第5話 セリフ②【『独白』と説明セリフは必要悪】
セリフには5つの種類がある。
①独白
②英会話セリフ
③聞いたか坊主
④事件セリフ
⑤情緒セリフ
このうち、①②③は説明セリフである。
■説明セリフは必要か?
セリフとは基本的に二人の登場人物の掛け合いで成立する。
しかしながらフィクション作品では、登場人物が一人でブツブツ喋るシーンが必ず存在する。
現実で独り言をブツブツ喋っている人はあまりいない。
ではなぜ、そのような不自然なシーンをあえて設けるのか?
理由は、そうせざるを得ないからである。
その登場人物が置かれている状況、その人物が何を思っているのか、そもそも何者なのか説明するために、『説明セリフ』をどうしても導入せざるをえない。
ライターからすると、不自然に見えてしまうそのような技法は極力使いたくないのが本音である。それでも説明不足によって観客が話についてこれなくなるよりは、あえて不自然なセリフを盛り込んでも致し方ないと考え、利用するのである。
実はライターが話を書くときに、読者や観客にきちんと話が伝わっているか、伝わっていないか。もし伝わっていないと思うのなら、説明セリフをどこまで付け加えるか、省くかという塩梅に結構神経を割かれている。
説明セリフは極力入れたくない悪手であるが、それでもある程度入れなくては仕方がない、必要悪のようなものである。
■独白(モノローグ)について
心の中の声や、突然一人で喋り出すことである。
主にその登場人物の考えや感想を述べるために使う。
媒体によっては不自然に見えるので、なるべく間に人を立てて、会話によってその人物の心情等を述べさせるべきである。
媒体によってはと言及したのは、戯曲(演劇)などではある種必須になるからだ。
いつか取り上げるかもしれないが、テレビドラマや映画、ゲーム、アニメなどの映像作品では、セリフにしなくてもその登場人物の思っていることや心情を観客に悟ってもらうための手段がいくつか存在する。例えば、表情や感情を表す仕草をクローズアップするなどだ。(カメラフレームを利用する)
しかし視点が常に固定され、観客がどこに注目しても自由な戯曲では、登場人物が悲し気な表情をしていても、嫉妬に狂って唇の端を噛んでいたとしても、気づいてもらえないことがままある。だからあえて心情をセリフにして述べる必要があるわけである。
他の例では、昨今のアニメなどでは適時独白を入れても不自然にならなかったりする。本来ならば出来るだけ入れない方が正解なのだろうが、アニメやマンガだと登場人物がある程度一人でペラペラしゃべっていても気にならないという、視聴者側の優しさというか、お約束として受け取ってもらえるからだ。
■独白の好例
独白を禁じ手のように申し上げたが、効果的に機能している例も紹介する。『タイタニック』や『ファイナルファンタジーX』などだ。
この2作品は共に、重要な人物が語り手となって過去に起きた出来事を語るという手法により、物語に素晴らしい色どりを加えることに成功している。
『タイタニック』の場合、独白はどのように活用されたのだろうか。物語の大半を占める豪華客船の沈没事件は過去のものである。その事件は現代に生きる、事件の生還者から語られるという仕組みが採用されている。ただ語るだけではなく、過去の事件と現代の事件を繋げて物語に特別な意味を持たせるために、そのような手法を用いたと考えられる。または縁もゆかりもない過去の出来事や過去の光景突然観客に見せるよりも、海に眠るお宝を探し求めていたトレジャーハンターや学者が宝の行方を追っているうちに、タイタニック事件の生存者から話を聞いて……という展開の方が観客は興味を持ってくれると考えたからではなかろうか。この映画では独白は、観客を過去の出来事へスムースに誘導するための役割と、主要人物が心で思っていても言えなかったことを表現して、人間ドラマとしての厚みを設けるのに役立っている。
『ファイナルファンタジーX』の場合は、常に陽気な主人公が口に出して言わないであろう弱音や不安、文化のまるで違う世界を彷徨うことへの戸惑いなどを述べることによって、観客が主人公に共感してくれることに役立っている。また、物語の中盤で発覚する重大な事実に対する伏線を孕んでいて、この主人公の語り(独白)は物語の質を何割増しにも高めるのに大きく寄与してくれていると思う。
両作における独白が及ぼした影響というものを完全に紹介し切れたと言い切れないが、ともかく独白を上手く利用することで、通常の登場人物の掛け合いではどうしても伝えきれない情報や伏線を観客に注目させたり、物語の印象を上手いこと誘導させたり、ナレーションが肩代わりすることで不要な説明セリフを省くことが出来ると覚えておいて欲しい。そしてそのようなときに独白を使うべきだし、それ以外のとき、特に説明不足だからと安易に使うのは控えた方が無難だ。
■ナレーション……独白と似て非なるもの
ナレーションは劇中にポンと挿入される説明セリフであり、独白とよく似ている。
ナレーションと独白を厳密に分類するのは難しい。
働きとしては、説明セリフのよりももっと明確に説明したいときに用いるものという印象がある。
例えば独白やモノローグ(心の声)などの場合は、他のセリフに紛れて聞き逃してしまう場合がある。
ナレーションの場合、他の登場人物のセリフを一切止めて、これから観る物語や展開のために最低でも知っておいた方がいい前提や予備知識を与えてくれる。観客へのある種の配慮である。
朝ドラでナレーションが多用されているのは、番組の性質上、朝の支度をしながら観ている人が多いからだ。いくつかセリフやシーンを見逃したり、前回を観れなかった人が一定数いるために、どうしてもナレーションが必要となっている。
ナレーションは特定の登場人物が担う場合があるし、そうではない神の目線というか、第三者的視線で語られる場合も多い。なんにせよ主観的ではなく、客観的にものを語っているというのがセオリーに思える。
■まとめ
独白、モノローグ、ナレーションの違いは……
独白 →登場人物が実際に声に出す独り言
モノローグ →登場人物の心の声(他の登場人物には聞こえない)
ナレーション →第三者的視点から客観的に語られる
(その場にはいない登場人物以外の人物)
(最低の予備知識を与える)
■書式
書き方は以下の通りである。
独白 → カバかもん「独り言って集中力が上がるらしいよ」
モノローグ → カバかもんのM「独り言って集中力が上がるらしいよ」
ナレーション→ N「独り言は集中力が上がるらしい」
以上、次回をお楽しみに
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