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巧也がオンラインのVR戦闘フライトシミュレーションゲーム「ドッグファイト」(DF)を始めてから、もう二年。今日も彼は愛機 YF-23 に乗り、キャンペーンミッションに出撃していた。この機体は一年前のイベントでランキング10位以内に入ったプレイヤーに特別報酬として与えられたもので、今ではどんなに課金しても入手できない。
とは言え、そのイベントでの巧也の順位は9位。その下の10位が”ノブ”だった。共にギリギリのランクイン。それがきっかけとなって二人は意気投合し、以来ペアを組むようになったのだ。
現実の世界でも、任務時の戦闘機は常に二機単位で行動する。主に指示を出すのが
ペアを組んでから一年ほど。今や巧也と”ノブ”は互いのクセを知り尽くして、相性もバツグンのペアだった。おかげで撃墜スコアも急上昇。ランキングでも時々6位以内に入るくらいだ。
巧也と”ノブ”のペアでは、なぜか巧也がリーダーになることが多かった。性格的なものもあるのだろうが、DFを始めたのが彼の方が少しだけ早かったからかもしれない。彼はそう考えていた。
だが、現実世界の巧也はどこにでもいるような普通の中学二年生。ちょっと戦闘機に詳しいくらいで、クラス委員長とか部長とか生徒会長みたいな、リーダーシップを発揮するような立場にいるわけではない。
それでも、自分の部屋のゲーミングチェアに腰を下ろし、ゲーム機の電源を入れてゲーミングヘッドセットとHMDを装着、両足でラダーペダルを踏みしめ、右手にジョイスティック、左手にスロットルレバーをそれぞれ握ると、彼はスーパーエースの称号を持つ凄腕のバーチャルパイロット、”タク”に変身するのだ。
そしてそんな彼の頼りになる相棒が、”ノブ”だった。技術的にはほぼ互角。滑らかな日本語を話すので、おそらく日本人、それも声を聞く限り彼と同世代くらいの少年だろう。”ノブ”というTACネーム(
”ノブ”に出会う以前、巧也は色々なパイロットとペアを組んできた。多くのプレイヤーと
DFのプレイヤーには、大人もいれば明らかに海外からログインしていると思われる、英語しか通じない人もいた。と言っても、基本的にミッション中は日本人同士でも英語を使うことが多い。そっちの方が手っ取り早いのだ。おかげで彼はいつの間にか英語が得意科目になっていた。
それに、DFはきちんと物理シミュレーションをしているので、飛行機の動きは現実とほとんど変わらない。ちゃんと物理の法則に従っているのだ。だから巧也は飛行機の動きを理解するため、物理の勉強もし始めた。既に彼は中学の理科の範囲を越えて、高校物理にまで学習範囲を広げていた。さらに物理は数学を使うため、彼は否応なしに数学も勉強しなくてはならなかった。その結果、彼は数学や理科の成績も急上昇したのである。
そうなると、それまで巧也がゲームに熱中するのにあまり良い顔をしていなかった両親の態度も変わってくる。もちろん彼も、平日は一日一時間、休日は三時間までという約束はきちんと守るようにしている。
以前はクラスの友だちも一緒にDFをやっていたが、いつの間にか巧也のレベルについて行ける者は誰もいなくなってしまい、彼の仲間は見ず知らずのオンラインのプレイヤーだけになってしまった。もちろん”ノブ”の顔も本名も彼は知らない。だけど、彼は”ノブ”を昔からの親友のように感じていた。
自分はこれからもずっと”ノブ”とDFの中で同じ時を過ごしていくのだろう。その時の巧也はそう信じていた。
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