第6章 シノとノブ

1

『はーい。これで6連勝~』


 勝ち誇った絵里香の声。巧也は大きくため息をつく。


 ”ちくしょう……ランカー同士が手を組むと、ここまで強くなっちまうのか……”


 シミュレーションでの紅白戦。巧也・しのぶペアは、既に6回連続で絵里香・譲ペアに負けていた。


 だけど、自分たちだってこんなに弱いはずがない。だって、巧也の相棒はあの”ノブ”の中の人なのだから。”タク”と”ノブ”と言えば、DFでは黄金ペアとして知られ、ランカーと互角以上に戦ってきたのである。


 それなのに……


 しのぶは”ノブ”とは、まるっきり別人のようだった。どうにも巧也と動きがかみ合わない。それに比べて、絵里香と譲は最初のうちはギクシャクしていたものの、ここ最近はピッタリ呼吸が合っている。今の巧也としのぶのペアではとてもかなわない。


『タク……ごめん……本当に、ごめん……』


 しのぶの声は、今にも泣きだしそうに震えている。


「いいよ、シノ。また頑張ろう」


 そうは言ったものの、巧也は落ち込む気持ちを隠して普段どおりの声を装うのに必死だった。


 ”どうやったら、シノとのペアがうまくいくんだろう……”


---


 宿舎、101室。


「……なるほど。シノのパフォーマンスがかなり低調なのは分かったが、それはどうしてなんだ? 彼女だって君がスカウトしてきたんだろう?」


 執務席で書類に目を通していた宇治原三佐が、目の前の町田二尉に視線を移す。


「ええ、そうですけど……彼女の実力は、本来あんなものじゃないはずなんです。なのに……どうしてあれほどダメになっちゃったのか……自分にも分かりません」


「しかし、いずれにせよこのままでは彼女は……登録抹消エリミネートってことになってしまうかもしれない。できればそれは避けたいところだ。町田二尉、少し動いてみてくれないか」


「分かりました」町田二尉は敬礼する。


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 夕食の場でも、しのぶは元気がなかった。もともとそんなに話好きなタイプではない。だけどここ最近は、明らかに押し黙っていることが多くなった。巧也はそんな彼女が気がかりだった。


 やはり、自分とのペアがうまくいっていないのを気にしているのだ。力になれれば、と巧也も考え続けているのだが……情けないことに、どうしたらいいのか全く思いつかない。


 そんな時だった。


「ねえ、シノ」町田二尉がしのぶに声をかける。「夕食の後片付けが終わったら、私の部屋に来てくれる?」


「……!」


 しのぶは一瞬怯えた顔になるが、すぐにコクリとうなずく。


「……わかりました」


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