7
「ジョー」と、絵里香。
「タク」と、しのぶ。
「……よかったぁ! シノと戦うことにならなくて!」
心の底からほっとした、という様子で、絵里香がため息をつく。しのぶも内心安堵していた。
「でも、意外だなあ」と、絵里香。「確かにタクもそこそこかっこいいけど、ちょっとナヨってしてるじゃない? 私、そういうのあまり好みじゃないんだよね。ちょっとチャラい感じだけど、ジョーの方がキリっとしててイケメンでしょ? 私、てっきりシノもジョーの方が好み、って思ってた」
「わたしは……ずっと、タクとペア組んでたから……」
「あ、そうか! 黄金ペアって言われてたんだもんね。それじゃ、その頃から好きだったの?」
しのぶの顔が、耳まで赤く染まる。
「う、うん……実は……」
「かーわいいー! シノ、かわいすぎる―!」
なぜか絵里香の両目がハートマークになっているように、しのぶには見えた。
「で、でも……タクと一緒にいたのは、わたしじゃなくて……ノブだから……タクはね、いつもノブに言ってた……マイ・ライフ・イズ・イン・ユア・ハンズ、って……」
「My life is in your hands」流ちょうな発音で絵里香が繰り返す。
「わっ……すごい、発音、上手……」
「これでもね、私、日米ハイブリッドだから。お父さんが
「そうだったんだ……」
どうりでちょっと大人っぽいし顔の彫りが深いわけだ。しのぶは納得する。
「話戻すけど、さっきのは、”ぼくの命は君に預ける”、って意味でしょ?」と、絵里香。
「うん。タクが何かの映画で見て、すごく気に入って、教えてくれたの。二人の合言葉にしよう、って……」
「合言葉? そう言われたら、シノは何て応えるの?」
「……マインズ・イン・ユアーズ」
「Mine's in yours……私の命もあなたに預ける、ね。なぁによぉ、もう、ラブラブなんじゃなーい! のろけないでよー!」
「ち、違うよ……だから、それはわたしじゃなくて……ノブなの。彼が命を預ける、って言ってるのは、わたしじゃなくて、ノブ……」
「……」絵里香は一瞬言葉に詰まるが、すぐに調子を取り戻して続ける。「大丈夫よ! だって、ノブの中の人はシノなんでしょ? なんなら私、タクとシノがうまくいくように応援するから! ね?」
「ほ、ほんと……?」
「ほんとほんと! もう、シノめっちゃかわいいわ! 抱きしめたくなっちゃう。ね、私、今日そっちのベッドで一緒に寝ていい?」
「ふぇっ!?」
しのぶはまた変な声を出してしまう。
恋の矢印が見事に四すくみの正方形を描いていることに、この時誰もが気づいていないのだった。
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