんな変態はお母さんに相応しくないからね。もっといい人じゃないと・・・あと、今のでスキルの詳細が大方わかったよ。」
「そうなの?・・・と言いたいけど、今の見たら私でもわかるわよ。あの男に向かって『音』が一斉に飛びかかっていったもの。」
おそらく私のスキルは『演奏中、一定時間ごとに[音]を獲得する。[音]は演奏終了後、自身が敵意を持ったものに衝撃波として放たれる』といったところだろう。一見チートに見えるが・・・
「要するに戦闘になったら戦闘中に曲を弾ききらなければいけないと言うことだね。しかも弾いてる感じ『音』は時間比例で増えるみたいだし・・・魔物とか相手にするなら三曲分くらい弾かないといけないだろうね・・・」
「人相手でも殺すとなればそれくらいは必要でしょうし、・・・体力はやっぱり付けておいたほうがいいわね。自衛も兼ねて。」
「さんせー」
音楽部は・・・運動部である。え?鍛えるなら物理でいいだろって!?いいじゃない!何事にもロマンは必要よ!・・・という冗談はさておき。平民の私は貴族などに喧嘩を売られた場合、やり返すことが権力的に難しい。なので相手にやり返しても「不幸な事故でしてよオホホホ」でやり通せるようにしておきたいのだ。
「さて、今日はもう終わりにしましょう。フレデリカ、あなたももう疲れたでしょう?」
「はーい。明日から走り込みでもするかな。」
「そうしましょう。・・・明日から、また楽しくなりそうだわ。ふふっ」
クロスで弦を拭き、弓を緩めて、お母さんが持ってきたケースの中に入れる。
「さてっと!まだ時間あるから、私少し水車小屋まで行ってくるね。」
「はーい。気をつけてね」
裏口から出て敷地内にある水車小屋に向かう。もう群衆はいなくなっていたみたいで静かである。さすがに商家の坊っちゃん叩き出した時点でほとんどの人が逃げてったみたいだ。
水車小屋には工具、木材などがそこそこおいてある。倉庫みたいである。
「これなら水道作れそうだね。また設計図作り直しておこ。・・・・?」
そこで私は木材に埋もれておいてあるあるものに目が行った。
「王家の紋章の鍵・・・だよね、これ。・・・なんでこんなところにあるんだろ・・・」
真実に気がつくのはまだまだ先のことである。
―――――――
お読み頂き有難うございます。
雑談の前にフレデリカのスキルについて少し解説を・・・
スキル名は・・・なんでもいいですが私は天音とでも書いております。
このスキルの効果は一定時間(5秒)に一つ、『音』を獲得します。演奏終了後、フレデリカ自身が敵意を持つものに対して衝撃波攻撃が起こります。『音』は波紋のように広がるので多ければ多いほど威力が高くなります。
といってもスキル自体はこんなものです。
雑談・・・と言っても何しましょか。あ、軽くフィドルとヴァイオリンについてでも話しましょう。
といっても別に楽器自体に変わりはありません。ケルト音楽に使う時はフィドルと言うだけと認識してもらえればこの小説が読み易くなると思います。フィドルはヴァイオリンと違い、決まった奏法がありません。・・・というかそれくらいしか違いはないんじゃ?
ちなみに世界観でケルト音楽というわけではなく、自分がケルト系音楽が好きなだけです。多分これからもケルト系は増えると思います。
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