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町田二尉に連れられて、二人は食堂に向かった。正直なところ巧也はあまり食欲を感じていなかったのだが、カレーの匂いを嗅いだ瞬間、ツバが口の中にあふれてきた。そう言えば今日は金曜日。自衛隊の食堂って金曜日はカレーの日で、そのカレーがとてもおいしい、っていう話だったっけ。巧也は思い出す。
その評判の通りだった。普通のカレーとはどこか違うのだが、それが何なのかまでは分からない。だけど、とにかくスプーンを持つ手が止まらない。まるでさっきまでの食欲のなさが嘘のように、彼はカレーをバクバク食べてしまった。
「コラ。ダメよ、ちゃんとよく噛んで食べないと」
向かいの席で同じくカレーを食べていた町田二尉がたしなめる。やっぱりこの人、先生キャラ似合うかもしれない、などと巧也は思う。
「ふいはへん(すみません)」
小さく頭を下げながら、ふと、巧也は隣に座っている絵里香の様子をうかがう。
「……」
思った通り、車に乗っていたときと同じような呆れ顔で、絵里香はスプーンを持ったままジットリとした視線を巧也に送っていた。彼はシュンとしてしまう。
"しまった……川崎さんにまた引かれてしまった……"
「ふふふ、おいしいでしょ?」町田二尉が表情をゆるめる。「ここのカレーにはね、隠し味に
「へぇ……」
巧也の目が丸くなる。そうか……この不思議な味の正体は、お茶だったのか。意外にカレーに合うんだな。
「ねえ、君たち」と、町田二尉。
「何ですか?」と、絵里香。
「はんへふか(何ですか)?」と、巧也。
「朝ごはんは何を食べてきたの?」
「私は和食です」絵里香が先に応える。「ご飯に味噌汁、納豆、白菜の漬け物、卵焼き、塩鮭……そんなところかな」
「へぇ!」町田二尉が目を見開く。「ちょっと意外。てっきりトーストなのかと思った」
「母が和食党なんです。でも父も普通に和食好きですよ。日本に住んで長いですから」
「なるほどね。中島君はどう?」
巧也が口の中のものを全て飲み込んだのを見計らって、町田二尉が問いかける。
「ぼくの家も似たようなものですね。ご飯にみそ汁、納豆、おかずは残り物のコロッケ……」
「そっか、君ら、納豆好きなの?」
「別に好きってわけじゃないですけど、家族はいつもみんな毎日朝はそれなんで。茨城には水戸納豆の水戸市がありますし」と、巧也。
「私は割と好きかな。アメリカ人だけど、父も結構食べますよ。お腹の調子が良くなるから、って」と、絵里香。
「さすが、川崎さんのお父さん、分かってるわね」町田二尉が、ニヤリとする。
「は?」
「実はね、君らが食べてきた納豆が、ひょっとしたら午後のテストで役に立つかもしれない」
「……?」
巧也と絵里香は顔を見合わせ、同時に首をひねる。
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