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「君らが見抜いた通り、あなたたちの敵……タイプSは、あらかじめ私たちが用意したものよ。完全な無人機ではなくて、ある程度人間に遠隔操縦されている。今まで黙っていて……ごめんなさい」


 そう言って、町田二尉は四人に向かって深く頭を下げた。


「そんな……頭を上げてください」と、巧也。「でも……どうしてそんなことを……」


「遠隔操縦されていると言ってもね」姿勢を戻した町田二尉が続ける。「タイプSは将来の完全自律型無人機のプロトタイプではあるわけ。それにタイプSの性能は、様々な情報から私たちが予測した、仮想敵国の無人戦闘機ドローンの性能とほぼ同じよ。だから、F-23Jにそれと戦う能力が十分あるかどうかを見極めなくてはならない。君らはそのテストのために、ここに集められたの」


「ということは、ぼくらは実戦をしていたわけではないんですか?」


「そうね。だけど、最初からそう言ってしまったら真剣みが失われてしまうでしょ? だから君らには秘密にしておいたのよ。ちなみに、君らのご両親はこのことを知ってる。だからご両親は快く君らを送り出すことが出来たのよ。これが実戦だったとしたら、さすがに君らのお父さんお母さんも平気ではいられなかったんじゃないかしら」


「……」


 そう言われてみると、巧也にも心当たりがないわけではなかった。よく考えれば、自分の子供が戦死してしまうかもしれないという状況なのに、両親はかなり落ち着いていた。もし本当に巧也が戦死する可能性があれば、おそらく二人とも強く反対しただろう。きっと二人は知っていたのだ。巧也が実戦に加わるわけではない、ということを。


 そして、他の三人にもやはりそれぞれ思い当たる節があるようだった。


 その時。


「あの時……バラージ・ジャミングをかけたのも……自衛隊の人たちだったんですか?」


 たどたどしい口調で、しのぶが町田二尉に問いかける。


「……!」


 町田二尉の動揺は巧也にも十分見て取れた。そのまま二尉は下を向いて黙り込む。


 やがて。


「違う……」


 ようやく町田二尉が口を開いた。


「あれをやったのは……私たちじゃない……」


「それじゃ、何者がやったんですか?」と、巧也。


「それはね……」町田二尉の口調は相変わらず重かった。「確かな証拠はないけど、たぶん、仮想敵国よ」


「え……?」


「リアルな軍事行動、ってこと……北海道をターゲットにした……」


「!」四人全員が絶句する。町田二尉は深刻な顔で続けた。


「最近、日本と仮想敵国との関係がかなり険悪になってきているからね。ひょっとしたら……近いうちに北海道がリアルな戦場になるかもしれない……」


 その時だった。


 入り口のドアが開き、誰かが階段を降りる音が聞こえ始める。全員の視線が階段に集中する。


 降りてきたのは二人だった。一人は制服姿の宇治原三佐。そして、その後ろにフライトスーツ姿の一人の男性。巧也、いや、その場にいた全員がその人物に見覚えがあった。しかし、誰よりも早くその人の名を呼んだのは町田二尉だった。


「……カーシーさん!」


「よう、マッちゃん、みんな。久しぶり」


 カーシー……加藤章一三佐が、全員に向かって少しおどけたように敬礼する。


「どうして……カーシーさん……」町田二尉は、自分の眼が信じられない、といった様子だった。


「それはまた、追い追い……な」


 そう言って、加藤三佐は隣の宇治原三佐に視線を送る。それを受けて宇治原三佐が声を張り上げた。


「全員集まっているね。ちょうどよかった。諸君らに重大な知らせがある」


 そこで宇治原三佐は四人全員の顔を見渡し、感情のこもらない声で、告げた。


「本日をもってJスコは解散だ。諸君らは大至急地元に戻りたまえ」


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