6


「エリー」と、巧也。

「シノ」と、譲。


「……お、きれいに分かれたな」譲はニンマリする。「よしよし。理想的な状況だ」


「ジョーは、エリーよりもシノの方がいいんだ」


「ああ。適性試験で出会った時から、ちょっといいなって思ってたんだ。"ノブ”の中の人って知った時は驚いたけどな。もともと俺の好みはどっちかというと、美人系よりかわいい系なんだ。エリーは確かに美人だとは思うけど、シノの方がかわいいだろ」


 それは巧也も同意するところだった。だけど、彼の好みはかわいい系より美人系なのだ。


「それに、エリーはたぶん性格悪いぜ」


「ええっ! どうしてそう思うの?」


「なんとなく、だけどな。あいつ、体にピッタリした服着てるだろ。あれはな、かなり自分の体に自信があるからできることだ。実際いい体してるよな」


 そこで譲はデレッとした顔になる。さっきから時折みせる彼のこの状態を、巧也は「スケベモード」と名付けることにした。


「ま、あいつはそれだけプライドが高い、ってことさ」と、譲。「それに、あいつは見るからに気が強そうだろ? そういう女は、俺はあんまり好みじゃねえんだ。まあでも、お前はそういう方が好みなんだろ?」


「うん……まあね」


 巧也は譲の観察眼に驚く。確かに彼の言うとおり、巧也はちょっと気が強そうな女の子が好みだった。自分に少し気が弱いところがあるから、かもしれない。


「それに、シノだって体はエリーにも負けてねえと思う」譲、再びスケベモードに。「彼女は自分の体が目立たないようにしてるけど、結構オッパイあると思うぞ。隠れ巨乳ってヤツだ。オッパイマスターの俺が言うんだ。間違いねえ」


「……」


 いったいお前はオッパイの何をマスターしたというんだ。心の中で巧也は譲にツッコミを入れる。


 ”それにしても、シノの胸が大きいとか、なんでこいつはそういうのがすぐ分かるんだろう……ホントにこいつは根っからのスケベなんだな。さっきも階段で町田二尉のスカートの中をのぞこうとして怒られてたし……”


 とりあえず巧也は、譲が何かやらかしてトバッチリがこちらに来るのはごめんだ、と思う。


「だけど、女の好みはそれぞれだからな。ま、何にしてもお前と好みがカチ合わなくて良かったぜ」


「……ああ」


 全くその通りだ。巧也は120%同意する。


---


 巧也と譲がそんな会話をしていた時、その五メートルほど真上の202号室では。


「ねえねえ、シノ」


 上の段のベッドからパジャマ姿の絵里香が下の段のベッドをのぞき込む。そこでは同じくパジャマ姿で横になったしのぶが本を読んでいた。


「なぁに?」と、しのぶ。


「シノはさ、ジョーとタク、どっちが好みなの?」


「ふぇっ?!」


 思わず変な声を出してしまったしのぶは、顔を赤らめる。


「ど、どうしてそんなこと……聞くの……?」


「だって、同じ人が好みだったら……こっちも、それなりの対応が必要だからさ」


「……!」


 心なしか、絵里香の目がキラリと光ったようだった。


 ”こ、怖い……”


 しのぶの顔に怯えが走ったのに気づいたのか、絵里香が慌てて首を横に振る。


「あ、違う違う。シノに危害を加えたりしないから。ただ、もしそうなったら正々堂々と魅力で勝負したいな、って思ってさ。でも、シノってかわいいから結構強敵だなあ」


「そ、そんなこと……ないよ……」


 そう言うと、しのぶはうつむいてしまう。どう考えても絵里香の方が綺麗なのに……勝てるはずがない……


「そんなことあるって。あ、そっか、シノ、もう彼氏いるの?」


 しのぶは首を横に振る。


「う、ううん……いないよ。エリーは?」


「私もいない。だから、もし良さげな男子がいたら、お付き合い出来たらなー、なんてちょっと楽しみにしてた」


「それで、良さげな男子……いたの?」


「うん……ちょっと気になる子はいる。シノは?」


「わたしも……ちょっと気になってる子は、いるよ……」


「だれだれ? 教えてよー」


「え……それは、ちょっと……恥ずかしいよ……」


「いいじゃなーい。私も教えるからさぁ」


「……ほんとに?」


「ええ。それじゃ、せいの、で一緒に気になってる人の名前を言おうよ。カチ合ったら、女の闘い、開始だね」


 絵里香がニヤリとする。ここはもう、言わないとどうにもならないようだ。しのぶは心を決める。


「分かったよ……」


「ようし。それじゃいくよ。せいの!」

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