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 滑走路ランウェイ18Rに移動し、まずは絵里香の1番機としのぶの2番機が編隊を組んだまま同時に離陸。続いて巧也の3番機と譲の4番機の番だ。


 左右のラダーペダルの上に乗っているブレーキペダルを両足で踏みしめ、スロットルをミリタリーポジション(アフターバーナーを使わない最大推力)へ。高熱の排気がもうもうと巻きあがり、彼らの後ろの風景を陽炎かげろうの中に封じ込める。


「ブレーキリリース」


 言うと同時に巧也はブレーキを踏みしめていた爪先を緩める。機体が加速を開始。そのまま彼はゆるゆるとスロットルをMAXポジションに入れる。5段のアフターバーナーが次々に点火し、瞬く間に離陸速度に到達。


 スピードを殺さないように、巧也はじわりと操縦桿を引く。地面からきゃくを通じて伝わっていた振動が消える。フラップと脚が自動的に収納。


 とうとう、自分の操縦で本物の空に浮かんだのだ。喜びで思わず叫びだしそうになるのを、巧也は必死でこらえる。


 操縦桿も、スロットルも、ラダーペダルも、彼の意志通りに動作していた。巧也は酸素マスクの中の頬が緩むのを感じる。


 ”ぼくは今、本物の戦闘機を操縦して、本物の空を飛んでいるんだ……”


 いくらリアルでも、やはりシミュレーションは本物とは全然違う。例えば、軽く旋回するだけでもかかる、このG。これはどうしてもシミュレーションでは体験できない。

 

 後ろを振り返ると、譲がピタリと彼の左斜め後ろについていた。


 編隊離陸フォーメーションテイクオフは、行えるようになるまでそれなりに訓練が必要で、とても今回が初飛行のパイロットができるようなものではないのだが、四人はいともたやすくやってのけた。アイのサポートの成せるわざだった。


「ジョー、エリーたちに合流しよう。針路ヘディング、021。右旋回ライトターン開始ナウ


『了解』


 二人は同時に機体を右に傾ける。


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