第4話 セリフ①【長セリフは基本的に悪手】
※スマホの画面横長推奨
シナリオは基本的に映像作品のためにある。
ト書きはセリフ以外の舞台装置や設定を書く。(第3回を参照のこと)
カメラに映す必要があるものはすべてト書きに盛り込む必要がある。
つまりセリフが長々と続き、ト書きが全く見当たらない状態というのは、"一切絵替りしない状況"というのに他ならない。
セリフの長さに規定があるわけではないが、とある脚本学校では、『一つのセリフがペラの原稿用紙(20×10)であれば3行以上続いたならば要注意』と言われている。
もし長セリフとなった場合、どうすればよいのか?
セリフを割って、画面に動きを与えるのが簡単だ。
例:(長セリフ)
探偵「犯人は窓から窓へと飛び移ったんです
よ。皆さんが被害者の悲鳴を聞いて駆けつ
ける間にね。そしてこの屋敷の特殊な構造
を知る人物でしか、このトリックは思いつ
けない。つまり犯人はこの屋敷の主である、
ご主人、貴方だ!」
↓
例:(セリフをト書きによって割る)
探偵「犯人は窓から窓へと飛び移ったんです
よ。皆さんが被害者の悲鳴を聞いて駆けつ
ける間にね」
と、犯行に使われた窓を指す。
部屋にいる一同が一斉にそれを見る。
探偵「そしてこの屋敷の特殊な構造を知る人
物でしか、このトリックは思いつけない」
と、指先をある人物へと向け直す。
探偵「つまり犯人はこの屋敷の主である、ご主
人、貴方だ!」
驚愕の表情の主。
……セリフだけのときよりも、鮮明に場面が頭に思い浮かべられたのではなかろうか?
このときに要らない描写を盛り込んではいけない。ト書きはストーリーの上で必要なことや、カメラによってお客さんの視点を誘導してもいいような、効果的な演出のみ書くことが許される。
セリフを割りたいからといって、『探偵がサラッと髪をなでる』とか、『窓が風でガタガタと揺れている』と書いていても、伏線などにならない限りは悪手となる。
他には、別の役のセリフを差し込むという手法もある。
例:(セリフを別の役のセリフによって割る)
探偵「犯人は窓から窓へと飛び移ったんです
よ。皆さんが被害者の悲鳴を聞いて駆けつ
ける間にね」
主「ほ、本当にそんなことが出来るのか!?」
探偵「不可能ではないですよ。壁にせり出した
窓枠を伝えば、少し飛ぶだけで隣の部屋の窓
枠に十分足をかけられます」
客1「そ、そんなことが……」
探偵「まぁ、背丈の大きな男性しか無理でしょ
うが……」
客2「そ、それじゃあ私じゃないわね……」
主「も、もったいぶらずに言いたまえ! 私の
家内を殺したのは誰なのか!」
探偵「焦らずともすぐにでも明らかにしますよ。
考えても見てください。あのような窓枠のせ
り出しは、誰が注目するというのです?」
一同「……」
探偵「そのトリックは、この屋敷の構造をに詳
しい人物でなくては不可能だ……つまり犯人
はこの屋敷の主である、ご主人、貴方だ!」
主「な、なんだとぉぉぉぉ!?」
……長々と書き連ねてしまったが、とどのつまりつまりこういうことである。
ドラマは基本的にキャラクター同士の掛け合いによって進行していく。
なので主人公が放ったアクション(セリフ)に対して、脇役などがリアクションを還すことで、分かりやすく伝わりやすい話運びを展開することが出来る。
以上は基本的テクニックだが、ともかく長セリフになりそうなら絵替わりせず退屈になりはしないか十分に留意して、何か対策を講じてもらいたい。
【例外】
長セリフの方が効果的だったり、味が出たりするパターンがある。
①長セリフを喋ること自体が魅力に繋がる特殊なキャラクター
例えば政見放送をするときの政治家、くどくどと叱る先生や学級委員長など、長セリフを喋らすことがこのキャラの特徴と思うときは、随所に使うといい。
だがそれもメリハリが必要である。長いセリフばかりだと読み手や観客が疲れてしまうからだ。
政治家の場合は適時ヤジを飛ばすキャラがいたり、学級委員長の場合はおチャラけて口答えする能天気なキャラクターを傍らに置いて、そのキャラクターとの掛け合いをさせれば尚良しかもしれない。
②いざという場面
劇中の全てのセリフを歯切れよく短いセリフにすればいいというわけではない。
クライマックス時や作中でどうしても観客に訴えかけたい場合において、長セリフを使えば読者や観客は注目してくれるし、印象に残るものとなり得る。
古い映画で例えて申し訳ないが、『七人の侍』での菊千代というキャラクターが農民の苦境を訴えるセリフや、チャップリンの『独裁者』は一人が長々と語るセリフとなっているが、いずれも映画史を代表する名場面として記録されている。
③媒体による違い
長セリフが悪手だといわれるのは『シナリオが映像表現のためのもの』だからであって、他の媒体では当てはまらないことが多い。例えば小説では長いセリフが続いても気にならない。だからラノベ原作とかだと一人のキャラクターが長々と喋る場面があり、アニメなどでそれが直されていないと、長セリフでもOKと思い込んでしまう懸念があるので要注意だ。
ちなみに優れた脚本家や演出家よって原作者のある小説やラノベが映像化されると、原作にはない掛け合いや演出によって一人語り(長セリフ)が退屈にならないように工夫されている。
④それがその作品の味になっている場合
珍しいパターンだが、キャラクターが長セリフをまくし立てることがその作品のテイストにまで昇華されている場合もある。例えば、『リーガルハイ!』の古美門というキャラクターの語りや(これはむしろ①に相当するか?)、西尾維新の作品が例に挙げやすい。(これは③か?)
以上、次回をお楽しみに
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