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「二人とも、夕ご飯まだでしょ? まずは寮の食堂で四人対面ってところかしらね」
運転しながら、町田二尉が後席の二人を振り返る。
「はあ」と、巧也。
「わかりました。後の二人がどんな子か、楽しみね」と、絵里香。
「……」
それっきり、会話が途絶えてしまう。
なんだかすごく気まずい。こんな時、よく知らない女の子に気軽に話しかけられるような話題も勇気も無い。巧也は自分が情けなくてしょうがなかった。
ようやく巧也が、そうだ、DFっていう共通の話題があるじゃないか、と思いついた時だった。
「はい、ゲートに到着~」
町田二尉が車を停める。
「え、もう?」と、絵里香。
「ええ。だって、空港も基地も同じ敷地内みたいなものだからね。ここで持ち物検査するから、二人とも荷物を持って一旦降りてくれる?」
そう言って、町田二尉が一足先に車を降りる。
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基本的に、彼らの荷物は着替えと本くらいだった。日用品は用意されているし、携帯電話とかゲーム機とかパソコンとかは持ってきてはいけないことになっている。巧也も絵里香も持ち物検査はすぐに終わった。
二人と町田二尉は車に戻り、基地の構内に入る。暗くてよくわからないが、建物がいくつも並んでいるようだ。飛行機のようなものもあった。
「はい、宿舎に到着~」町田二尉が車を停め、エンジンも止めてしまう。
「ここが君たちの寮よ。私が寮母だから、今日から私もここに寝泊まりすることになるの。すぐカレー作るから、みんなで一緒に食べましょ」
そう言って町田二尉はドアを開けて車を降りる。続いて巧也と絵里香も降りた。
目の前に二階建ての小さなビルがあった。町田二尉が首にかかったカードホルダを玄関脇のリーダーにかざすと、ピッという音がして自動ドアが開く。
「そうそう、君たちにも渡しとかないとね」
町田二尉がポケットから二枚のカードを取り出した。
「はい、これが川崎さんの。こっちが中島君のね」
差し出されたカードを、絵里香と巧也は受け取る。首にかけるためのストラップが付いたそのカードには、「千歳基地構内立ち入り許可証」の文字と自分の名前、顔写真がプリントされていた。
「これがないと、君たちはこの基地のどこにも行けないよ。当然この宿舎もこれがないと入れないから、無くさないようにね」と、町田二尉。
「はい」絵里香と巧也は応える。
「さあ、どうぞ。土足で入っていいからね」町田二尉が開いたドアの中に入り、手招きする。
「……」
絵里香と巧也も言われるがままに中に入る。新築らしく、床も壁もとてもきれいだ。左側に二階に上がる階段があり、右側には八人掛けくらいのテーブル席が見える。壁際には台所のようなスペースがあって、電子レンジや冷蔵庫、炊飯ジャーも備わっていた。おそらくここは食堂なのだろう、と巧也は見当をつける。その向こうには廊下が奥に向かって伸びており、それに面して左右に一つずつドアがあるようだった。
「まずは自分の部屋に荷物を置いてきて。男子の部屋は1階の102号室。女子は2階の202号室ね。もう先客がいるからノックして入ってね」
「「はい」」
巧也と絵里香は返事をすると、そのまま自分の部屋に向かう。
102号室は廊下の向かって右側だった。ノックをすると、
「どうぞ」
と男子の声が返る。
「失礼します」
ドアを開けて巧也が中に入ると、そこは八畳くらいの広さのコンクリート打ち抜きの部屋だった。机と椅子が二つ並んでいて、その向かいに二段ベッドがある。その上の段に、巧也と同じくらいの年恰好の男子が寝ころんでいた。巧也に気付くと彼はパッと起き上がる。
「よう。悪いけど、早いもん勝ちで上のベッド取らせてもらったぜ」
笑顔がさわやかな、ちょっとチャラいイケメンという印象の男子だった。上半身はパーカー、下半身は使い古したデニムと随分ラフな格好だ。
「え、うん……別に、いいけど」
言いながら、ちょっと苦手なタイプかもな、などと巧也は思う。
「にしても、えらく遅かったなぁ。もう腹が減ってしょうがなかったぜ。君が来たってことは、ようやく飯だな」
そう言うと、彼はベッドから軽々と飛び降りた。
「じゃ、先に行ってるからな」
「あ、ちょっと……」
巧也は呼び止めようとしたが、間に合わなかった。彼はベッドわきに置いてあるスリッパに両足を突っ込み、パタパタと速足で部屋を飛び出していく。
”ったく、もう……自己紹介したかったのにな……”
無造作に荷物を下段のベッドに放り投げ、巧也も彼の後を追う。
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