5

 食事が終わった後の食器は、各自が各自使ったものを洗うことになっていた。それを終えて女子二名を先に部屋に戻らせてから、町田二尉はにこやかに、だけど異様な凄みを効かせた表情で、巧也と譲に向かって言った。


「お風呂は部屋にユニットバスがあるからそれを使ってね。あと、男子は二階には入れないようになってるから。君らのカードじゃ階段上がったところのドアは開かないからね」


「えー」譲が不満そうな声を上げると、


「……何か、問題でも?」


 ギン、とすさまじい視線で彼は町田二尉からにらみつけられる。


「……いえ、何も問題ありませんであります!」譲は直立不動で、敬礼。


「よろしい。私の部屋は201号室だから、もし何か急用があったら部屋の内線電話で201で呼んでね。それじゃ今日はゆっくり休んでね。明日から忙しくなるよ」


「はい、おやすみなさい!」敬礼したままで、譲。


「おやすみなさい」巧也もつられて敬礼する。


「おやすみ」ニッコリ笑って町田二尉も答礼し、階段を登り始めた。


「……」


 ニヤケ顔の譲が、なぜか小走りで階段の下に向かう。町田二尉の足がピタリと止まった。


「……川西君……いえ、ジョー」


 ドスの効いた低い声。


「!」明らかに譲はギクリとしたようだった。


「そこで、君は……いったい何をしているのかしら……?」


 ゆっくりと譲に向いた町田二尉の顔は、般若と化していた。


「い、いえ! 別に、二尉のスカートの中をのぞこうなんて全く思っていません!」


「そう……これだけは言っておくね」相変わらず低い声、般若の顔のままで町田二尉は続ける。「私、一応自衛官だから拳銃の所持が許可されてるのよね……」


「……!」


 とたんに、譲が弾かれたように直立不動になる。


「し、失礼しました!」


 敬礼し、回れ右して彼は二尉に背を向けた。


「じゃあ、おやすみなさい」町田二尉はいつもの優しい声に戻る。


---


 どうもこのユニットバス、っていうのは好きになれない。巧也は湯船につかりながら思う。それまでに彼は一度だけユニットバスを使ったことがあった。二年前に父親と石川県の小松基地の航空祭を見に行き、金沢のビジネスホテルに泊まった時だ。ちなみに譲はいつもシャワーだけで済ませるらしい。ぼくも夏の間はそうしようかな、と巧也は思うのだった。


 風呂から上がり、巧也はパジャマに着替えて部屋に戻る。この部屋にはテレビもラジオもないが、タブレットが一つ各自に用意されていた。椅子に座った巧也は机の上に置いてあるそれを手に取ってみる。インターネットにはつながっていなかったが、建物内限定のネットにはアクセスが可能だった。とは言えそこにあるのは航空力学がどうとか空中戦のテクニックがどうとかといった内容コンテンツばかりで、エンターティンメントに類するようなものは何一つないのだった。


「なあ、タク」


 自分のベッドでマンガを読んでいた譲が、ポツリと言う。


「なに?」


「お前さあ、ぶっちゃけあの二人の女、どっちが好み?」


「そうだなぁ……ぼくはやっぱ、町田二尉かな」


「だよなー! あのオッパイ、たまんねえよなぁ。やっぱ大人の色気ってヤツが……って、違ぇよ!」


 ナイス、ノリツッコミ。巧也は心の中で譲に拍手を送る。


「エリーとシノのどっちが好みか、ってことだよ!」


「そう言う君は、どっちが好みなんだ?」


「俺か? 俺は……やめた」


「え?」


「俺が先に言ってもしカチ合ったら、お前、遠慮して他の子の名前を言うかもしれないだろ? だから……そうだ、二人で同時に言うか。それなら何の遠慮もねえし」


「え、ええ……それ、どうしても言わなきゃなんないの?」


「おうよ。俺たち四人はこれからチームを組んでいくんだから、そういう情報は絶対必要だろ」


 巧也は譲の主張がイマイチ理解出来なかったが、言わなきゃどうしようもないらしい。


「分かったよ、ジョー」


「それじゃ、せぇの、で言うぞ。せぇの!」

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