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「月額だと……二十万円は下らないかな」


「にじゅうまんえん!!」


 そんな額のお金、今まで一度も見たことない。巧也は呆然ぼうぜんとする。しかも月に一回それが支払われるというのだ。信じられない。


「それだけじゃないよ」ニヤリとして、町田二尉。「君が引き受けてくれるのなら、自衛隊は君を将来にわたってサポートする」


「将来、ですか?」


「ええ。高校や大学の学費も自衛隊が出すし、もし君が自衛隊関係の学校……例えば防衛大とか、そういうところに進学したいと思うなら、特別枠で進学できる。学費はいらない。むしろ、自衛隊の学校は学生に給料が支払われるんだからね。高校を卒業して、パイロットになりたかったらそのまま自衛隊の航空学生になるのもよし、いったん防衛大に進学して卒業後に航空課程に進むのもよし。防大卒業後に任官にんかん辞退――つまり、自衛官にならずに民間に就職してもいいよ。任官辞退は本当はあまりいいことではないけど、今回君がパイロットになってくれたら、君がそういう道を選んでも誰にも文句は言わせない。どうかしら?」


「……」


 正直、将来のことなんて全然考えていない。高校受験だってまだ一年以上先の話。巧也はそう思っていた。だけど……


 進学にはものすごくお金がかかる。それは彼もよく知っていることだった。近所の大学生のお兄さんが言っていた。国立大学に四年間通ったとしても学費は二百万円以上になるのだ。それを自衛隊が全部払ってくれる、という……しかも、自衛隊関係の学校だったら、学費を払うどころか逆に給料がもらえるらしい。


 巧也の両親は共働きで、父親は普通の会社員、母親は小学校の先生だ。貧乏とは彼も思わないが、裕福とも思わない。特に、彼の三つ下の妹が私立の中高一貫校に行く、なんてことになったらかなり厳しいような気がする。


 そうなると、自分の学費を全部自衛隊が持ってくれる、というのはかなり魅力的だ。自分がこの話にかなり乗り気になってきているのを、巧也は感じる。


 だけど、すぐには心を決められない。もう少し考えたい。それに、両親とも相談しなければならないだろう。それをそのまま巧也が言うと、町田二尉はニッコリとほほ笑んだ。


「いいよ。よく考えてね。これは決して無理強いしているわけじゃないから。君が嫌なら断ってもらって全然構わない。ただ、どちらにしてもこの話は絶対に他の人には言わないでほしい。それから、ご両親にはね、実は既に話をしてあるのよ」


「ええっ!」


 意外だった。巧也が思い出せる限り、両親が何かを隠している様子はなかったのだ。


「確かに最初はお二人ともあまりいい顔をしてくれなくてね。やっぱり君のことが心配なのよ。だって、機械相手とは言え空中戦をするわけだからね。それで、こちらも何度も安全性に問題はないことを説明して、ようやく納得していただいたの。最終的には中島君の意志にまかせる、とおっしゃったわ。だから、ご両親とも十分話し合ってね」


 そう言って、町田二尉は再びニッコリと微笑した。


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