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「ええっ!」


 巧也にとっては初耳だった。だが、言われてみれば、DFは他の同じようなゲームに比べたら戦闘機の操縦の難易度が高い。それはDFが他と比べてリアルだから、というのがネットの評価だった。まさか、航空自衛隊が監修していたとは……どうりでリアルなわけだ。巧也は納得する。


「中島君は、アメリカズ・アーミーっていうゲーム知ってる?」と、町田二尉。


「いえ……聞いたことないです」


「そう。アメリカズ・アーミーはね、その名の通りアメリカ陸軍が監修したFPS(一人称シューティングゲーム)なの。無料で誰でもが楽しめるんだけど、登場する武器がすごくリアルに再現されてる。そのゲームのプレイヤーが興味を持って陸軍に入隊する、っていうことも起こっているの。それを空自がマネして作ったのが、DFってわけ」


「……そうだったんですか」


「で、話を戻すけどね」町田二尉は右手の中指を立てる。「君が選ばれたもう一つの理由は、君がDFでもトップクラスの YF-23 使いってこと。F-23Jは基本的にYF-23と同じだからね。DFは君たちみたいな人間を探すために作られた、と言ってもいいわ。そして、最後の一つは」


 そこで町田二尉は右の薬指を立てた。


「君が中学生だってこと。これが一番大きな理由かな」


 しかし、巧也は首をかしげる。


「最初と次の理由は分かりました。だけどその、最後の理由が良く分かりません。なんで中学生であることがパイロット候補生の理由になるんですか?」


「これもね、詳しく言えば三つ理由があるの。一つは、中学生は大人に比べて体が小さいってこと。体が小さいのはね、戦闘機パイロットにとっては望ましいことなの。心臓から脳までの距離が短いから、戦闘中にG(加速度)がかかってもブラックアウト(頭から血液が下がって視界が暗くなる現象)しにくい。無人機は人が乗っていないから、原理的にGにはすごく強いわけ。それに対応するためには、こちらもGに強い人間をパイロットにする必要がある」


「なるほど」


 確かにそれは合理的だ、と巧也は思う。


「それからもう一つはね、中学生は記憶力が高まってくる年齢だってこと。あなたたちはパイロット候補生になったら航空力学とか色々勉強しなくちゃならない。覚えることもたくさんあるからね」


「……」


 ちょっとそれにはあまり自信がないかもしれない……と思ったが、巧也は口には出さなかった。


「最後の一つは、中学生は適度に大人で適度に子供、ってこと。常識にこり固まった大人が考え付かないような柔軟な発想も、中学生ならできる。実はそれが今一番求められているの」


「どうしてですか?」


「常識にとらわれているようではね、AI搭載の無人機には勝てない。勝つためにはAIの裏をかかないといけない。それにはやはり柔軟な発想が必要になってくるの。要するに、中学生は適度に『バカ』ってことね」


「……」


 これにはさすがに巧也もカチンと来た。が、彼の顔が険しくなったのを見て、町田二尉は慌てて付け加える。


「今のはめ言葉よ」


 とてもそうは思えない……けど、そう言うことにしておくか。それは巧也の「大人」としての判断だった。なるほど、町田二尉の言う通り自分は大人であり子供だ。まさに今、彼はそれを自覚させられた。


「とは言え、いくら『バカ』と言っても、最低限の学力は必要だからね。あと、もちろん体力もね。だから、もし君がこの話を受けてもいい、ということになったら、まず学力試験と体力試験を受けてもらうわ。だけど、先生に君の成績を見せてもらったけど、君ならたぶん余裕で合格できると思う」


 そう言って、町田二尉が山本先生に視線を送ると、先生が大きくうなずく。


「というわけで、どうかしら? 中島君、パイロットになってみたい、って思わない?」


 言いながら、町田二尉は小首をかしげて見せた。

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