7

「ジョー」と、絵里香。

「タク」と、しのぶ。


「……よかったぁ! シノと戦うことにならなくて!」


 心の底からほっとした、という様子で、絵里香がため息をつく。しのぶも内心安堵していた。


「でも、意外だなあ」と、絵里香。「確かにタクもそこそこかっこいいけど、ちょっとナヨってしてるじゃない? 私、そういうのあまり好みじゃないんだよね。ちょっとチャラい感じだけど、ジョーの方がキリっとしててイケメンでしょ? 私、てっきりシノもジョーの方が好み、って思ってた」


「わたしは……ずっと、タクとペア組んでたから……」


「あ、そうか! 黄金ペアって言われてたんだもんね。それじゃ、その頃から好きだったの?」


 しのぶの顔が、耳まで赤く染まる。


「う、うん……実は……」


「かーわいいー! シノ、かわいすぎる―!」


 なぜか絵里香の両目がハートマークになっているように、しのぶには見えた。


「で、でも……タクと一緒にいたのは、わたしじゃなくて……ノブだから……タクはね、いつもノブに言ってた……マイ・ライフ・イズ・イン・ユア・ハンズ、って……」


「My life is in your hands」流ちょうな発音で絵里香が繰り返す。


「わっ……すごい、発音、上手……」


「これでもね、私、日米ハイブリッドだから。お父さんがF/A-18Eスーパーホーネットのパイロットだったの。今は地上勤務だけどね。だからホントは名字がもう一つあるんだよ。川崎・絵里香・アンダーソン、って」


「そうだったんだ……」


 どうりでちょっと大人っぽいし顔の彫りが深いわけだ。しのぶは納得する。


「話戻すけど、さっきのは、”ぼくの命は君に預ける”、って意味でしょ?」と、絵里香。


「うん。タクが何かの映画で見て、すごく気に入って、教えてくれたの。二人の合言葉にしよう、って……」


「合言葉? そう言われたら、シノは何て応えるの?」


「……マインズ・イン・ユアーズ」


「Mine's in yours……私の命もあなたに預ける、ね。なぁによぉ、もう、ラブラブなんじゃなーい! のろけないでよー!」


「ち、違うよ……だから、それはわたしじゃなくて……ノブなの。彼が命を預ける、って言ってるのは、わたしじゃなくて、ノブ……」


「……」絵里香は一瞬言葉に詰まるが、すぐに調子を取り戻して続ける。「大丈夫よ! だって、ノブの中の人はシノなんでしょ? なんなら私、タクとシノがうまくいくように応援するから! ね?」


「ほ、ほんと……?」


「ほんとほんと! もう、シノめっちゃかわいいわ! 抱きしめたくなっちゃう。ね、私、今日そっちのベッドで一緒に寝ていい?」


「ふぇっ!?」


 しのぶはまた変な声を出してしまう。


 恋の矢印が見事に四すくみの正方形を描いていることに、この時誰もが気づいていないのだった。


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