第4章 仲間たち

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 いつもより短い夏休みは、あっという間に過ぎていった。夏休み中の登校日、巧也はクラスメイトに別れを告げた。


 いきなりの話で、彼と仲の良いクラスメイト達はかなりショックを受けたようだが、転校するのは半年ほどでまた戻ってくるから、と言うと、みんなホッとしたようだった。


 お盆が終わってすぐ、巧也は千歳基地に向けて出発することになった。茨城空港までは家族全員が見送りに来ていた。詳しい事情を知らない沙綾は、「お兄、六花亭のストロベリーチョコ買ってきてね」などと無邪気なものだった。

 

 家族と別れ出発口に向かう。ここからは初めての一人旅。チケットは町田二尉から送られてきていたので、チェックインはそれを見せるだけだった。セキュリティも事前にいろいろ両親から教えてもらっていたので、問題なく通過することができた。


 巧也が乗るのは茨城空港から新千歳空港への、夕方の直行便。と言っても茨城空港は彼がテストで出向いた百里基地の反対側。これらが一つにまとめられたのが百里飛行場なのだ。そして、千歳基地も新千歳空港と一つにまとめられて千歳飛行場と呼ばれる。どちらも官民共用の飛行場である。


 旅客機のフライトは、巧也にとっては戦闘機のそれと違って全く刺激に欠けるものだった。F-15のハイレートクライムに比べたら、旅客機の上昇はひたすらゆっくりとしか思えなかった。


 一時間ちょっとのフライトで新千歳空港に到着。ロビーから玄関を出る。既に日は完全に沈んでいるが、そこそこ暑い。ただ、彼の地元に比べたら少しカラっとしているようだ。


「あ、中島くーん!」


 声の方に振り向くと、降車レーンに停めてある白いバンの隣で、町田二尉が手を振っていた。いつもの制服、制帽のスタイル。相変わらずの豊かなバスト。そして……その隣には、絵里香の姿があった。適性試験の時と全く同じ服装。彼女のお気に入りなのかもしれない。そして巧也もその時と同じ、制服なのだった。普段ファッションに全く興味のない彼は私服のセンスに自信がなく、悩んだあげく、結局無難な制服に落ち着いたのだ。


「久しぶり、タク。君も合格したのね。よかった」絵里香がニコリとする。この笑顔をこれからは毎日のように見られるのか、と思うと、巧也は幸せな気分になる。


「うん。ありがとう、川崎さん」


「エリー、でいいよ。友達はみんなそう呼ぶし、TACネームもそうだから」


「う、うん……分かったよ、川……じゃなくて、エリー」


 ちょっと照れくさかったが、その名で呼ぶのは親しさがとても増すように感じられて、巧也は嬉しかった。


「さ、二人とも早く乗って。後の二人はもう到着してるから。お待ちかねよ」


 町田二尉が車に乗り込む。


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