7

 千歳基地、Jスコ関係者宿舎、201号室。


「ええええ!」三人が同時に大声を上げる。


「マジッスか、町田さん」と、譲。「マジで、シノが無事なんスか」


「ええ。ちょっと足首をねんざしちゃったみたいけど、元気よ」


「G----reat!」


 いきなり絵里香が譲に抱きついた。


「お、おい! 何やってんだ……」譲は焦り顔になる。


「いいじゃない! 最高なんだもん! シノが生きてて無事だなんて……incredible(信じられない)! ほら、タク、言ったとおりでしょ? シノは強いって、絶対大丈夫だって!」


「ああ……」


 それ以上は胸がいっぱいで、巧也は何も言うことができなかった。


「タク、よかったわね」


 声に振り返ると、町田二尉だった。


「はい」


 巧也がうなずくと、二尉は表情を引き締める。


「でもね、状況はかなり厳しい」


「……え?」


 三人の視線が、町田二尉に集中する。


「どうやら敵が上陸を計画しているみたい。どの海岸線かは分からないけど、おそらく函館半島の西海岸でしょうね。いすれにせよ羊蹄山からはかなり近い。敵に上陸されると……彼らの救出は難しくなる。だから、彼らを救出できるとしたらチャンスは明日しかない。シノが足を怪我してるから、歩いて下山は無理。だとしたら救難隊がヘリ救助することになると思う。だけど……敵にしてみれば、ヘリなんか格好の標的よ。だから戦闘機によるRESCAPレスキャップ救難戦闘空中哨戒REScue Combat Air Patrol:救難活動中の救難隊を護衛する戦闘行動)が必要ね」


「わかりました。それを私たちにやってほしい、ってことですね?」


 目を輝かせながら、絵里香が言う。


「ええ。そういうことに……なるわね」


「よっしゃ! 任せといてくださいッスよ!」譲がドンと自分の胸を叩く。


 しかし。


「で、でも……戦いになったら、また誰か撃墜されてしまうかも……ぼくはもう、そんなの、嫌だ……」


「……」


 そう言って巧也が下を向くと、みな押し黙ってしまう。が、


「……タク!」いきなり絵里香が正面から巧也の両肩を掴み、揺さぶった。


「う……わっ? エリー?」


「大丈夫よ」絵里香は巧也をまっすぐ見据える。「町田さんたちが作った機体、やっぱりすごいよ。シノだって無事だったじゃない。だから私は信じられる。F-23Jはきっと私を守ってくれる。だから……大丈夫」


「そうだぜ、タク」譲だった。「俺らが……つか、お前がシノを助けに行かなくて、どうすんだっての」


「私たちも全力でサポートするわ」と、町田二尉。「ひょっとしたら間に合わないかもしれないけど……でも、シノが書いたこのコードがあれば、きっと君らを助けることができると思う」


「……わかりました」巧也の目に、輝きが戻った。


 その時。


「なんだ、もうみんなには伝わっていたようだな」


 声と共に現れたのは、宇治原三佐だった。


「宇治原三佐!」


 三佐は一瞬ニヤリとするが、すぐに真顔に戻る。


「明朝○六〇〇時より加藤三佐、立川生徒両名の救出ミッションを開始する。スカルボ小隊フライトは救難ヘリを援護せよ。質問は?」


「ありません!」三人の声が揃う。


「ようし。それでは明朝の出撃に備えて、今日は各自十分休養を取るように。諸君らの武運を祈る」


 宇治原三佐が背筋を伸ばし、敬礼。


「はいっ! ありがとうございます!」


 三人も揃ってかかとを鳴らし、答礼する。


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